アスペルガー的人生

 すっかりご無沙汰ですね。red_dash です。研究活動に進捗があり、リアルに集中していたらどんどん時間が過ぎていました。

 さて今回は、発達障害者が当事者の視点を語った書籍の古典、リアン・ホリデー・ウィリー女史の「アスペルガー的人生」を紹介します。

どんな本なの?

 昨今の発達障害ブームで医師による解説本、当事者による生活の知恵をまとめた本などが続々と出版されています。しかし、こうした特性が市井に理解され始めたのはごく最近です。私の知る限り、1990年代ぐらいまでにこうした特性への理解はごく一部にとどまっていたようです。

 本書によれば、1990年代に入りウタ・フロス、ローナ・ウイング、トニー・アトウッドのような研究者によって広義の自閉症、特にアスペルガー症候群に対する理解が広まったと記載されています。リアンはこうした理解の広まりのごく初期に、当事者の視点から世界がどのように見えるか、どのような困難があるかを記載した書籍となります。

内容1: 発達障害に伴う具体的エピソード

 もっとも、古い書籍だからと言って記載が色褪せているわけではありません。彼女の幼少期の回想は鮮明で、当事者にとっては似たようなエピソードを思い出させます。例えば、こんな具合です。

 生徒たちは毎日、昼寝をすることになっていた。「さあ皆さん。マットを出して、お昼寝をしましょうね」という先生のせりふは今でもはっきり覚えている。私は従わなかった。そしてまたしてもうちに電話がかかってきた。両親は、今度も学校に来て先生と話をしてくれた。
 「リアン、お昼寝をしないのはなぜ?」父と母がきく。(中略)
 「マットなんてないから」
 「マットならちゃんとあるでしょう。ほら、ロッカーをごらんなさい」
 「マットなんてありません」(中略)
 「どうしてマットがないなんて言うの?」
 「あれはマットじゃないもの。あれはうすべり(ラグ)だもの」私は、正直に、かつ正確無比に答えた。
 「そういうことなら」父が続ける。「うすべりのうえでなら、お昼寝するかい?」
 「先生がしなさいっておっしゃったら、する」
 私はしらっと答えた。
 「娘には、うすべりを出して昼寝しなさいと言ってやってください」
 父はそういうと、母と一緒に私を連れて帰った。

アスペルガー的人生 より
リアン・ホリデー ウィリー, 東京書籍, 2002

強情ではあるものの、彼女なりに筋は取った話なのですよね。
 ただし、もちろん世間一般的には「マットもうすべりも大して変わらないので、いいから寝ろよ」となる傾向はあります。客観的に自閉症・発達障害あるあるエピソードを読むことで、自分の行動を振り返るきっかけになる可能性があります。

内容2: 発達障害が社会生活するためのノウハウ 

本の後半には、彼女が生き延びるために使ったノウハウが書かれています。これがまた具体性に富んでいるのです。例えば、以下の通りです。

聴覚過敏 
① 寝つきの悪い人のための耳栓を利用してみるといい。ただし、安全のため、学習のため、楽しく生活するために必要な音まで聞こえなくなるのでは困る。救急車や消防車の音が聞こえるかどうか、誰かに話しかけられたら聞こえるかどうか、確認しておくこと。綿やティッシュペーパーは耳栓の代用には向いていない。繊維の間を空気が通り抜けるときに、不快な周波数の音が出る可能性がある。

アスペルガー的人生 より
リアン・ホリデー ウィリー, 東京書籍, 2002

この記述の特筆的な点は 1. 具体的な対策を挙げている。 2. 具体的な対策において必要な程度を考慮する必要性を指摘し、その具体的な指標を挙げている。 3. 安易に実行可能な代替案とその失敗可能性について指摘している。 ことです。
 発達障害がある人は、記載に従わなかったり、関連する別の選択肢を実行する可能性を実行する可能性が高いです。このような場合でも、異なる選択肢の選択の際に必要なチューニングや、失敗する可能性が高い選択肢についての周辺知識が同時に提供されているので有用だと感じました。
 このレベルの記述が聴覚過敏については4つ、感覚過敏だけで22は記載されており、それ以外の社会生活に適応するためのスキルも約60ページにわたって記されています。

終わりに

 かなり参考になる書籍だったと私は感じました。
 なお、彼女自身は明確な診断を受けていないことには留意する必要があるかとは思います。もっとも記述を読む限り、いわゆる自閉症・アスペルガー的な性質を備えていたと考えて差し支えないとは思います。

 それでは、素敵な1日をお過ごしください。

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