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東京都の行政サービスデジタル化を「ユーザー視点」から見る(宮坂学さん・巻嶋國雄さん)【RESEARCH Conference 2022 レポート】

より良いサービスづくりの土壌を育むために、デザインリサーチやUXリサーチの実践知を共有し、リサーチの価値や可能性を広く伝えることを目的として5月28日にオンラインで開催された「RESEARCH Conference 2022」。

本記事では、Opening Keynoteである東京都副知事・宮坂学さんの「行政も使いやすいデジタルサービスが作れることを証明したい」と、東京都デジタルサービス局デジタル改革担当部長・巻嶋國雄さんの「東京都のユーザーテスト浸透に向けて ~テストしないものはリリースしない~を合言葉に」の、2つのセッションの模様をお届けします。

ヤフー株式会社CEOの宮坂さんが副知事に就任したのは2019年9月。20年以上インターネット業界で活躍を続けてきた経験を活かし、行政のデジタル化に取り組んでいます。2021年4月に発足したデジタルサービス局から、同年9月にユーザーテストガイドラインを発表したことは大きな話題となりました。

宮坂さんが「デザインという言葉から一番縁遠いのが、もしかしたら行政サービスなんじゃないかな」と語るほど、大きな変革に挑んでいる東京都。その挑戦の旗振り役をしているおふたりから、ユーザーテストの重要性を切り口に、行政サービスのこれまでと現在についてお話いただきました。 

■登壇者

宮坂 学 / 東京都副知事
1967年生まれ。山口県出身。同志社大学経済学部卒業。1997年6月、ヤフー株式会社に入社。同社CEO・代表取締役・取締役会長等を歴任し、2019年6月に退任。同年7月より東京都参与に就任し、同年9月より現職。東京都のDXや国際金融都市をはじめとする東京の成長戦略を推進している。

巻嶋 國雄 / 東京都デジタルサービス局デジタル改革担当部長
1970年生まれ。学習塾勤務を経て、1998年4月、東京都庁に入庁。2021年4月より現職。DXを梃子とした都政の構造改革「シン・トセイ」戦略の企画立案や、コアプロジェクトの推進を担当している。

「測定なくして改善なし」行政サービスを数字から改善

 
宮坂さんのセッション「行政も使いやすいデジタルサービスが作れることを証明したい」は、海外5都市と比較した際の東京都のデジタル化された行政サービル利用率の低さについてのデータ紹介から始まりました。

「測定なくして改善なし」と断言し、リリースしたサービスをあらゆる数字で測っていける仕組み作りの重要性を強調。そしてその数字を比較していく。理想とする姿、過去のデータ、他サービスなどと比較することで改善点が見えてくることをお伝えいただきました。まずはじめに他国の数字との比較データを提示した宮坂さんの意図が伝わりました。

ユーザーの声を聞きに行く重要性に気付いた民間企業での経験

サービスをリリースして終わることなく、その後の使われ方や満足度など指標を設けて改善している宮坂さん。過去、民間企業で携わったプロジェクトでの経験の影響があると言います。

たとえば、「Yahoo!一球速報」は野球ファン向けのサービスだったため、明治神宮野球場で試合観戦へ向かう人に直接声を掛け、サービスの感想を聞いて作り上げました。また、「Yahoo!オークション」の改善に携わった際には約20名のユーザーを集め、意見を募る会を開催。

 これらの経験を経て、「勝手にユーザーはこう考えているだろうと決めつけていた部分があった」と気付いたそうです。そして、データを見て、ユーザーに会いに行く大切さを確認。この姿勢は、現在では多くの民間企業で取り入れられているものですが、「行政サービスには、ユーザー視点が抜けているのでは」と疑問を感じ、東京都のデジタル化推進ではユーザー視点が強く意識されています。

ユーザー視点をサービスに取り入れるために

ユーザー(都民)が使いやすいサービスを作るため、意識していらっしゃるのが「都民が何を求めているかを起点に、ユーザー目線に立つこと」。それを徹底するために「東京都デジタルサービスの開発・運用に係る行動指針」の策定が行われました。ビジョン、ミッション、バリューを基にした行動指針は、民間企業出身の宮坂さんらしさが伺えました。

行動指針は、行動規範と機能別技術ガイドライン(UIUXに関するガイドライン)で構成。行動規範10か条では、第一に「顧客視点でデザインしよう」が掲げられ、いかにユーザー視点が重視されているかが分かります。また、ここで表される顧客は大きな主語である都民ではなく、「一番最初に使ってほしい人」を想定し、ペルソナの解像度を上げることまで盛り込んでいるそうです。

具体的な施策として、「テストしないものはリリースしない」を合言葉にユーザーテストを必須化した東京都。感染拡大防止協力金サイトの構築の際には、実際に申請者の店舗まで足を運んで、申請の背景まで理解し、サイトの改善に取り組みました。指摘を受けて改善するサイクルを回すことでNPS(満足度)が上がり、宮坂さんも「確かな手応えを感じた」と嬉しそうに話されていました。

最後に、宮坂さんはユーザーテストを「鏡を見ることと同じ」と表現。鏡の中の自分と向き合うように、データやフィードバックを目を背けずに受け止めることが、より良いサービス作りにつながると教えていただきました。

ユーザーテストガイドラインを共有、そして機能させる

続いて、「東京都のユーザーテスト浸透に向けて」をテーマに巻嶋國雄さんにお話いただきました。

ユーザーテストを必須化するにあたり、その実行者である都庁の職員向けに実態調査を実施。その結果、「そもそもユーザーテストってなに?」といった声が続出したそうです。基本的な知識が必要であることが浮き彫りになりました。そこで、ユーザーテストガイドラインを策定することが決定。

ユーザーテストガイドラインでは、

定義:システム開発や各種デジタルサービスの提供に当たって、サービスのターゲットユー
ザーの感想や心理など、提供者側が想定しえなかった課題を明確化するテスト
目的:システムやサービスのリリースの前/後でユーザーの意見を取り入れることで、ユーザー目線に立ったより使いやすいシステム・サービスを実現する

ユーザーテストガイドライン

と明文化され、さらにテストの細かい実施方法や事例紹介もされています。

「専門的知識がない職員にも分かる基本的でシンプルなもの」をコンセプトに作られたこのユーザーテストガイドラインは、後にネット上で公開され、大きな反響を呼びました。

さらに、ガイドラインの共有をした上でサポート体制の充実も。テスト手順書・管理ツールの作成や、職員向けテスト動画作成など、運用まで見据えた取り組みをご紹介いただきました。

まとめ

宮坂さんにはユーザーの声を聞く重要性を知った経験と、それを行政サービスに取り入れる施策について、巻嶋さんにはユーザーテストガイドラインを機能させる過程についてお話いただきました。

参加者から多くの質問が寄せられたほか、「東京都がユーザーテストの重要性について熱弁してくれて、心強い」「ユーザーテストガイドラインが公開されたときは感心しました」と、UXリサーチャーたちからの東京都への期待や共感の声も聞こえました。

今回、2つのセッションで紹介された東京都の行政サービスの多くの実例は、どれも宮坂さんが副知事を務める近年の成果です。イベント内では「窓口でやきもきした経験がある方もいるのではないでしょうか」と宮坂さんが参加者へ投げかける場面もありましたが、今後、デジタルサービス局の活躍により、行政のUXが暮らしを豊かにする未来が見えるようなセッションでした。

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ポータルサイト: https://shintosei.metro.tokyo.lg.jp/
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こちらのセッションは、アーカイブ動画も公開されています。もっと詳しく知りたい方は、ぜひ御覧くださいね。

また、Biz/Zineさんでも詳細なレポート記事が公開されているので、こちらもあわせてお楽しみください!

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それでは、次回のnoteもお楽しみに🔍

[編集]若旅 多喜恵[文章]野里のどか

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