ラーメンと水の硬度とイワシの減少とReproと
ある日、ラーメン屋さんから「ラーメンスープ用に煮干しのだしを取りたいんだけどReproは使えるか?」と電話で問い合わせが。
なんじゃかんじゃ話しているうちに、ラーメン屋さんが、「結構うちのラーメン美味しいよ。」と。「じゃあ、食べにお伺いしますよ。」と言ったら、変な「売り言葉に買い言葉」的に、「じゃあ、うちもRepro買うよ。」と即座にお買い上げ。
すんません、毎度あり!
お約束ですからもちろんお伺いしました。お店は京王線 高幡不動駅から多摩モノレールで一駅の万願寺という場所。
世事にも歴史にも、うといため知りませんでしたが、万願寺は、あの新選組の土方歳三副長生誕の地ではないですか。
そのお店「メヂカそば 吟魚」さんは、まさに土方歳三資料館の隣のビルの1階にあるのですが、なんと臨時休業。
「ラーメンは…」
と、食べログでチェックしたら、全国でラーメン屋さん29位(2023.08.02)の名店。さらに食べたかったです。
そもそも週に4日しか営業せず、それも11時〜14時30分(L.O)でスープ売り切れ次第閉店という行列店が、どうして臨時休業?
店主の野間章暢さんに聞いたら、
「鶏のだしも煮干しのだしもどっちもうまくできていないんですよ〜」
と困った表情。
「どっちもダメってことは水質に問題があるのかなあ…」
最近、新しい軟水器を購入したばかりと野間さんは言っており、これはどうしたことなのか?
郵便局の手違いでなかなかReproが到着しない間に、バタバタと色々手を打っている最中。まずは水道水の元になっている東村山浄水場に電話で問い合わせを。
そもそも東村山浄水場はサイトで見ると年平均硬度48ぐらいの軟水です。かなり良い水質なのですが、水道局の人によると、「雨が降った後は硬度が100ぐらいに上がったりする。」と。
「あっ、それが原因か?」
で、結論から言うと、店主野間さんは「軟水器」を注文したのに、厨房機器の販売店が間違えて、ただの「浄水器」を取り付けてしまっていたというオチ。
夕方になってようやくReproが到着して、かんたんに使い方を説明して、ラーメンも食べられず、1時間以上かけて、とぼとぼと都心まで帰りました。
翌日、軟水器が来たのですが、これがなかなかに高性能過ぎて水の硬度をほぼゼロにしてしまう代物。それじゃ「軟水」っていうか「純水」じゃあないですか。
でも野間さんは試しに、これで鶏だしを取ってみようと。
「Reproでうまくいきましたよ〜」と送ってくれた写真がこれ。
「こりゃまたゴツい絵柄だなあ」と思いつつも、一安心。
野間さんのお店では贅沢にも鶏だしを90℃にも満たない低い温度で数時間煮込みます。目標温度には1時間ぐらいかけてゆっくり上げていきます。そのため合計4〜5時間、弱火にしたガスコンロの前に温度計つっこみながら立っていなければいけません。それが、
「Reproによって少なくとも2〜3時間は、他の作業をする時間ができた。」
と大喜び。
そして、「軟水」ならぬ「純水」問題も、
「純水で取っても美味しいなあ。でもうちのスープの種類によってはパンチが足りないなって感じもあるけど。」
と野間さん。
「さすがに煮干だしは純水はダメかなあ…」
ということで野間さんが考え出したのは「浄水器→軟水器→蛇口」と「浄水器→蛇口」という2つのルートをコックを付ける方法。その時によって硬度の異なる浄水器の水と硬度がほぼゼロの軟水器の水をブレンドして、硬度計で硬度を計測してベストな硬度の水でだしを取るという方法。
さすが全国29位になるには、そこまでこだわるのか…
「営業中にチャーシューを作ってくれる可愛いやつですねー」
とメッセンジャーで。ありがとうございます。Reproをフル活用していただいているようで、うれしい限りなのですが、肝心の「煮干しだし」は…
ちなみに、野間さんによると鶏だしをReproで取った時に、ガスコンロで取っていた時よりも取り終わった肉が柔らかくなっている感じがすると。
普通の煮干しはカタクチイワシですが、「平子」と呼ばれる煮干しはマイワシが原料。そして2000年代以降、カタクチイワシの漁獲量は減少の一途をたどっており、野間さんによれば、
「片口イワシに依存しただしの取り方しかできないと、これからの煮干しラーメン屋は厳しいんですよ。まさにボクも」
とのこと。
「ただうちの平子は普通の煮干しより硬くだしが出るのに時間がかかってしまってます。鶏だしのようにReproで時間短縮して平子のだしを取れるってなったら、Reproは煮干しラーメン屋の救世主になれますよ(笑)」
本当ですか?単純ですから全国の煮干しラーメン屋さん回りますよ!
なんて言っているうちに、平子の生産量も減少し始めて、平子だけでなく、さまざまな煮干しを使いこなせないと次第に煮干し系ラーメンの原価が高騰している時代が到来しています。
ということで、改めて来店してついに食べることができたのは、「カマスと背黒煮干の醤油」。
カマスの煮干しに遭遇したのは生まれて初めて。カマスって独特の香りがあるからどうなのかなあ…、と思いつつ一口食べたら「うまい!」。グルメレポーターじゃないのでうまく説明できませんが、上品さと野性味が高次元でバランスしているとでも言うんでしょうか。トッピングの岩中豚のチャーシューも鶏も絶品です。
と美味しいラーメンの食レポではなく、再来店したのは、この日が「メジカそば吟魚さん」の水道工事の日だったからです。
もう一度、「だしと水の硬度」の話に戻ります。これまでの先行研究などでは、昆布のだしの主要旨味成分のグルタミン酸は硬度の低い軟水だと抽出量が多く、かつお節や牛・鶏などのイノシン酸は硬度の高い硬水の方が抽出量が多い、というのが定説です。ここでは昆布の実験はしていませんが参考のために水の硬度とだしの関係についての研究論文をひとつあげておきます。
【参考文献】水の硬度が煮出し汁の嗜好性と溶出成分に及ぼす影響
で、臨時休業後に軟水器・浄水器メーカーの方が来てお店の水道(浄水器経由)の硬度を測ったら、サイトにある東村山浄水場の年平均値より高い「硬度=80」でした。
でも、店主の野間さんの話しでは「鶏はだしがいつもより出ない。」、「煮干しはだしのうまみのうしろに、美味しくない水の味が分離されてついてくるようなかんじがして使えない」とのこと。
硬度が上がったらイノシン酸の抽出量は増えるはずなのに、「鶏のだしが出ない」とは…
確かに上記の先行研究でも、イノシン酸の抽出量は硬水の方が多いのですが、官能評価では軟水の方が相対的に高得点です。(実験している肉は、鶏ではなく牛ですが)
と、これからはさまざまな煮干を使い分けなければならないことを考えて出した結論は、「軟水器の硬度=ゼロの水と、その日によって変わる水道の水(浄水器経由)をブレンドして硬度計で硬度を測り、それぞれの材料に最適な硬度を探って、だしを取る」という作戦。
機械設置も終わり、滴定硬度を測ります。本日の水道水(浄水器経由100%)の水の硬度は50〜60でした。
次に、軟水器と浄水器の水を半分ずつにブレンドすると…
滴定硬度の結果は「硬度=20」。
おおっ、これでだしの材料によって水の硬度を自在に?操作することができる!(多少の誤差は、これから修正していけばOK)
「なんだか楽しくなって来ちゃったな。これから材料ごとに最適な硬度は何かを実験しまくろう。もう一つ上の次元にいけちゃいそうな気がするな!」
と、至極ごきげんな様子の野間さん。きっと最適な硬度を突き詰めて、今までとは違うレベルのラーメン作りに到達することでしょう。
「Reproちゃんがいるから、営業中も鶏だしを取れるようになったんですよ。」
ありがとう。もうお世辞はいいですよ。でもうれしいなあ〜
でも、Reproと浄水・軟水器と硬度計があることで正確な実験条件が設定できることは、ラーメン界に新しい進歩を生むかも…
Reproを愛してくれる野間さんにリスペクトして「おすすめメニュー」を一つ紹介します。
これ、水道工事を待つ間のまかないで頂いたんですが、メッチャ美味しいです。
ラーメンの「返し」と鶏油だけで、つまりは「釜玉うどん」のラーメン版。
と、券売機にもあるようにお客さんも食べられるのですが、まずは普通のラーメンを食べないと、食べさせてもらえません。
でもこれ目当てでいらっしゃる女性客も多いそうで、二杯目も平気で食べられちゃうほど美味しいんですね。
またしばらくしたら、研究の成果とランクアップしたラーメンをいただきに伺います。(釜玉中華も食べられるようにめちゃくちゃお腹空かして)
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