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「男性=正規雇用=常勤」という呪縛。


実は高齢化よりも、労働力不足の方が深刻。

 突然だが、少子高齢化の言葉を聞くと、何を思い浮かべるだろうか。多くの方は年金や医療、介護といった膨張し続ける社会保障費への危機感を挙げるだろう。

 それもその筈で、この国はシルバー民主主義社会ゆえに、高齢世代は年金や医療費の窓口負担が何割になるのかに関心が向きやすく、現役世代は国民負担率50%大間近の状況下、高齢者に押し潰されそうな恐怖感があるわけで、これ以上、社会保障の歳出が増えて、ただでさえ少ない自分らの可処分所得が、増税でこれ以上減ってしまったら死活問題となる。

 だからこそ、時を重ねるごとに膨張し続ける、社会保障費への危機感を挙げる方が多数派なのは自然なことだろう。

 しかし、個人的には少子化による労働力不足の方が深刻であり、これから20年以内に、社会全体でそれらが顕在化し始めるのではないかと予測している。

底辺職?エッセンシャルワーカー舐めんな。

 以前、新卒向け就職情報サイトで「底辺の仕事ランキング」の記事が炎上して話題となった。

 詳細を列挙すると、土木・建設作業員、警備スタッフ、工場作業員、倉庫作業員、コンビニ店員、清掃スタッフ、トラック運転手、ゴミ収集スタッフ、飲食店スタッフ、介護士、保育士、コールセンタースタッフが挙げられてた。

 共通点として、誰にでも出来る肉体労働かつ単純作業で低賃金。そんな底辺職と呼ばれる仕事に就きたくない方は、転職したり、スキルや資格を身に付けることが重要です。と締め括られていた。

 いわゆるエッセンシャルワーカー全般を、現場仕事に従事したこともない高学歴エリートが、上から目線で見下す、能力主義を履き違えた傲慢な態度が透けて見える内容と捉えられても致し方なく、日本社会で半数を占める非大卒の反感を買い、炎上に至ったのは想像に難くない。

 我々が日々、快適に過ごすための社会インフラを維持する職を担う方の多くは、最終学歴が非大卒であり、不安定な雇用形態や、低賃金で困窮するリスクを背負いながら、直接的に日本社会を支えている。

 こうした方々が日々の生活を一手に支えていることで、初めて大卒を中心とした頭脳労働者は、自由な働き方が選択できる環境で、やれリスキリングだ、社内副業制度だと選り好みできているのも、また事実である。

 だからこそ、黙々と現場で社会を支えてくれているエッセンシャルワーカーを、底辺職などと見下して、その方々が従事しなくなったら、誰が不動産や道路などを建設・運用し、商業施設の治安を守り、様々な工業製品の部品を作り、通販で頼んだ商品をピッキングし、便利なコンビニを運営し、施設を綺麗に保ち、物を運び、毎日ゴミを収集し、安くて美味しく、接客も丁寧な飲食店を運営し、介護したり、子どもの面倒を見たり、困ったときの相談窓口の対応をするのか。 

 2020年時点でエッセンシャルワーカーは約2,725万と、就業者数6,723万人の4割超を占め、必要とされる人数は、革命でロボットに置き換えられない限り、そう大きくは変わらないだろう。

 一方、出生数80万人割れと、人口動態から社会に供給される労働力のパイが減り続けるのは明白で、今までは就業者全体の4割が社会を支え、残りの6割でGDPを増やせば良かった状態が、近い将来、半々や6:4と付加価値を創る側が少数派となる。

 つまり、奨学金という名の借金を背負って良い大学を出ても、大企業のホワイトカラーの就活は益々熾烈となり、そこから抜け漏れると、生計を立てるために、内心見下していた底辺職に就くしかなくなる人が、今後増加するだろう。無論、非大卒と異なり大学を出た手前、奨学金の返済が重くのしかかり、身体を壊したり、重い病気を患った瞬間に、経済的に詰みとなる。

 おかしいのは、無くなると大勢が困る、社会に必要な生活必須職ほど低賃金で、無くても大きな影響のないような職業ほど高給な社会の構造であって、決して学歴が高くない方々が、人間として劣っている訳でない。

 それどころか、大卒になったところで得られるリターンが不確実=返せるアテもなく借金を背負い、大学に行くリスクを取らずに、低賃金を受け入れて高卒でエッセンシャルワーカーとして働く覚悟を決めた人の方が、地に足を付いた考え方で、耐乏生活にも慣れているから、ちょっとやそっとでは経済的に詰まない。エッセンシャルワーカー舐めんな。

人手不足でも働くハードルは下がらない。

 そんなエッセンシャルワーカーだが、物流や運輸、介護などで既に人手不足が深刻となっている。

 先述した高学歴社会の弊害で、高学歴エリートほど、努力ができる遺伝子を受け継ぎ、育った環境が良かった親ガチャSSRの事実が当たり前すぎて気付かず、傲慢になった結果、学歴や経済力を持ち合わせていない者を見下し、底辺職と揶揄されがちな3K職場が敬遠されるような価値観が、一般社会に醸成されたことで、誰もやりたがらない状況となってしまった。

 昨年生まれた75万人の赤子が、社会に出る頃に75万人以上増えることはあり得ない以上、労働力のパイは確実に減り続ける。一方で、高齢者数は2042年まで増え続ける。

 そうなると、誰が医療や介護を担い、社会インフラを維持するのか。現役世代だけで足りないなら、まだ働ける高齢者や、専業主婦層を掘り起こしているが、既に掘り尽くして頭打ち感が否めない。

 子どもに社会を支えて貰う訳にはいかない以上、残っているのは労働力を供給していない現役世代の男性。ステレオタイプで表現するとニートがそれに当たる。

 しかし、なぜニートは労働市場に参画させるのが難しく、放置されているのだろうか。それはジェンダーバイアスから来る「男性=正規雇用=常勤」という呪縛があるからだろう。

 まだ働ける高齢者(一度リタイアしている人)の場合、シルバー人材センターを介して、役所が公金を投入してご丁寧に仕立てた、短時間の軽作業を割り当てる。

 女性に関しても、専業主婦や家事手伝いと、職歴における事実上の空白期間も、社会通念上許容されているが、男性の場合は空白期間は問題視される。

 また、いざ復職するにも、高齢者や女性は短時間の軽作業から始めて、勤務状況に応じて徐々に慣らして、フルタイム側にシフトしていく形態がそれなりにあるが、こと男性に関しては正規、非正規問わずフルタイムが前提となっており、それが社会復帰の障壁となっているのもまた事実だろう。

 ジェンダー不平等を無くすことを謳うなら、男性の職歴に空白期間があっても許容されるべきだし、まずは週3回、短時間の軽作業からのような、本人のペースに合わせて継続的に労働力が供給できる形の、持続可能な社会システムにして、男性が働くハードルを下げていくことが重要だと思うが、いかがだろうか。


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