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百聞は一見に如かず‐初めての海外旅行を通じて

2017年12月25日。町はクリスマスムードに包まれ、華やかなイルミネーションが街を彩る中、僕と家族は羽田空港にいた。イギリスに留学している兄を訪ねるため、静岡からバスと電車を乗り継いでここまで来たのだ。

初めての海外旅行。14時間のフライトが僕たちを待ち受けている。普通なら、これほどの冒険に心が躍るものだろう。期待と興奮に胸を膨らませ、未知の世界に思いを馳せるはずだ。しかし、僕にはその実感がまったくなかった。

振り返ってみれば、それも当然だったのかもしれない。生まれて16年間、静岡の田舎で過ごし、海外旅行どころか外国人と触れ合う機会すらなかった僕にとって、世界の広さや多様性は、まだ遠い幻想だったのだ。

空港の喧騒も、海外旅行の高揚感も、どこか遠くの出来事のように感じられた。手元には学校の課題として与えられたディケンズの『A Christmas Carol』。そのページをひたすらにめくりながら、心はどこか冷めていた。

おそらく海外を分かったつもりになっていた。地理や歴史のテストは得意だったし、本やテレビで何度も目にした。

日本にいながらでも多様性だとか、世界の広さを知ることができると高を括っていた。

ガイドブックに目を通すこともなく、機内サービスを楽しむこともなく、ただ、静かに過ぎゆく時間に身を委ねるだけだった。未知の世界への扉が開かれようとしているのに、僕の心はまだ、その一歩を踏み出す準備ができていなかったのかもしれない。

ヒースロー空港に足を踏み入れる。目の前に広がる世界に僕は驚いた。

機内にも外国人乗客はいた。それでも日本人乗客のほうが多く、どこか日本国内にいるみたいな感覚だった。しかし、目の前には多くの外国人。流れる英語アナウンス。日本と違う匂い、肌で感じる温度。

自分だけがまるで異世界に転生したかのような感覚に襲われた。

街に出てからはもっと驚いた。

レストランのビーガンメニューも、ハンバーガーのサイズも、二階建てバスも、レンガ造りの街並みも。全部もとより知っていたのに、いざ自分が体験してみると新たな発見がたくさんあった。

「ビーガン料理にこんなレパートリーがあったのか」

「ハンバーガーって食べきれないほど大きいのか」

「二階建てバスの先頭ってスリルがあるな」

「レンガ造りの家って風通しが悪いな」

「日本の車ってこんなに走ってるんだ!」

そんな発見をするたびに、自分の世界、価値観が広がる感じがした。

そんな中、兄の大学を見学した。

そこでは色々なルーツをもつ学生たちが1つのトピックについてプレゼンテーションし、熱心に議論を交わしていた。

その様子を目にして、「この国で色んなことを学びたい」「将来はグローバルな人材として活躍したい」と感じるようになった。

イギリスに滞在したのはわずか2週間。しかし、その旅は当時高校1年生の僕にとって、新たな世界への第一歩となった。自分の小さな殻を破り、広い世界へと飛び出す勇気を与えてくれたのだ。あの日の僕が感じた退屈さや不安は、今となっては懐かしい思い出となり、僕の成長を物語る一ページとなった。

そして、5年後。大学3年生の時に1年間のイギリス留学をした。イギリスだけでなくヨーロッパの国々を多く旅した。その中で新たな世界をたくさん知った。もちろん苦しいことも多く経験した。すれ違いざまに耳元で差別的な言葉を言われたこともある。自分の言いたいことが伝わらないこともあった。

でも、最終的には大きく成長することができた。

それは高校生の時に経験した世界の広さや多様性を実感し、世の中には自分の知らない世界があること、そこに飛び込むことで多くの学びを得られると知ったからだ。

現在は留学生支援団体の設立や、様々な世界観を共有しあえるようなコミュニティづくりに励んでいる。会社では多くの外国人と協力して仕事している。

そんなきっかけになったのは、あの旅で本やテレビの情報だけでなく実際に体験することの大切さや、その体験によって得られる価値や世界の広さを知ったことがすべてだ。

「百聞は一見に如かず」

体験こそ何にも代えられない価値であろう。

#忘れられない旅

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