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かっけぇババア

 私の得意先は、きっちりした大手ハウスメーカーから昔ながらの小さな建材屋さんまで多岐にわたる。たいていは代理店を通して売買されるが、何十年も前から関係が続いているお店とは直接取引を行う。

 そんなお店には月に1度、前月分の品代を回収しに行かなくてはならない。いわゆる集金業務と言うものだ。たとえ前月の売り上げが5000円程度しかないのに片道の高速代が2000円かかろうが回収しに行く。意味があるのかは知らぬ。

 振り込みや小切手が主流な(手形はやーよ)この時代。どころか仮想通貨や電子マネーといったオンライン決済手段も豊富な令和の世の中。わざわざ手書きで領収書を切って、収入印紙をペロペロ舐めてペタペタ台紙に貼り付ける超絶アナログな決済をする店は、決まっておじいさんやおばあさんが小規模でやっている店だ。おじいさんとは言っても、定年が近いとかそういうレベルではない、70、80の世界だ。

 そういう小さな店で集金するのは結構楽しい。普段話す相手がいないのか、誰にでもペチャクチャ喋るタイプなのかは存じ上げないが、皆とんでもなく話が長い。先の予定が詰まっているときは勘弁してほしいが、個人的にはイヤな時間ではない。今回は、過去に集金しに行った中でちょっと印象的だったおばあちゃんについて語る。

 ご年配の女性と言うものは、総じて個包装のお菓子を常備しているものだ。ルマンドとかエリーゼとかホワイトロリータとかキットカットとか。あの手のお菓子の購入層の99.4%は60歳以上の女性だろう。そして消費するのは本人ではなく家族や近所の人だ。

 私が担当しているお店のおばあちゃん(社長の奥さん)も、私が訪問するとお菓子と飲み物を出してくれる。具体的にはキットカットとコーヒー。それらを出す時のセリフが超カッコいいのだ。


「やりな。」


 いやかっこよすぎるだろ!!「どうぞ」とかじゃないんだよ!「「やりな。」」なんだぜ!!

 初めて出された時、私は密かに興奮した。相手に食べ物を渡すシチュエーションで最もかっこいいセリフは『食戟のソーマ』の「おあがりよ」だと思っていたが、あの一瞬で更新された。これがブッチギリでナンバーワンだ。小説とか漫画を書くとしたら、絶対こういう婆さんを出そうと心に決めている。

 机に並んでるのは、一杯のインスタントコーヒーとキットカットの小包装1袋だけだ。あの真ん中でパキッと割れるやつね。何の変哲もないそれらが、まるで映画のワンシーンのように輝いて見える。

 あの「やりな。」の何がかっこいいのかはまだわかっていない。単純にセリフがかっこいいのか、言い方がかっこいいのか、言ってる本人がかっこいいのか

 そもそも「やりな。」とは何なのか。「飲んでください」と「食べてください(召し上がれ)」をまとめて「やってください」にして、さらにフランクに表現しているのだとは思う。それともこういう方言があるのか?

 と言うことで、”キットカットのステマ”でした。さぁ、コーヒーを淹れつつお菓子売り場へ走るが良い。

おしまい

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