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デフォルトを意識した資産配分。

インフレに陥り、預金は切り捨てられる。

 アメリカの債務上限問題が再燃している。また茶番劇が始まったと捉えるか、今度こそ破綻すると捉えるかは各々の自由だが、大切なのはもし仮に債務不履行(デフォルト)となった際に、金融市場でどのような影響が想定されるかである。

 デフォルトとは、アメリカ合衆国が色を付けて返すと約束して、借りた借金の返済を反故にすることから、借用証書である債券はその価値を失ってしまう。

 国が借金を返さないということは、その国が発行している貨幣(米ドル)は信用不安に陥る。現在の通貨は不換紙幣で、通貨そのものに後ろ盾となるゴールドなどの資産は紐づいておらず、国の信用力がそのまま通貨の価値に直結していることから、信用問題となると文字通り紙切れとなる可能性が高い。

 実は日本でも敗戦時に財政破綻しており、国債をタダ同然で償還するパワープレイを行ったため、債務不履行ではないものの、事実上のデフォルトとなっている。ちなみに外貨建て国債はしっかりデフォルトしている。

 これにより日本円は年率58%のハイパーインフレとなり、政府は対策として金融緊急措置令により預金封鎖で、生活に必要な最低限度額(現在価値で世帯主12万円、世帯員4万円)しか引き出せなくなった際に、新円切り替えを実施した。

 引き出せない預金はインフレで目減りするため、事実上の預金切り捨てである。

 これは第一次大戦で敗戦し、ハイパーインフレを事実上のデノミネーションで対処したドイツと、手法こそ異なるものの、国民の預金が切り捨てられた意味では大きく変わらないだろう。

あるドイツ人兄弟の話。

 私が小学校4年生の時、担任のイケおじ先生が社会の授業で、敗戦したドイツのハイパーインフレで定番の、札束で積み木遊びをする子供の写真が載っている教科書をガン無視して、あるドイツ人兄弟の話をし始めた。

 勤勉な兄は仕事で稼いだ金の全部を使わずに慎ましく暮らし、将来に備えて貯蓄に励んでいた。その一方で、弟は怠惰かつアル中で、仕事はほどほどに、稼いだお金でビールを飲んだくれる日々に明け暮れ、ビール瓶を庭に捨てていた。

 しかし、ハイパーインフレによって、勤勉に貯蓄していた兄の預金は価値がなくなったため貧乏になり、弟は庭に捨てていた空き瓶を資源として売ったことで、お金持ちになった話である。

 不真面目な私は、真面目に働けばいつか報われる的な、日本人の苦労信仰を真っ向から否定し、怠惰でも一発逆転のチャンスがある、なんとも夢のある話を始めて聞いた時に、別に不真面目でも構わない大義名分が得られた気がして、授業で習ったことはロクに覚えていないくせに、この話だけは鮮明に覚えている。

 それと同時に日本はバブル崩壊前まで、定期預金の利率が6%超だったことや、長らくデフレ経済が続いていたため、預金こそ正義的な風潮が否めなかった。

 しかし、預金一辺倒ではインフレ負けすることを、小学4年生で言語化できずとも肌感覚で理解していたことから、預金は必要最低限に留め、それ以外は資産価値のある「何か」に換えておく習慣が、昨今のインフレで活かされており感慨深い。

資産保全のゴールド、運用の株式。

 話を米国に戻そう。米国債券がデフォルトした場合、世界の基軸通貨である米ドルの根幹が揺らぐことを意味する。そのリスクに備える動きが出ているからこそ、「有事の金買い」でゴールドの価格が上昇している訳である。

 しかし、ゴールド自体が価値を生むわけではなく、資産の保全はできても、運用とは言い難く、私はコロナショックでGLDを売却して以降、ゴールドも関連銘柄も保有していない。

 では、株式はどうか。グローバル化に伴い、米ドルの影響を受けずに経営できるグローバル企業は殆ど存在しないのではないだろうか。そうなると株価は、債券ほどでないにしても、一時的に大幅下落する可能性が高い。

 しかし、通貨の価値が毀損したことで、お金の融通が滞ることはあっても、企業の潜在的な価値が毀損した訳ではない。

 金融関連銘柄は例外かも知れないが、米ドルが紙切れになったところで、Amazonで商品を注文する人、iPhoneを買いたい人。スーパーやコンビニで食べ物を買いたい人のニーズが、ごっそり無くなる訳ではないのだから、一時的な打撃はあっても、体力のある企業は生き残り、経済が安定すれば株価も元の水準に戻るものと思われる。

 現に設立年が19世紀の上場企業で、地方銀行や東京ガス、日本郵船、商船三井、三菱倉庫、帝国ホテル、東武鉄道などが存在することからも、自前の事業によって利益を得ている企業は、デフォルトやハイパーインフレを乗り越えられる可能性が高い。

 裏を返せばサービス業は、付加価値で対価を得る事業の構造上、人類の根源的な欲求に応えている訳ではないため、生き残りが難しい側面があるように思う。現に長寿企業にサービス業の割合は低く、建築業や製造業が多い傾向にある。

 個人的にはゴールドも、サービス業ほどでないにしても、同じ側面があると考えており、ゴールド自体は希少性で価値が担保されているだけで、それ単体で衣食住が満たされる訳ではない。だから金投資には消極的だ。

 バフェットさんの名言にもあるように、自分が簡単に理解できる企業を投資対象としていれば、国債がデフォルトしても株価下落は一時的なもので、経済が正常化するまでの間に、飢えを凌げるだけの現物資産や資源を有してさえいれば、ポートフォリオの比重をゴールドに寄せなくても良いのではないかと思う。

 そう思える程度に株式市場が好調な証拠だと突っ込まれると、ぐうの音くらいは出るかも知れない。


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