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me&ミー

学校帰りの途中で、何処からともなく
子猫の鳴き声が聞こえた。
どこだろう?と辺りを見渡してみると
茂みの中に小さな子猫を見つけた。
こっちの顔を見ながら「ミーミー」と鳴いている。
怖がる素振りも見せずに子猫が擦り寄って来た。
小さな子猫の頭を撫でながら「またねバイバイ。」
と声をかけて通学路の道まで戻った。
少し歩くと、また子猫の鳴き声が聞こえてくる。
後ろを振り返ってみると、さっきの子猫が後を着いてくる
「カワイイ」と「可哀想」の気持ちが
代わる代わる押し寄せる。
まん丸まなこで小首をかしげて
子猫がこっちを見ている。

きっと…  お母さんなら…
「いいよ。」と言ってくれるに違いない。

パーカーの裾を片手で掴んで
ハンモック状にした中に抱き上げた子猫を入れて
家までの道を早歩きしながら帰った。
「ただいま〜!」と家の玄関を開けると
お母さんは、台所で夕飯の支度を始めていた。
「ねーねー!お母さん!見て見て!
学校から帰ってくる途中で子猫を拾ったの。
ちゃんと面倒みるから家で飼ってもいいでしょ?
お願い。」と、お母さんに頼んでみた。
「いいよ。」と返事が返って来るもの
とばかり思っていたら
「ウチは集合住宅だから飼えないよ。
もと居た場所に戻してらっしゃい。」と、
母さんは言う。
「大丈夫だよ!黙っていればバレないよ!
ちゃんと世話するから飼ってもいいでしょ!お願い!」と
お母さんに頼み込んだ。
両手を合わせてキツく閉じた瞼をそ〜っと開けて、
お母さんの顔を覗いてみると
「ダメ!ったらダメ!カワイイだけじゃ飼えないの!
早く、もと居た場所に返して来なさい!」と
怒られてしまった。

渋々と…当てどもなく…家を後にした。

子猫がパーカーの裾のハンモックの中で
まん丸まなこで、こっちを見ながら
「ミーミー」と鳴いている。
「どうしたら、いいんだろう。…」
途方に暮れてトボトボ歩いていると
いつの間にか川沿いの土手のグラウンドに来ていた。
周りを見渡すと、上級生が野球やサッカーをしていたり、グラウンド脇にあるシーソーや滑り台で
小さな子とお父さんとお母さんが遊んでいたり
お年寄りの方が散歩をしたりしていた。
「あ?ここなら人が沢山いるから、誰かが見つけてくれるかもしれない!」と感じた。
「ミーミー」と鳴いている子猫をパーカーの裾の
ハンモックから出して地面に降ろしてあげた。
バイバイしようと空を見上げると
今にも雨が降り出しそうな曇り空になっていた。
「せめて濡れない様にしてあげよう。」
近くに落ちていた、ちょっと太めな木の枝で
土手の斜面に横穴を掘り始めた。
「ちょっと待っててね。」
直ぐ横で擦子猫が擦り寄りながら、
まん丸まなこで小首をかしげて
「ミーミー」鳴いている。

どれくらい時間が経っただろう。

気がついたら、子猫がスッポリ入る大きさの
横穴が完成していた。
「もう大丈夫だよ。雨が降って来ても濡れないよ。
またねバイバイ。」と、掘ったばかりの横穴に
子猫を入れて、その場を立ち上がった。

その瞬間、土砂崩れが起きた!

掘ったばかりの横穴の中に子猫を残したまま…

思わず「ワッ〜‼︎」と慌てて叫んだ!
咄嗟に、しゃがんで土砂でうもれてしまった
横穴を掘り返した。
「まだ間に合う!」必死になって掘り返した。
「今ならまだ間に合う!この辺のはず!」
無我夢中で、あったはずの横穴を掘り返した。
「この辺のはず!今なら…まだ間に合う!」
掘っても掘っても子猫が見つからない。
目から涙が溢れてくる。
「ワ〜ッ‼︎早く出て来て‼︎」
掘っても掘っても子猫が見つからない…

気がつけば辺りは陽が落ちて薄暗くなっていた。

泥だらけになった手も…顔も…洋服も…
何も気にならない…

「自分と…出会ったばっかりに…」

「自分とさえ出会わなければ…」

「自分とじゃない別の誰かが
     先に見つけてくれていたなら…」

家までどう帰って来たのか…

まるで分からない…


あとがき

聞くが遅し、見るが遅し、知らせるが遅し
気がつくが遅し、叫ぶが遅し。

人は誰しも自分の意思で
人間に生まれてきた訳ではない。

然りとて

聞くが遅し、見るが遅し、知らせるが遅し
気がつくが遅し、怒鳴るが遅し。
になる前に。

知っておかなくてはならない事がある。
折角、人として生まれて来たのだから。

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