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想像力を働かせる。

ゲーム理論。

 先日、「雷神と心が読めるヘンなタネ」という、小学生向けのゲーム理論の本を読んだ。ゲーム理論と聞くと、何やら楽しそうな雰囲気すら感じられるが、大学のアカデミックな場で数式を用いて履修するもので、世間一般で想像される「ゲーム」とは異なる。

 とはいえ、本書にもあるが、自分と同じ環境下で、自分の向こう側にも同じ心を持った相手が居ることをゲームと呼んでいる訳で、ゲーム理論が定義するゲームには、世間一般のゲームも内包しているのだろう。

 話が何やらややこしくなってきたが、ゲーム理論とはそう言った類の、ややこしい人間心理を数式を用いながら、論理的に相手の立場に立ち、最適な戦略を決定するための学問であるため、言葉だけで説明するのは非常にややこしい。

 しかし、本書は小学生でもわかるように、数式や専門用語の類を一切使わず、物語形式でゲーム理論の基礎的なメソッドである、標準型、後ろ向き帰納法、展開型、仮定、タイプ、コミットメント、フォーカルポイントを掴むための内容となっている。

 工業高校を卒業後に社会に出てから、学び直しで大学に在籍したは良いものの、高校時代に進学しない前提だったため、ミクロ経済学で~を微分するなどと、当たり前のように習っていない微分が出てきて卒倒した私でも、この本ならゲーム理論の概略を掴めるように構成されている。

 恐らく、2022年現在で、大学生よりも前の段階でゲーム理論に関して学べる本はこの一冊だけだろう。それくらい、アカデミックな場でしか登場しないゲーム理論だが、基礎的なメソッドだけでも知っておくと、人間心理の核たる部分が少しだけ分かるような、分からないような気になれる。

相手の立場に立つ。

 本書でも何度か出てくるフレーズだが、想像力を働かせて相手の立場に立つことで、自身の選択を最適化できると、投資の世界では実利に直結するため何かと便利である。

 一介の個人投資家として、これまでファンダメンタルズ分析を重要視していて、工業高校出身者ながら、商業高校なら学べた筈の簿記に始まり、金融、経済、心理学を大学で体系的に学んできたが、テクニカル分析で使えるような何かは心理学や行動経済学程度しか身に付いていないことに気付いた。

 よく、ファンダメンタルズか、テクニカルかといった二元論で捉えられがちだが、ファンダメンタルズ分析は「どの銘柄を買うか」を選定する時に有効な手法であって、テクニカル分析は、狙った銘柄を「いつ買うか」を判断するのに有効な手法で、それぞれ使い道が異なるため、どちらの手法が優れているのかを天秤に掛ける類のものではない。

 とはいえ、株式というのは出資者の権利を小口化した証券という性質上、将来の事業の成長を期待して株価が形成されるため、ファンダメンタルズ分析で的確と判断した銘柄を保有していれば、将来的には上昇が見込めるため、中長期目線での期待値は高くなる。

 一方のテクニカル分析は、財務などの企業の潜在価値を分析している訳ではなく、株式市場の需給バランスを読むことによって、短期的な天井や底を見極めるため、短期売買に適している。

 私がこれまでファンダメンタルズ分析を学んでいたのは、自身の投資手法が兼業で相場に常時張り付けない都合上、やむを得ず中長期投資に最適な戦略を選ばざるを得なかった事情がある。

 しかし、早期リタイアに踏み切れば、晴れて専業投資家となるため、短期売買で利ざやを狙うことも可能となり、引き出しを増やすために、兼業で定期的な収入があるうちにテクニカル分析を取り入れている最中で、その一端としてゲーム理論に触れているのである。

本を読むことで想像力豊かになる。

 とはいえ、いざ相手も生身の人間であり、感情があることを前提として、相手の立場で物事を考えるのはそれなりに難しかったりする。相手の思考が読めた気になっても、本心を読み違えている可能性もあり、図々しく直接話でも聞かない限り、読んだ心理が本当なのかも確かめようがない。

 これは、自身の人生経験のみで最適解を引き出そうとすると、どうしても偏ったものになりがちになる。しかし、自身が分身できる訳でもなければ、他人を乗っ取って脳内を覗き見することも現代では不可能とされている。

 だからこそ、心を読む前に本を読むことが、想像力を豊かにするための材料となるのである。本の種類にもよるが、小説なら登場人物それぞれの視点に立ち、物語を読み進めれば、その後の展開が読めるようになるかも知れない。

 いわゆる成功者の自叙伝であれば、成功者がどのような経緯で我々が知っている成功を収めたのかを擬似体験することで、自身の人生とは全く別物の人生経験を、経験知としてあたかも自身が経験したかのように引き出しを増やすことにつながる。

 恐らくその集合知によって、投資ならチャートの形状から、その後の展開がある程度読めるようになったり、板読みで需給バランスや売り板、買い板の人達の心理状態が何となく察しが付くようになり、その裏をかくことで短期売買で利ざやを得ることにつながるのかも知れない。

 社会に出て、賃金労働者の道を歩むようになると、本を読まなくなる人が圧倒的に多い。本は人の叡智の集合体なのだから、読んでおくに越したことはない。


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