インボイス制度は税金の役割に反する制度である~税金とは格差是正のためにお金を間引くものである~

 去る3月30日(木)に、衆議院第一議員会館で開催された「インボイス制度の中止を求める税理士の会」の集会に、私は政治経済評論家として取材させて頂いた。その集会の後には、衆議院第二議員会館前で行われた「STOP!インボイス」の街頭演説活動にも、4年前に「消費税増税のリスクに関する有識者会議」に最年少で参加した有識者として、マイクを握って、インボイス制度の誤りについて述べさせて頂いた。

 インボイス制度とは端的に言えば、これまで免税事業者となっていた売上1000万円以下の個人事業主に対しても、適格請求書の登録者となって消費税の納税を求める制度である。今まで消費税の納税が免除されていた売上1000万円以下の層が、新たに消費税を納めなければならなくなるのだから、これは実質的には10%の大増税である。個人事業主の1ヶ月以上の収入が吹っ飛ぶ計算の見込みとなる。私自身も政治経済評論家という個人事業主の形態で仕事を行っているので、まさしくインボイス制度導入の被害を受ける当事者でもある。
 それに対して政府は、最初の3年間は2割の納税で、次の3年間は5割の納税で済むように軽減措置を行うようである。しかし、6年後の2030年には満額の消費税を納めなければならなくなるのだから、消費税の納税負担が前年の5割から10割へと倍に増えた際には、個人事業主が阿鼻叫喚することが予測される。
 また個人事業主は適格請求書の登録者にはならず、消費税を納税しなくても良い選択肢を取ることも一応可能ではあるが、その際には個人事業主に仕事を発注した業者側が代わりに消費税を納めることになるようだ。そのため新たに業者側の負担にもなるため、業者側は適格請求書の登録者となっていない個人事業主への仕事の発注は控えるようになることが予測される。
 こうして消費税を納めない個人事業主は仕事を干されて廃業に追い込まれて行く可能性もある。かと言って、適格事業者になると消費税納税の重い負担が待っていることになる。まさしく、個人事業主は「行くも地獄、退くも地獄」といった状況なのである。また、個人事業主と発注事業者の消費税納税の押し付け合いという点では、分断工作的なニュアンスも含まれていると言えるであろう。
 こうしたインボイス制度の導入について、今回は経済財政の専門家の立場から、元々の税金の役割に立ち返って問題点を指摘していきたい。

 そもそも、税金とは一体何のために取るものなのであろうか。ほとんどの日本国民は政府支出の「財源確保のため」と答えるであろう。そして、多くの政治家や官僚、経済学者も同様に答えるであろう。しかし、実はこれが全くの事実誤認であり、大きな誤解を生んでいるのである。
 「そんなわけあるのか!」と驚いた方も多いかと思うが、「税は財源ではない」のである。では、社会保障など政府支出の財源は税金以外にどうやって調達するのだろうか。解答としては通貨発行権のある国が新たにお金を発行(預金創造)して支出することとなる。
 具体的なプロセスは政府が国債を発行して、市中銀行が日銀当座預金で国債を購入し、政府が社会保障などの財政支出を行う。そして、政府から支払い命令を受けた市中銀行が、国民や企業の銀行口座に新たに無から銀行預金残高を増やすという流れになる。これが歴とした正しい事実である。だから、実は日本国政府は財源がなくても支出が可能なのである。

 では、何故、政府が税金を徴収するのかと言えば、まず第一はインフレを抑制するためである。税金を一切徴収しないことになれば、インフレ率は上昇して行くことになる。そうならないように、国民からお金を間引いてインフレを抑制するのが税金の役割なのだ。例えば、消費税ならば消費を抑制して、国民の消費を減らすために取るのが本来の役割である。決して社会保障費などの財源を調達するための手段ではないのである。

 なお、このnoteでは前回の記事でも述べたが、実際のところは65兆円の国税を無税にしたところで、インフレ率は2~3%程度の上昇に留まると内閣府の計量シミュレーション結果からは予測される。実際には国民が思うほどのインフレ率の上昇にはならないことも付け加えておく。
 あと、念のためもう一点付け加えておくと、昨今はインフレ率が上昇しているので、この原則から言えば、今は増税すべきだとなると思うかもしれない。しかし、現在のインフレは需要過多によるデマンドプルインフレではなく、ロシア・ウクライナ戦争による供給減少によるコストプッシュインフレであり、いわば今の日本はスタグフレーションという不況なのにインフレが進行している状況にある。ここで増税をしてしまうと、更に景気が冷え込んでしまい、ますます国民の生活は苦しくなる。
 こうした状況下においては、消費税の減税やガソリン税の減税などで、見た目の物価を引き下げることが重要だ。ここで言う税金によるインフレ抑制機能とは、バブル期の日本のように、需要が過熱した時のデマンドプルインフレのことを指すと考えて頂ければ適切かと思う。

 さて、話を本編に戻すと税金の役割にはインフレの抑制以外に、もう一つ重要な役割がある。それは格差を是正するために取るという役割だ。いわゆる税金の「応能負担」の原則がこの考え方に近い。所得税が累進課税制度となっているのも、より高額所得者から多くの税金を徴収することで、貧しい人達との格差を是正するためなのである。もっと言うと、法人税も黒字企業からのみ徴収するので、黒字企業と赤字企業の格差是正という意味合いもあると言えるかもしれない。
 このような形で所得や利益のあるものから、より多くの税金を徴収することで、公正な社会や民主主義を実現しようとするのが元来の税金の大きな役割なのである。所得税や法人税が無くなれば、より富を持つ者や大企業の社会的影響力が大きくなり過ぎて、政治権力などをも握りやすくなってしまうと私は解釈する。いわば、権力抑制とも言うべき側面が税金にはあるのだ。
 翻って、税金が格差是正のためにあるのであれば、本来的には中間層以下の貧しい層からは税金を取るべきではないとも言える。特に消費税は逆進性の強い税金と言われており、下記のグラフのように、貧困層ほどその負担割合が重くなっている税金なのである。

 これは本来の税金の役割に真っ向から反すると言っても良い。インボイス制度の導入はおろか、消費税そのものすら必要のない税制なのである。
 このように考えると、元来の売上1000万円以下の個人事業主に対して消費税の納税は免除されるという制度は、税金の格差是正という役割から考えれば、実に正しい制度だったと言える。昔の政治家や大蔵官僚は税金の役割をそれなりに理解していたのである。そうした元来の税金の役割に反する新制度が2023年の10月から導入されるインボイス制度だと言えよう。
 つまりは、今の政治家や財務官僚は格差是正というそもそもの税金の役割を理解していないのである。税金本来の役割を理解せず、増税すれば出世するという自らの省益のために、財務官僚はインボイス制度の導入をゴリ押ししていると言っても過言ではないのだ。財務官僚諸君は、今一度、税金の役割についてしっかり勉強して欲しいものである。

 以上のように、税金とは財源の確保のための手段ではなく、インフレ抑制や格差是正のために取るものである。鈴木俊一財務大臣は国民民主党の前原誠司議員との質疑において、「単一税率であればインボイス制度はいらない」とまで答弁している。であるならば、格差を拡大させている消費税そのものを廃止するなり、少なくとも消費税を5%か8%まで減税して、単一税率に戻すことでインボイス制度の導入を取り止めるべきなのである。
 現在のように景気が悪い時には減税をすることは、中学校の公民の教科書でも習う社会の一般常識である。私はこのインボイス制度導入の問題を通じて、本来の税金の役割は格差是正にあることや、消費税はそうした税の原則に反することも合わせて伝えていきたい。そうした認識が広がることこそがインボイス制度導入の阻止に繋がることを願って止まない。
 そして、4年前に「消費税増税のリスクに関する有識者会議」に出席した有識者の立場としては、まさしく4年前に阻止できなかった消費税増税に対するリベンジマッチの機会が、このインボイス制度の導入なのである。

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