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上場廃止のTOBに応じない場合の税金。

3つの中から選ぶ上場廃止のTOB。

 子会社や中小型株の上場株式ホルダーあるあるで、親会社や大企業が株式公開買付(TOB)を行い、完全子会社化することで上場廃止となることがある。

 投資家の経年を学生で表せば中学生レベルの私でも、既に3度のTOB経験があるから、そこまで珍しいものでもない印象である。とはいえ、毎回異なる条件で買付されるため、その時々に応じて対応が異なる煩わしさがある。

 上場廃止が前提の場合、全ての株式を買い付けなければならないことから、どのみち保有し続けることはできない。それでも売却方法が3パターンに大別できる。

①TOBに応じる
→幹事証券会社だったら超ラッキーで応じない理由がない。移管するとなると何かと面倒。

②上場廃止前に市場で売却
→TOBの提示価格よりも安値になってしまう反面、面倒臭さはない。NISAで①が嫌ならこれが無難。

③TOBに応じない
→強制買い取り(スクイーズアウト)。要確定申告。非上場株式同士でしか損益通算できない。繰越控除なし。

 私は3度しかないTOB経験で、上記の③以外を全て経験しているが、肌感覚として情報が少ないのはスクイーズアウトの場合だろう。

 同じ株式でも上場株式と、非上場株式とでは、税制の扱いが異なるため、NISAで保有している人は①か②で売却しなければ、非課税メリットが享受できない。

NISA保有で強制買い取りは、課税対象。

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/joto-sanrin/nisa_10per.pdf

 NISA開始時の国税庁のパンフレットにもあるように、「少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置」と定義されていることからも、非上場株式の譲渡所得は対象にならないと読める。

 とはいえ、①のケースで幹事証券会社以外だった場合は、幹事証券会社に移管する際にNISAから課税口座に移管されることから、移管時の時価との差額部分(譲渡益)はNISAの非課税部分が適用され、移管時の時価と、公開買い付け価格との差額部分が、譲渡益として20.315%の所得税、住民税が徴収される。

 銘柄や投資額にもよるが、1単元そこらの少額投資家の場合、時価とTOB価格との差額が数百円の場合が往々にしてあり、この数百円の0.8掛けした利益のために、わざわざ幹事証券会社の口座開設手続きと、移管手続きと、TOBの申し込みを行わなければならないと考えると、①がいかに面倒臭いかが想像に難くないだろう。

 だから多くの投資家がたとえいくらか安くても、②の市場で売却を選ぶのである。その端数の安値が幹事証券会社の口座を持っている人間の、肥やしになるのが世の常だが、TOB価格近辺で買ってくれる人がいるからこそ、兼業投資家が面倒な移管手続きを踏むことなく、市場での売却が成立している側面もあり、必要悪的な部分ではある。

損益通算不可も、個人の税率となる妙味。

 上場廃止前に幹事証券会社の口座を持っている人が応募して、持っていない人が市場で売却するからこそ、TOBの応募も、市場売却もしない、強制買い取りの情報が少ない。

 税制上、非上場株式の譲渡所得は、上場株式のそれと異なり、「一般株式等の譲渡所得等」に区分される。

 基本的には上場株式の方が手厚く、源泉分離課税、損益通算、繰越控除のオプションが付くが、非上場株式の場合は総合課税。

 損益通算もざっくり記すと同じ非上場株式の中でしか出来ないと捉えた方が良いが、そもそも暦年で複数の非上場株式を売却する機会など、中小企業オーナーならともかく、パンピーならほぼない。

 だからこそ半数以上の個人投資家が、強制買取による金銭交付後に、必要な税務申告を行わず、結果として申告漏れが多発している。

 税理士である必要はないが、相応の税務会計知識がない人。特にサラリーマンの兼業投資なら要確定申告の③は避けるべきだが、相応のリテラシーがある低所得者(かなりレアケース)の場合、総合課税となる点に強制買取の妙味がある。

 源泉分離課税であれば、譲渡所得がいくらでも住民税5%+所得税15%(簡略化のため復興特別所得税除く)の一律20%となるが、総合課税の場合は住民税10%+個人の所得税率が適用される。

 つまり課税所得が195万円以下であれば、所得税率は5%なのだから、総合課税となる③を選ぶ場合、一般株式等に係る譲渡所得等の税率は15%と、上場株式のそれと比べて5%低い税率が適用される。

 もちろん、損益通算できないデメリットが存在するため、上場株式で損切りした際の損失をカバーしたい思惑があるなら、おとなしく①か②を選択した方が良いが、満額で買い取ってもらった上で税率が安くなるなら、③も選択肢としては浮上するだろう。

 ちなみに源泉分離課税を選択しても、確定申告で譲渡所得として申告することで個人の税率が適用されるため、上場株式扱いで売却すればどちらも選べるものの、証券会社が発行する年間取引報告書の全額となってしまうため、敢えてスクイーズアウトで1銘柄だけピンポイントで総合課税にできる部分に、使い所があるかも知れない。


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