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受益超過な一年。

支払った税金以上の社会保障。

 吾輩は鉄道員である。年収はまだ少ない。航空機パイロットよりも多くの人命を預かり、ワンミスが人殺しに直結しかねない作業を行いながら、20万円に満たない手取りで慎ましく生活している。高所得な頭脳労働者よりも、日々の生活インフラを支えているエッセンシャルワーカーの方が、誰にでもできる単純作業だからと賃金が少ない。とにかくこの世は生きづらい。

 そんな、寿命を縮めるような不規則な勤務形態と人的ストレスを受けながら、やっとの思いで手に入れた年収400万円のうち、2割は行政機関によって徴収される。まさに泣きっ面に蜂である。

“税金は所得税が86,000円、住民税が173,500円。年金は333,060円。社会保険料は211,848円。合計804,408円。”

リテラシーが低いと煽られる|Feu

 常々そんなことをぼやいている私に、あまり歓迎していない転機が訪れた。入院と手術である。知識でしか知らなかった高額療養費制度をまさかこんな形で使うことになるとは夢にも思わなかった。

 そして、図ったかのように標準報酬月額の等級が26万円に下がっていたのが幸いし、自己負担の上限が28万円以上の等級比で22,500円以上安くなったのは、怪我の功名と言えるのかも知れない。

 それに、退院時の会計では気にしていなかったが、半年ごとに送られてくる健康保険組合からの医療費明細を改めて確認したところ、ひと月の総額が100万円弱となっており、90万円近くは健康保険組合からの負担である。

 これは年間で支払っている社会保険料どころか、税金や年金として徴収された分まで回収している計算となる。7/2の正午に1年の半分が経過したことになるが、既に昨年徴収された税金のもとを取っている人間がここに居る。

使い潰すのは社会保障だけとは限らない。

 賦課方式の年金はともかくとして、それ以外で徴収されている税金などは、公共設備を積極的に活用することで、重税感は薄れる他、寄付金控除を利用することで、同じ税金を納めるにしても、返礼品が貰えて少しでも得が出来る制度は使わなければ勿体ない。

 控除や非課税制度は敷居が高い人でも、図書館は活用する価値がある。最近出来た新しめな図書館であれば、新聞、雑誌、本が好きなだけ読めるだけでなく、住民は貸し出しと新刊を予約する可能で、時間を要しても読めれば良いのであれば、図書館に新刊を買って貰うことで、身銭を切らずに読むことができる優れものだ。

 また、書架は空調、Wi-Fi、コンセント、給水器が完備されていたりと、下手なコワーキングスペースより快適かつ、飲料が持ち込み可能な場合は、お気に入りのコーヒーを魔法瓶に入れて持ち込めば、カフェに行く必要がなく半日以上潰せるからお財布にも優しい。

 図書館を週2日利用するだけでも年間で100回以上利用する計算となり、毎回1,500円程度の本を一冊読むとしても年間で15万円分の知識を手に入れているに等しく、雑誌や新聞代も考慮すれば、年収400万円会社員が支払う年間18万円弱の住民税は決して割高ではない。

スネかじりでいいじゃないか。人間だもの。

 以前、「今でしょ!」の先生が出ている番組で「年収890万円以下は社会のお荷物」説が物議を醸した。この年収890万円という数字にこれと言った根拠は見当たらなかったものの、国民ひとりあたりが受けている行政サービスの概算値をざっくりと歳出/人口で算出することにする。

 令和4年度の歳出がおよそ108兆円、日本の人口が約1.2億人だから、国民ひとりあたりおよそ90万円程度の行政サービスを受けている計算となる。

 年収の2割は税金や社会保険料であることを考えると、最低でも90万円/0.2=450万円程度の稼ぎがないと、納めている税金よりも、受けている便益の方が大きい受益超過と捉えることができる。

 日本人の平均年収は400万円程であるが、平均というのは往々にして一部の外れ値が平均を押し上げたり、反対に押し下げたりして、実態が把握しづらい側面がある。実際、平均年収は前者で一部の高所得者層が平均を押し上げているため、中央値は統計にもよって異なるものの、概ね360万円程となっている。

 つまり、私を含む日本人の半数以上は、支払っている税金や社会保険料よりも、受けている便益の方が大きく、スネかじりなのである。

 よく公務員に対して、「税金で生活しているくせに」と苦情を言っている残念な方を稀に見かけるが、その中で受益超過な方の割合がどれほど居るだろうか。鉄道員としての経験上、この手の文句を一丁前に言うやつは、大抵の場合、大したお金を落としていないどころか、ぶら下がりだったりするからタチが悪い。

 最近でも、公立図書館で、年代的に明らかに年金生活者であろう高齢者が自身のITリテラシーの低さを棚に上げて、司書に対して「使い勝手の悪くなったシステム改修なんかに税金使いやがって」的な苦情を大声で威張り散らしていた。

 若者側からすれば、見やすいUIとサーバーレスポンスの向上で格段に使いやすくなったシステム改修で、あまりにも的外れで、法治国家でなければ階段から突き落としてやりたい衝動に駆られたが、「あんな老害になったら終わりやなぁ」と思いながら、有り難く公共設備を利用させて頂く今日このごろである。

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