京都市長選挙2024で福山和人候補に勝利の芽はあったのか?~出口調査の結果から各政党支持層別の推計票数を割り出す~

 去る2024年2月4日(日)に大激戦となった京都市長選挙が投開票を迎えた。この京都市長選挙は日本維新の会も参入して、一時は三つ巴の選挙とも目されていたが、維新から推薦を受け取っていた村山祥栄候補が政治資金パーティー絡みで失速し、終わってみれば、構図としては過去の京都市長選挙通りの親共産vs反共産陣営の戦いではあったと言えよう。
 結果は自民・公明・立憲・国民から推薦を受けた松井孝治候補が177,454票を得て当選となり、共産党から支持を受けた福山和人候補は161,203票と16,251差及ばずの敗戦となった。終盤にかけては数ポイント差の大激戦であったが、結果としては得票率3.5%差で勝敗を分けることとなった。
 今回の記事は、この京都市長選挙を京都新聞社の出口調査結果を踏まえて、各候補者に各政党支持者からの票が何票あったのかを推計値として算出した上、その数値を踏まえて、果たして福山和人候補に勝利の芽はあったのか?福山和人候補が勝つためには、あとどれぐらいの得票率を各支持層から得るべきだったのかを考察していきたい。

支持政党別の各候補者の推計得票数

 上記の図表が京都新聞の出口調査の結果に基づいて、私が推計値を算出した、各支持政党別の候補者の得票数である。表の見方としては、まず一番左側が各政党の支持率となっている。自民党は23.1%と、昨今の「政治とカネ」の問題により、かなり下がって来ている印象ではある。共産党は12.9%と京都では根強く比較第2党の座を死守している。日本維新の会は京都でもそこそこの支持率はあって10.3%となっている。野党第一党の立憲民主党は泉健太代表のお膝元にも関わらず5.2%と低めとなっている。公明党は4.0%である。京都2区(左京区・東山区・山科区)が地元の前原誠司衆議院議員が立ち上げた教育無償化を実現する会は、地元でもまだ浸透していないのか、0.4%に留まっていた。その他、主なところだと国民民主党が2.1%、れいわ新選組が2.0%、その他の政党・無回答も2.3%となっていた。そして、ポイントとなる無党派層は全体の1/3超の36.7%にも上っていた。自民党支持層が離れて、その離れた層が無党派層に溜まっているというのが、昨今の政治情勢のようにも見受けられる。

 その政党支持率の割合に対して、候補者5人の合計の有効得票数である468,016票を掛け合わせた数値が、その隣の欄の推定票数である。これで各政党支持者の票数がどれだけあるかを推計値として出している。但し、政党支持率が小数点第2位で四捨五入している影響で政党支持率の合計値が100.2%と100%を超えてしまっている。そのため、実際の票数とは936票ほど多くなってしまっているが、その点をご了承頂きたい。
 この支持政党別の票数が、支持率23.1%の自民党だと108,112票、12.9%の共産党だと60,374票、10.3%の日本維新の会だと48,206票あると推計される。選挙結果を握るとして焦点となった立憲民主党は支持率5.2%だから、票数としては24,337票と、決してそこまで大きい票数ではなかった。立憲民主党支持層の票数と選挙結果の考察に関しては、後ほど詳しく述べていきたい。全体の36.7%を占める無党派層に関しては171,762票と、やはりこうやって票数の数値を見ると、今回の京都市長選挙は如何に無党派層が大票田だったかということが伺える。この考察も後ほど述べていく。

 この各政党の支持者の推計票数を算出したところで、この票数を各候補者の支持政党別の得票率に割り振っていく。ここでも小数点第2位以下四捨五入につき、実際の票数とは多少の誤差が生じている支持政党も存在することをご理解頂きたい。
 それで、この表では示されていないが、京都新聞の出口調査においては、自民党支持層からの得票率では松井孝治候補が63.4%となっている。この得票率に先ほど算出した自民党支持層の推計票数108,112票を掛けると、68,543票となる。これが、松井孝治候補が自民党支持者から得た票数であると推計される。同様に自民党支持層から14.1%の得票を受けた福山和人候補だと15,244票、11.5%だった村山祥栄候補は12,433票、10.9%だった二之湯真士候補は11,784票であったと推計される。
 こうやって見ると、福山和人候補の自民党からの得票率が他の2人の候補者よりも多く、14.1%の15,244票も受けた点は大健闘であったのではなかろうか。福山和人候補で最も褒めるべき点は自民党支持層にも約14%、1万5000票も取り込んだことであると思える。逆に松井孝治候補は自民党支持層からの得票率が63.4%と固めきれなかったことが苦戦の要因として挙げられるのではなかろうか。自民党支持層の票が、68,543票-15,244票=53,299票の差で「済んだ」ことは福山和人候補にとっては大きかったかもしれない。

 次に福山和人候補が支持を受けていた共産党支持層の票を見ていこう。共産党の支持率は12.9%で、推計票数は60,374票となっているわけだが、うち91.3%を福山和人候補が得票している。推計票数にすると55,122票になる。対して、松井孝治候補は4.3%であり、2,596票と推計される。むしろ、共産党支持者でありながら、4.3%も松井孝治候補に投票する人が存在するのは意外に思われるぐらいかもしれない。そして、この票差を求めると、55,122票-2,596票=52,526票となる。これは先ほど述べた自民党支持層における票差の53,299票とほぼ同じぐらいの差である。
 すなわち、自民党支持層と共産党支持層を足し合わせた票数は、松井孝治候補と福山和人候補でほぼ同数だったというわけだ。具体的に票数で確認すると、松井孝治候補が、68,543票+2,596票=71,139票で、福山和人候補が15,244票+55,122票=70,366票というわけである。それぞれの支持層を足し合わせた数では、まさしく、がっぷり四つであった選挙だったのだ。

 では、両者の16,251票差の明暗を分けたのは何だったのか。それは4.0%ほど存在する公明党支持層の票である。公明党支持層の票は18,721票と推計されるが、うち91.9%が松井孝治候補に乗っている。推計票数は17,204票となる。自民党支持層でも63.4%までしかまとめ切れなかったのに対して、9割以上も固めた創価学会の組織票は恐るべしといったところである。ちなみに、福山和人候補の公明党支持層からの得票率は4.7%で、推計票数は880票となっている。そして、この差し引きが17,204票-880票=16,324票と、最終結果の16,251票差とほぼピッタリ一致している。偶然にしては出来過ぎた票数差と言えるかもしれない。つまりは、公明党支持層の票が無ければ、松井孝治候補と福山和人候補はほぼ同数だったというわけだ。
 もし、この公明党支持層の票が、例えば、前原誠司教育無償化を実現する会代表が全力で応援する村山祥栄候補に乗っていた場合には、物凄い僅差の勝負になっていたかもしれない。そう考えると、今回の京都市長選挙の最終的な勝者は、前原誠司代表と創価学会だったのではないかと思えてしまうほどである。

 政治党支持率10.3%で、推計票数が48,206票と出た日本維新の会支持層の票に関しては、適度に分散された結果となった。一番多かったのは当初推薦を受けていた村山祥栄候補で31.2%、推計票数は15,040票となる。辛うじてトップを死守したものの、3割強の支持に留まったのは候補者本人からすると少し寂しい結果かもしれない。次いで、松井孝治候補が29.9%と推計票数は14,413票となる。ほぼ村山祥栄候補と変わらない分だけ維新支持層からも票を取り込んだ。次いで、かなり意外かもしれないが、福山和人候補も24.0%も維新支持層に食い込み、推計票数は11,569票となっている。維新支持層に対して、これだけ両候補者に迫り、1万票以上も取れたと考えるならば、十分過ぎる結果ではなかろうか。二之湯真士候補も14.5%食い込んでおり、古巣の自民党支持層からよりも、得票率としては高かった。

 さて、次はいよいよツイッターなどネットのリベラル界隈で大きな議論を呼んでいる立憲民主党支持層の分析に移ろう。この分析が今回の記事のメインディッシュかもしれない。なので、ここからの記事は有料ですとしたいところだが、今回は特別に無料で公開していく。もし良ければサポート頂ければ幸いである。
 立憲民主党の支持率は5.2%で、推計得票数は24,337票となる。京都の立憲民主党には泉健太現代表や福山哲郎元幹事長など、当選回数も多い党幹部が名前を連ねているが、支持率としてはそこまで高くはない。恐らく、日本維新の会に取られている部分も往々にしてあるのだろう。その立憲民主党支持層であるが、支持者の46.9%が松井孝治候補に投票している。推計票数は11,414票となる。対する福山和人候補は34.5% で、8,396票と推計される。その差は11,414票-8,396票=3,018票差である。この差をどう見るかであるが、福山和人陣営としては差を付けられたくなかった、ほぼ五分五分で乗り切りたかったところではないだろうか。対する松井孝治陣営からすれば、一番、最初に推薦を出してもらった立憲民主党に対して最低限の面目躍如といったところではないか。そもそもの票数がそこまで多いわけではなく、この約3,000票差が大きく勝敗を分けたとは考え難いので、個人的には京都の特殊事情も加味すると、大きく騒ぎ立てるほどではないかなと思う側面もある。

 ここからはifの世界であるが、もしこの立憲民主党支持層の票だけで、福山和人候補が松井孝治候補に勝つとするならば、どれぐらいの得票率が必要であったかを算出してみたい。実際の最終結果の松井孝治候補と福山和人候補の票差は16,251票であった。この数値を÷2すると、16,251÷2=8,125.5なので、8,126票が松井孝治候補から福山和人候補に移ったと考えれば良い。松井孝治候補の推計票数は11,414票だったので、11,414票-8,126票=3,288票。対する、福山和人候補の推計票数は8,396票だったので、8,396票+8,126票=16,522票となる。立憲民主党支持層の推計票数がこうなっていれば、福山和人候補が松井孝治候補に勝利していたことになる。この時のそれぞれの候補者の立憲民主党支持層における得票率を算出すると、松井孝治候補が3,288票÷24,337票=13.5%で、福山和人候補が16,522票÷24,337票=67.9%という割合になる。
 絶対的に有り得ない話ではあるが、もし福山和人候補に立憲民主党の推薦が付いており、立憲民主党支持層の67.9%を固めて、松井孝治候補の立憲民主党支持層からの得票率が13.5%しかなかったら、福山和人候補が勝てていたという話である。立憲民主党支持層の票数のみを動かす場合だと、福山和人候補が勝つためには、立憲民主党支持層の67.9%を固めることが必要であった。この数値は政党の推薦が付いていれば無くは無い数値だったかもしれない。れいわ新選組支持層が福山和人候補に投じた得票率が76.7%だったので、立憲民主党の立ち位置がれいわ新選組ぐらいだったら、福山和人候補が勝てたかもしれない。無論、これは京都政界的には絶対的に有り得ない話なので、選挙の票数の計算練習ぐらいに捉えて頂ければと思う。

 最後に、もっと現実的に有り得る話として、福山和人候補が松井孝治候補に勝つには、どれぐらい無党派層からの得票率で差を付ければ良かったのかについて論じていこう。算出式としては、先ほどの立憲民主党支持層で計算練習した通りである。
 まず、無党派層は全体の36.7%を占めており、推計票数は171,762票となっている。実際の得票率と推計票数は、福山和人候補が35.4%とトップで60,804票と推計される。次いで、松井孝治候補が27.0%で46,376票、村山祥栄候補が21.8%で37,444票、二之湯真士候補が15.6%で26,795票が、それぞれの推計票数となる。こうやってみると、無党派層も日本維新の会支持層と同様に、それぞれの候補者に分散された印象は受ける。
 さて、ここから計算問題で、福山和人候補が松井孝治候補に勝つために必要だった得票率を算出していこう。先ほども述べた通り、松井孝治候補の8,126票が福山和人候補に移れば逆転となる。松井孝治候補の推計票数46,376票-8,126票=38,250票で、対する福山和人候補が、60,804票+8,126票=68,930票となる。この時のそれぞれの候補者の得票率は、松井孝治候補は38,250票÷171,762票=22.3%で、福山和人候補は68,930票÷171,762票=40.1%となる。よって、福山和人候補は実際の投票結果の35.4%から、あと4.7%と加算して、ちょうど40%の大台に乗せた上で、松井孝治候補の得票率を実際の27.0%から22.3%まで引き下げておけば、この京都市長選挙に勝てていたかもしれないのである。
 無党派層からの得票率40%は、そこまで無理のある目標であるとは思えないし、実際に勝つためには達成が必須だった目標だったと言えるであろう。無党派層からの得票率があと5%高くて、無党派層からの支持率で松井孝治候補にダブルスコアに近い差を付けていれば、勝てていた市長選挙だったのである。無論、あと5%が遠いのも市長選挙ではあろう。
 無党派層からの得票率4割は今後の達成必須目標として掲げておくべき、メルクマールに当たるのではないだろうか。

 以上が京都市長選挙における福山和人候補が勝てたシチュエーションの考察である。箇条書きにまとめると、

・自民党支持層14.1%、維新支持層の24.0%と保守層も取り込めたことは高評価
・立憲民主党支持層は40%超えで、松井孝治候補とほぼイーブンにしたかったところ
・無党派層40%超えが今後の大きな目標となる
・4%いる公明党支持層での16,324票差が最終結果とほぼ同じ差であった

 こういった結論の京都市長選挙になるのではなかろうか。保守層に一定程度食い込めた点は福山和人候補の良い点ではあったが、立憲民主党支持層と無党派層にあと5%食い込めなかった点が敗因と言えそうだ。
 結論としては、この結果を見る限りでは福山和人候補の勝利の芽自体は十分あったと私は思う。ただ、より激戦の選挙になれば、松井孝治陣営、特に自民党府連はより厳しい選挙戦を行っていたかもしれない。そう考えると、この得票率3.5%差、得票数16,251票差は、詰まりそうで詰まらない永遠の差なのかもしれない。国政の補欠選挙における立憲民主党にも言えることではあるが、日本のリベラル左派層は、善戦はすれど、最後の最後で「勝ち切る力」が無いことが永遠の課題と言えそうである。
 最後に、接戦の選挙戦を繰り広げた松井孝治候補と福山和人候補の両陣営の方々、並びに選挙戦を盛り上げてくれた村山祥栄候補と二之湯真士候補の健闘も讃えつつ、選挙分析家として厚く御礼を申し上げたい。素晴らしい選挙戦をありがとうございました。

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