黄昏の東京タワー

東京駅を発車した下りの東海道山陽新幹線がほどなく新橋、浜松町付近を通過する頃、進行方向右側にビルの合間から東京タワーが見えてくる。

その東京タワーが見えてくるころが私にとっての冷えたのを飲みたいので出発ぎりぎりに買った缶ビールなり缶チューハイのプルトップを空けるタイミングで、プシュっと云う小気味よい音が手元で弾けると岡山までおよそ3時間半足らずの旅の開始の合図となる。

並行する混みあう山手線や東海道線の車内はホーム上のこれから家路に就く或いは1日の外回りを終えてオフィスに戻る途中の多くの人を高架を通る新幹線の上から見下ろすようでなんだが、ともあれ夕暮れの都内の景色を肴にアルミ缶を傾ける欲求には勝てない束の間の至福の時間だ。

子供のころ、高い建物など滅多に見かけない田舎で暮らしていた私は高さがある鉄塔はどこにあろうが全て「東京タワー」と呼ぶのだと思っていた。

そして戦隊もの・怪獣ものの特撮ヒーロー番組で毎週のように宇宙のどこかから怪獣がやってきて東京タワーや高層ビルをなぎ倒してはいくものの、翌週の放送では何事もなかったかのように先週の放送前と同じようにきちんとビルなどが復旧しているのを見ていつ直したんだろうと考えるいささかおバカな子供だった。

大人になってふとしたご縁で7年ほど東京で勤務する事になってからも用事や移動中で何度となく芝公園、大門、御成門の辺りを通るとき、当然のように東京タワーが姿を現わした。

東京タワーを横目で見ながら歩いている時、ふと何気に反対側に目線を移すと学校が見え、「ここの学校の生徒さんは毎日東京タワーを見ながら勉強しているのか」と何気ない東京の昼下がりの風景の中に毎日田んぼや畑と用水路を見ながら学校に通っていた自分と比べて強烈にその瞬間は「都会」を意識した。

私は個人的には昼の威風堂々とした東京タワーもいいが、夕方から夜にかけてのライトアップされた、正確に言えば「ライトアップされはじめた東京タワー」が好きだ。

電波塔と云う早い話が大きなアンテナでもある東京タワーはすぐ近くに高い建物がないせいか、ライトアップされると浮かび上がるように見えるのが昼間とはまた違う「風情」と云うエッセンスを加えたような威風堂々さがあると思い、より好きなのだと思う。

そう云えばいつか漫画の「島耕作」シリーズを読んでいると、東京タワーは夜12時で消灯するという事が書いてあった。いつかは確かめたいと思っていたが、わざわざ消灯のタイミングを確かめるために浜松町あたりに出向くのもなんだし、そもそも終電に間に合わなくなるのでやったことは無かったのだが、ある時神宮球場でのナイターが昼間の6大学野球が長引いて開始が遅れた上に延長戦になって試合終了が日付を跨いだ時、外野スタンドから東京タワーの方を見ると確かに消灯されていたことを思い出す。

新幹線が品川駅を発車して、車内アナウンスが到着駅ごとの到着時間を案内し始めるころ、夕方やお昼時であれば飲み物に続いて「シウマイ弁当」の包みを開く。本来横浜駅の名物弁当であるシウマイ弁当も人気のあるせいか東京駅や品川駅でも普通に売っており私の大好物という事もあり、今日はシウマイを中心に数多くの種類のおかずを配置したこのお弁当のどこから食べようかと思う瞬間も自分にとっての至福の時間だ。

いつしか多摩川を渡り東京タワー、そして都内の景色が後ずさりするように過ぎていく。

次の上京はいつになるだろうか、箸を進め、アルミ缶を傾けながらそんな事を思いながら新幹線は西へと向かう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?