父の作るカレーの話。
我が家のカレー担当は、父である。
まったく料理が作れない父が作れる唯一のメニューがカレーだ。
(もしかしたら、シチューも作れるかもしれないが。)
いびつに刻まれたゴロゴロしたジャガイモとにんじん。
トロトロに溶けた玉ねぎ。食べ応えのある大きくて柔らかなブロック肉。
ルゥはどうやらスーパーで売られているものを二種類ブレンドしている模様。たまに溶けていないルゥのかたまりが混在しているのは、ご愛敬!みたいな、いたって普通のカレーだ。なぜルゥを二種類ブレンドしようと思ったのかはなぞだが、カレー以外の料理を全く作れない父が作るカレーなのだから、大したこだわりがあるとは思えない。
そんな父が作るカレーが、実は私にとっての大好物であることに、気づいてしまった。いや、ようやく気付くことができた。
***
実家を出てから、なるべく毎日自炊するようにしている。
その日は、明日は遅くなりそうだからという理由で、なんとなくカレーを作った。いつもの具材を切って市販のルゥで煮込むだけ。父にもできるのだから、私にとってなんら難しいことではない。
だけど、なぜかあまりおいしくない。
なんだか脂っこくて、どうしてもお肉が食べられない。ルゥもなんだかこってりしていて、重みがある。ブレンドしていないものの、父が作るカレーとなんら変わらないはずなのに・・・。うーん、なぜだろうか。
それからというもの、自分でカレーを作らなくなってしまった。
***
そんなある日、久しぶりに実家に帰ったときのこと。
ただいま!と玄関のドアを開けると、食欲をそそるいい匂いがぷーんと漂ってくる。台所に行くまでもなく、すぐに『今日はカレー』であるとわかった。内心、久しぶりに帰ったのに、母の手料理じゃなくて父のカレーか。と少しだけ落胆した。
そんな中食べた父のカレーが、自分の想像を超えて美味しかったのだ。
実家にいたころは、またカレー!?もう飽きたよ、カロリー高いし嫌だなぁ。なんて文句ばかりを言っていたが、こんなにおいしかったなんて。
美味しい。と一言伝えると、そりゃそうだ。と返事が返ってきた。
脂身が苦手な私のために、あえて赤身のお肉を選んだり、柔らかくするために、包丁で筋を入れたり、たまねぎとじっくり炒めることで、お肉か柔らかくなるように手間ひまかけていた。そして最大のコツは、油を一切使わないことだという。
私の好みを知り尽くして食べやすくしてくれていたなんて、知らなかった。まったく料理なんてできないくせに、ちゃっかり調べて、考えながら作ってくれていた。
父、やるじゃないか。
ペロッと完食しまっていたよ。
最近は、親に甘えるなんてめっきりなくなってしまったけれど、
美味しいカレーが食べたいなぁーって、たまには甘えてもいいのかもしれない。
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