ほしかった言葉
いつだって彼は私のほしい言葉をくれなかった
初めて会ったときもそう。近寄りがたいオーラに、無口で冷徹な感じ。私だって壁を作っていたから、一切話すことはなかった。本当はちょっとくらい話したかったけど。挨拶くらいしてくれても良かったじゃない?どうせ私が話しかけても応えてくれなかったとは思うけど。
それでもなぜか仲良くなった。変なあだ名で呼んでくるし。からかわれるし。意地悪されるし。もう!って怒ったら、ケラケラ笑って、いつも楽しそうで、憎めないし。他の子と同じように女の子扱いしてほしいって思ったり思わなかったり。ね、ほしい言葉をくれないばかりか、思ってもいない言葉ばっかりなのよ。
悩み事を相談したときだってそう。「俺には助けられないから〜」とかなんとか。こういうときは「そっかぁ、しんどいね」って言って慰めてくれるものだと思ってたのに。彼はなんて言ったと思う?「笑う門には?」ってさ。え?どういうこと?「福きたる?」って返すと「はい、笑いましょう」そう言って笑かしてきた。ふざけてるのかって思うじゃない?でもね、自然と悩み事なんてどうでも良くなるし。なんか時々良いこと言いやがるし。
惹かれるのに時間なんていらなかった
不思議よね、ほしい言葉、何一つくれないのに
半年以上片想いして、告白したときもそうだった。困らせちゃってごめんね。それでも真剣に考えて向き合ってくれたことは伝わったし、私のことを大切に思ってくれてることはわかった。私が笑いながら伝える言葉も、いつもなら笑ってくれるはずの言葉でさえも、全部真面目に聞いてくれるの。ほんと、なにそれ。いつもみたいにからかってよ。
でもね、ほんとは気づいてた。いつだって誰よりも彼はやさしかったから。不器用だったけど気づいてた。いつだって私を笑顔にしてくれたから。
ほんと、何一つほしい言葉をくれない彼だけど
いつも想像以上の幸せを私は彼からもらってた
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