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才能のジャストインタイムを阻むメンバーシップ型雇用における人事評価制度

久保田です。
前回、メンバーシップ型雇用について書きましたが、メンバーシップ型雇用ではない雇用形態のホワイトカラー労働者(つまりフリーエージェント)の才能のジャストインタイムが、より受け入れられる形を調査しています。

社員数が数十名以上のスケールし始めているスタートアップ企業数社をヒアリングする中で、フリーエージェントな人の欲求と、正社員型の働き方をしている方の欲求の違いを感じることがありました。

つまり、企業におけるホワイトカラー労働者の大多数は、自身の労働力をまるっと全て提供しており、労働力の予約契約をしている。しかし一方で、フリーエージェントは、都度受注・価値の等価交換として提供している。という前提に基づいた違いです。

正社員とフリーエージェントの欲求の違い

前提の違いが、如何に欲求の違いを生み出すのか?

メンバーシップ型雇用のホワイトカラー労働者の場合、企業の信頼によって仕事を受注し、分配については元々定められた給料によって固定され、仕事の量は、個々人のモチベーションと社内の信頼度合いにより決まっています。

したがって、大体の場合、給与は市場価格に沿った価格ではないはずです。そして、メンバーシップ雇用のホワイトカラー労働者は、仕事自体の労働市場における評価にはあまり興味がないと思われます。
なぜなら、入社時点で大方の給料は決まっており、仕事の単位で、大きく変化することがないからです。給料査定が半年とか1年とかに1回あり、それは人事の給与レンジとか評価基準で決まるもので、市場価格ではないのです。

一方で、フリーエージェントは、自分が貢献した成果に対して、労働市場に見合った評価を求めたい。それは、契約自体が連続する保証はなく、だからこそ、自身が社会からどんな評価を得られているのかをしっかりと把握したいという欲求がありそうです。
(報酬に関して言えば、クライアントとの信頼が高まれば、取引コストやコミュニケーションコストが低減されるので、ある程度ディスカウントすることはある。ただ、ディスカウントするしないの意思決定は都度行われるという例外はあるが。)

メンバーシップ型ホワイトカラー労働者の場合は、給料が固定されているがゆえに、市場価格に対する意識が薄くなると言えます。

なぜメンバーシップ型の正社員雇用は存在するのか?

そもそも、企業がなぜメンバーシップ型雇用をするかを考えるときに、
ロナルド・コース(Ronald H.Coase, 1910-2013)の取引コスト理論が役立ちます。
つまり、労働市場にいるワーカーと都度取引した場合は

・検索費用:市場において取引相手を探し出すための費用
・調査費用:取引相手が信頼できるかどうかを調査・確認する費用
・交渉費用:調査した相手と取引を開始するための費用
・契約費用:取引内容を確認し有効化するための費用
・監視費用:契約の履行状況を監視するための費用
・紛争解決費用:契約どおりにいかなかった場合の費用
・情報開示費用:一連の取引を円滑に進めるための費用
http://www.eco.shimane-u.ac.jp/nodat/infoeco/infoeco201704.pdf より引用

など、様々な費用が必要になると述べられています。

結果、組織化費用 < 取引費用 のために、労働者を自社に取り込んでしまえ。ということになるためメンバーシップ型の正社員雇用は経済合理性が生まれます。しかし、これはあくまで企業都合での慣習なのです。

メンバーシップ型雇用はセルフマネジメント 力育成を奪っている?

経済合理性の上に成り立っているホワイトカラーのメンバーシップ型雇用。そしてメンバーシップ型雇用における、市場価格と乖離した人事評価は、個々人のセルフマネジメント[*1]育成を疎外している悪い慣習なのではないかと考えています。ただそれが企業経営においては定石であることは認識しつつも。

企業が経済合理性に沿って経営された結果、構成員である労働者のセルフマネジメント力育成は遅延してしまう。才能は組織に囲われて外に出づらくなる。そして才能のジャストインタイムが実現しない状況が起きています。

才能のジャストインタイムが実現する社会には、メンバーシップ型雇用を主体とする企業こそが、個々人の成果を明確にし、市場評価に近い形を実現することが必要なのではないかと考えます。

*1 セルフマネジメントについては、ジェレミー・ハンター著の「ドラッカー・スクールのセルフマネジメント教室」などで紹介されており、今後どこかで紹介したいと思います。

最後に

今回は、才能のジャストインタイムの普及において、メンバーシップ型雇用のために存在する人事評価制度が障害になっているのではないか。という仮説を考えました。

しかし、それでは成果が上がらなかったが、精一杯やった人が報われないこともあり得るので、プロセスの評価や教育も大事な要素であると考えています。


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