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何かを作る、何かを育てるってのはイイぞ。

色んなことが見えるし、わかってくる。

 ヱヴァンゲリヲン新劇場版に沼落ちした頃は、紛れもなく主人公側の世代だった筈だが、シン・エヴァンゲリオンを見届ける頃には、チルドレンに希望を託す大人側に限りなく近づいた事実に、時の流れの残酷さを感じずにはいられない。

 そんな作品に影響を受けた私だが、タイトルの名言にあるような、「何かを育てた」記憶が小学生以来ない。そもそも都会暮らしでガーデニングや家庭菜園は、心に余裕がなければ継続できずに荒廃するのが関の山である。

 玄関前の植物の手入れが行き届いておらず、雑草まみれだったり、空のプランターばかりが陳列されている、残念な一戸建て住宅を見るたびに、側から見ても植物に囲まれた生活を夢見たものの、育てるだけの余裕のない現実が伝わる。

 いっそのこと、何も置いていない方が掃除しやすい分、マシなのではないかと内心思ってしまう自分が居て、それがガーデニングや家庭菜園への敷居を上げる一因となっているのは想像に難くない。

 しかし早期退職と地方移住をしたことと、昨今の株式市場が好調であることから、心に余裕のある状態故に、駄目ならファストファッションと同様にワンシーズンでやめる前提で、試しにやってみる気になった。

 どうせ育てるなら、実用性があるものが良い。そんなしみったれた思想のもと、虫除けのハーブと、食虫植物を育てれば、忌避剤を買わずに夏を過ごせるのではないかと画策した。

 検討に検討を重ねた結果、生命力の強いペパーミントと、コバエの捕食率が高いらしいモウセンゴケを育ててみようと、株主優待が使えるホームセンターに立ち寄った。

 しかし前者は地方故に同じことを考える人が多いのか、苗も種も売っておらず、結局ヨドバシドットコムで種を購入。後者もコーナンなら取り扱っているらしいが、食虫植物はガーデニング好きな層にはウケない見た目からか、近場は取り扱いゼロ。

 駄目もとで少し離れたところにある、地方ローカルなホームセンターに出向いたところ、奇跡的に花開く前のものが、ひとつだけ置いてあったため、これも何かの縁だと思って購入した。

食わず嫌いせず、経験してみる大切さ。

 種を蒔いて芽吹かせるものと、既に芽吹いているものの花を咲かせてみる。異なるアプローチでどちらも狙い通り行くのか、やったことがないので分からない。

 だからこそ、取り敢えずやってみて経験を積むことで、向き不向きがわかったり、視野が広がることで、世界の見え方、捉え方が変わる。

 そう思うと、少しでも気になったことは、やらない理由を探し始めて、食わず嫌いになる前に、取り敢えず経験してみて、駄目だと思ったらすぐやめる。それくらいの潔さでトライアンドエラーを繰り返すことが、人生において深みを出す要素になるのではないかと考える。

 ちなみに花言葉は、ペパーミントが「心の暖かさ」「美徳」、モウセンゴケが「詐欺」「不誠実」「無神経」と出てきて、あまりに対照的で笑ってしまったのと同時に、モウセンゴケがあまり売られていない理由がわかったような気がした。

 私はそんなモウセンゴケの不名誉さに惹かれる。それは自身の性格の悪さに通ずる何かにシンパシーを感じるからなのかも知れないが、一番は花言葉など人間のエゴでしかなく、それとは関係なしに、植物は植物としての生命を全うしている力強さや、人類の利己主義への嫌悪感の表れが大きいのだと思う。

ファスト社会と、結果がスグ出ない投資。

 そんなわかったようなことを記しておきながら、ワンシーズンすら持たなかったら笑い話にすれば良いが、栽培と投資は、成果がスグに出ない意味では考え方は似通っている。

 種を食べずに栽培が上手くいくと、果実が得られる。投資もまた、種銭を上手く運用すれば実利という名の果実が得られる。どちらも将来が今よりも良くなることを見据えて、目先の利益を追わない点で共通している。

 しかし昨今の社会では、結果をスグに出すことが求められ、些か近視眼的ではないかと思うことが多々あり、長期的な目線で物事を考えられる人そのものが、減少しているのではないかとすら感じる。

 それは押し並べて日本社会全体が乏しくなっている、何よりの証拠なのかも知れない。

 偶数月に貰える年金が全てで、これから生まれるであろう子どもたちが増えたところで、その頃にはこの世に居ないから、自分達には関係ない。少子化対策の財源など知ったこっちゃないと考える高齢者。

 定年退職で貰えるであろう退職金を頼りに、権限を持ちながらもリスクを取ってまで大きな挑戦はしない。目立つような失敗もせずに、自分さえ良ければと考え、現状維持のまま逃げ切ろうと何もしない役人や中高年社員。

 そして奨学金の返済に追われて、貯蓄はほぼゼロ。今月の生活を乗り切ることが全てで、養育はおろか、結婚すら考えられる状況にない若年層。切羽詰まった者から受け子、強盗、パパ活に手を染める。

 現代日本で息が詰まるような生きづらさを感じるのは、社会全体の安直さから生み出される不寛容さが原因なのかも知れない。その意味で、答えや結果がスグには出ず、現状を受け入れ、時には辛抱強く待つことも必要な投資や栽培は、その空気感を変えるのに有効なのではないかと感じる今日この頃である。


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