見出し画像

人はロジックではなく感情で動く。

運用で損小利大にならない理由。

 財テクの類でよく聞く言葉のひとつが「損小利大」である。一定のルールに基づいた合理的な損切りと、短期的なちょっとの利益で満足するのではなく、長期目線で大きな利益を狙うことで実現できる、至ってシンプルなロジックである。

 しかし、人間には感情があって、例え頭で分かっていても、理屈通りに動くことができないことは、行動経済学のプロスペクト理論で証明されている。

 プロスペクト理論とは、将来が不確実な状況下で利益がある場合、利益を失うリスクを回避するためなら価値を割り引いてでも確実性を取り、損失を抱えている場合、それを回避するためにリスクテイクする傾向があると言った内容である。

 確実に100万円貰えるのと、コイントスで表が出たら200万円、裏ならゼロとなる場合、期待値が同じでも人は前者を選ぶ。

 反対に200万円の負債を背負っている場合、確実に支払う代わりに100万円に割り引かれるのと、コイントスで表が出たら全額免除、裏なら200万円をそのまま支払う場合、期待値が同じでも後者を選ぶ。

 価値の大きさと金額は比例せず、金額が2倍になっても価値は1.6倍程度で釣り合う。つまり、コイントスで半分の確率で200万円が貰える場合、確実に貰える額が62.5万円以下まで減額されなければ、多くの人は確実に貰える方を選び、コイントスで半分の確率で200万円の負債が免除される場合、確実に支払う金額が62.5万円を下回らなければ、ゼロになるかも知れないコイントスに賭けてしまう。

 しかし、利益を取りに行く局面で期待値を割り引き、損失を被る局面でリスクを取っていては、損小利大どころか、利小損大となるのは明白である。

損切りが好きな人など居ない。

 だからこそ、損切りラインを設定して、通常時にそれを割り込んだ場合に、躊躇せず実行することが重要なのである。損切りは痛みを伴う。誰だって好きではない。しかし、塩漬けにして資金効率が悪化してしまったり、更なる下落で含み損が増大し、含み益を圧迫してトータルリターンに悪影響が出ることも往々にしてあり、それらを防ぐためには損切りは有効である。

 それに、同じ割合で株価が上下したところで、株価は元に戻らない。例えば、1,000円の銘柄が20%下落したら800円だが、そこから20%上昇しても960円である。逆に1,000円の銘柄が20%上昇したら1,200円だが、そこから20%下落しても960円である。

 数字に弱い人は訳が分からないかも知れないが、これは下落する時の方が元の数字が大きいため、価格が上下した割合が同じであっても減少するのである。

 つまり、株価が20%の含み損を抱えてしまった場合、80/100の逆数である1.25倍。つまり、そこから25%上昇しなければ収支トントンにはならない。3割下落なら約43%、4割下落なら約67%、半値なら2倍に上昇しなければ元の価格には戻らない。

 マイルールでは、株価が取得単価から20%上昇したら利確を検討するラインであるため、反対に20%下落したら基本的には損切り、状況によってはナンピン買いを行うことにしている。短期での運用で2割上がるだけでも相当凄いのに、一度反対方向に作用してしまうと、そこから2割以上戻してトントンなのだから、状況としては絶望的である。

 ここで多くの人はプロスペクト理論で説明されている損失回避性によって、例え期待値が低くとも損切りせず、塩漬けして一発逆転にかけてしまう。

 しかし、仮にこれで運良く元の価格に戻ってしまった場合、損切りせずに塩漬けしたことで、損をせずに済んだと言う成功経験と錯覚してしまい、同じ利小損大を繰り返してしまい、それでは成長がなく、いつか来る相場の波に飲まれる可能性が高い。

 だからこそ、想定したシナリオと違う形で下落した際には躊躇せず損切りし、これと言った材料がなく含み益が出ている時には堪えて保有し続ける胆力が必要である。

 損切りの観点から、損益通算できず、売却した分の非課税枠も復活しないNISA口座で運用するのはお勧めしない。やはり非課税枠はどう足掻いても利益に対して2割強の税金が取られる、外国株式や投資信託に充てて、日本株は特定口座でキャピタルは損益通算。インカムは課税所得330万円以下であれば、配当控除で実質的な税率を7.2%まで圧縮するのが無難だろう。

兼業投資の専業化で何が変わるか。

 日本株と米国株を半々で、後者はNISAで運用するため非課税枠上限まで淡々と積み増し。前者に関しては高配当銘柄が主力となっているから、特定口座で運用し、税制上の低所得者と言う立場をフル活用して、手取り率92.8%で配当金を受け取る。

 そして、暦年単位のキャピタル課税は損切りを行う際に、損失よりも少しだけ大きめの額で利確を行い、キャピタル課税を圧縮しつつ、運用方針に合わなかった銘柄から、新しい高配当銘柄に組み替えつつも、最低限の納税に留めている。その甲斐や地合いの良さもあってか、運用して数年になるが損失を繰り越したことは未だない。

 とはいえ、これまでは兼業投資家として、賃金を得ていたから、地合いが悪い時には淡々と積み増せば良かっただけで、早期リタイアに踏み切ると、再投資に回していたインカムは生活費へと消えていく。

 生活レベルを落とすことなく、コストを削減するために地理的アービトラージを活用して、マージンを確保するつもりで、退職後に地方都市に移住する気でいるが、それでも給与所得がなくなる分だけキャッシュフローは悪化する。

 この環境変化をいくら考えたところで、実際に体感してみないことには始まらないが、少なからず感情が変わり、運用方針に何かしらの変化が出るのは間違いないだろう。欲しいものを手に入れるためにリスクテイクするような事態になり、却って損をすることにならないよう、過渡期である今のうちに出来る対策はするに越したことはない。

 最近は新型Kindle代を買うお金はあるのに、少しだけ利ざやを狙い、持ち出しゼロで手に入れようかなどと、くだらないことばかり考えている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?