10年以上「株価」を追いかけてばかりだった投資家に、「事業」に関心を向けることの大切さを気づかせてくれた5つの投資信託の話

2003年から株式投資を始めました。20年以上が経ちました。

始めた当時は投資に割り当てられるお金も、時間もあまり無かったし、経験も乏しかったのです。

実は、勤務先で株式投資をしていました。対象は、未上場会社、その種の会社にまとめて投資するベンチャーファンドです。それでも、投資の経験は全然足りなかったのです(ちょっとわかった気になっていたプロ気取りだったかもしれません、、、)。

色々と考えて、自分のお金を投じる先として選んだのが投資信託でした。

少額から始めることができる。つまり、毎月少しずつ買い増していける。さまざまな資産に分散投資が可能。分散投資ゆえにリスクが抑えられる。僕にピッタリだ、と思いました。

ここからあまり時間をかけることなく、インデックスファンドのことを学んでいきます。インデックスファンド、素晴らしい。そんな考えをここから10年以上抱いていました。

毎月、毎月、自分の資産の時価を確認しました。株式と債券の比率が先月末とどれだけ変化していたか、にも強い関心を寄せていました。というよりも、です。

それしかみていなかった

というのが正しいでしょう。投資信託の時価、基準価額はその保有資産の価格から計算されるものです。いわば 株価しか見ていなかった、追いかけていなかった ということです。

投資信託を毎月、毎月買い足していました。リーマンショックや金融危機で大きく時価が下落した際も買い足し続けていました。その間も、株価だけを見ていた、株価だけを追いかけていました。

株価だけを見ていた、株価だけを追いかけていた当時の自分について思うことがあります。「もったいないことしてたよね」と。株価よりも目を凝らしてみるべき対象に気づけていませんでした。

株価よりも目を凝らしてしっかり見るべき対象。それは投資先の「事業」です。

株式投資の成果の源泉は、投資先企業の「事業」が実現する価値であり、その対価が数字となって現れる利益、利潤です。

追いかけるべきは株価ではありません。投資先の「事業」です。

それに気づくまで、実は10年以上の時間を要しました。とても長い時間をかけてしまったと残念に思う一方で、時間をかけてでもそれに気づくことができて本当に良かったとも感じています。

株価ではなく「事業」を見ろ、そう僕に教えてくれた代表的な投資信託をこの記事ではご紹介します。

最初に挙げる投資信託との出会いは2014年でした。


株価ではなく事業を見ろ、それを教えてくれた投資信託 その1

その投資信託は

スパークス・新・国際優良日本株ファンド (愛称:厳選投資)

です。

この投資信託をちゃんと見て間もなくのブログ記事がこちらです。

2014年2月の記事です。

この記事を読み直してみると、投資先の企業のことについて多少興味を寄せているようにも見えますが、パフォーマンスに注意を持って行かれていた印象です。

パフォーマンスは基準価額から計算されるので「株価」みたいなものです。投資先の事業ではなく「株価」に興味のほとんどを持って行かれていたのが窺えます。

この記事から1年後、ふたたびこの投資信託の記事をつくりました。

相変わらず、この記事でもパフォーマンスに関心が向けられています。株価を追いかけるばかりの当時の僕。

この記事から数ヶ月。僕はこの投資信託を毎月、積立投資することに決めました。

9年前、積立投資を始めた際につくった記事です。

記事を読み直してみると、この時点では、投資先の事業に目を凝らさなきゃ、株価はオマケだという認識が全くなかったように感じます。

僕の考え方に変化が生まれたのはそれから1年以上経ったところだったようです。

記事のタイトルに”月次レポートが素晴らしい”と付けるようになりました。

この投資信託の月次レポートは非常に内容が濃いものでした。記事のタイトルを変えたタイミングの月次レポートは今も閲覧可能です。

https://www.sparx.co.jp/mutual/gen_201702.pdf

リクルートホールディングスさん、アシックスさんが非常に詳しく紹介されています。内容は、両社の「事業」にフォーカスされていることがお分かりいただけると思います。

この頃になってやっとのことで、投資先の「事業」に関心を持つべきだという意識が芽生え始めたのだろう、と思い返しています。

2003年から数えると14年近くが過ぎていました。

投資先の「事業」を見ろ、それをさらに強く意識させてくれた2つ目の投資信託です。

株価ではなく事業を見ろ、それを教えてくれた投資信託 その2

日本人に必要なのは小手先の「資産運用」、「フィナンシャル・リテラシー」などではなく、投資の根源を成す資本家的発想、つまり事業を所有するという本質的な発想の転換なのです。

https://www.diamond.co.jp/book/9784478084120.html

京都大学の経営学講義 いま日本を代表する経営者が考えていること」

このシリーズを読んでみたのが2017年の終わりのことです。

正直なところ、この本とどのように出会ったのか、よく憶えていません。

この本との出会いから約1年前、この本を読んでいました。

投資される経営 売買される経営』 です。

『投資される経営 売買される経営』の著者、中神康議さんの発信や講演に色々と当たっている過程で「京都大学の経営学講義 いま日本を代表する経営者が考えていること」と出会ったのではないか、というのが現在の推測です。事実は異なっているかもしれませんが今となってはもはやわかりません。

このインタビューも当時、出会っていたような、出会っていなかったような。

2012年の頃の奥野一成さん、まだNVIC設立前

京都大学の経営学講義 いま日本を代表する経営者が考えていること」と出会った2017年12月、既にこの投資信託は設定されていました。

当時の名前は「農林中金<パートナーズ>米国株式長期厳選ファンド」でした。”おおぶね”以前のことです。

この投資信託も月次レポートで唸らされました。もちろん、レポートの主題はいつも「事業」です。とても驚いたのは、投資している会社だけではなく、そのタイミングで投資を検討中、調査中の会社まで紹介される回があったことです。

事業を見ろ!その経済性や強さにこそ興味を向けろ! その意識を植え付けてくれました。

しっかりとした事業を営んでいるかどうか、持続的に価値を創造、実現できているか。

そんな事業を営む企業の株式を保有できていれば「売る必要がない」。

バフェットさんの考えへの理解も、この投資信託のおかげで徐々に深めることができました。

この投資信託を実際に買い付け始めたのは2019年5月のことでしたが、実際に買い始めて毎月のレポートを読み続けて、気づくことができました。

世の大多数の投資信託のレポートは、毎月、毎月、株価のことばかり、市況のことばかり。投資先の事業について何も説明しようとしていない、と。

投資している会社の「事業」に関心を持ってもらおう、その意思を感じさせる投資信託は、依然として圧倒的な少数派です。

”おおぶね”シリーズへの投資を続けることで、事業、その経済性への関心、興味が高まり続けています。

株価ではなく投資先の「事業」を見ろ、それを決定づけた3つ目の投資信託です。

株価ではなく事業を見ろ、それを教えてくれた投資信託 その3

3つ目の投資信託と出会ったのは2020年です。コロナ禍の始まる直前に出会ったのが、ベイリー・ギフォード社です。ベイリー・ギフォードはイギリス スコットランド、エディンバラで100年以上の歴史を持つ投資会社です。

株式投資の本来あるべき姿 について話し合いましょう

というタイトルのレポートと出会いました。こちらもどのように出会ったのか、正直、記憶がありません。

彼らが実践しているのは、パッシブ投資でもなければ、ACTIVE でもない、と。実践しているのはACTUALだ、というのです。

そもそも「アクティブ」 と呼ばれているものの多くが、本来あるべき姿からは程遠いのです。投資の 基本的な目的は、経済における余剰資金を、利益を生み出す事業機会を見つけた起業家や企業経営者のアイデア、 プロジェクトに資本として供給することです。プロの投資家としての私たちの仕事は、これらのアイデアやプロジ ェクトに関連するリスク、起こりうる 投資リターンの範囲、及びそれらの生 起確率を比較検討し、資金調達に使用 されている株式又は債券に価格を設定 することです。

https://media.bailliegifford.com/mws/javfxvab/20191002161927_baillie_gifford_actual_investing_paper_42609.pdf

株価の動きを追いかけた投資行動は、本来あるべき姿では無い。投資すべき「事業」を選び、その事業に資本を提供するのが「本来あるべき姿」である、と。

株価を基につくられた理論、モデルであるCAPMを痛烈に批判していました。

殆どの株式投資は、もはや企業による投資プロジェクトに、リスクを取って長期的に資本を供給することではなくなってしまいました。想像上の「市場リターン」を最小限のコストでただ乗りすることが主流になってしまったのです。

https://media.bailliegifford.com/mws/javfxvab/20191002161927_baillie_gifford_actual_investing_paper_42609.pdf

事業そのものを見ることなく、株価を追いかけ回す投資家で市場を埋め尽くしたのがCAPMではないか、と読めました。ACTIVEを名乗る投資家の中にも、株価を追いかけ回しているばかりの投資家ばかりじゃないか、と。当然、パッシブ投資家も株価を追いかけ回すばかり。

このレポートでは、アリゾナ州立大学のベッセムバインダー教授の調査も紹介されています。この調査、最初に挙げた投資信託、スパークス”厳選投資”の月次レポートでも紹介されたことがあります。

2017 年と 2019 年に米国で発表された論文によると、これまで株式市場で生み出された富(時価総額の増大分) は、今まで存在した全上場企業のうちほんの一握りの銘柄によってもたらされているという研究結果がでています。 米国株式市場では 1926 年から 2016 年にかけて約 35 兆ドル分(約 4,200 兆円)時価総額が増えたとされています。

この増加分のほぼ全てが、調査対象となった上場企業 26,000 社のうち僅か 4%の銘柄(約 1,000 社)によってもたらさ れていたのです(*)。また米国を除く世界の株式市場では、1990 年から 2018 年にかけて増えた約 16 兆ドル(約 1,900 兆円)の株式時価総額はたった 1%足らずの上場企業によってもたらされていたことが判明しています
(出所:Hendrik Bessembinder 著 、“Do Stocks Outperform Treasury Bills?”[2017 年]、 “Do Global Stocks Outperform US Treasury Bills?”[2019 年] )。

https://www.sparx.co.jp/mutual/gen_202203.pdf

「これまで株式市場で生み出された富(時価総額の増大分) は、今まで存在した全上場企業のうちほんの一握りの銘柄によってもたらされている」。

GAFA、マグニフィセント7ほかから、この事実は理解できそうです。ただ、ここで大事なことは、これらの会社の株価だけを見ていても仕方がない、ということです。

どんな事業を営んでいるのか、その経済性はどうなのか。何が「違い」になっているのか。その違いはどうして実現しているのか。興味を傾けるべきは、こうした点です。そうした事業を株式市場がどのように価格を付けているのか、という観点で株価に関心を寄せるべき。

こうした考え方へ導く助けになったのがベイリー・ギフォード社の運営している投資信託です。

この投資信託は月次レポートは極めて淡白な内容になっています。しかし、四半期毎に発信されるレポート等の中身は非常に充実しています。

https://www.am.mufg.jp/fund/topics/__icsFiles/afieldfile/2024/04/30/253406s_240430.pdf


ここまでご紹介した3つの投資信託のおかげで「株価ではなく事業を見ろ!」という構えの重要性を認識できるようになりました。

この認識が強くなっていく過程で、それまでの見方を変えることになった投資信託も出てきました。特にこれからお示しする2つの投資信託の捉え方、認識の仕方が変わりました。

株価ではなく事業を見ろ、それを教えてくれていた投資信託 その1

2010年3月に設定された投資信託、『結い 2101』。設定されて以来、ずっと毎月買い増し続けています。この投資信託は設定当初から月次レポート”結いだより”で投資先に選んだ会社のことを詳しく説明されています。

毎月このレポートを確かに読んでいました。しかし、最初の数年間は投資先の会社、その事業に対する興味、関心はさほど強いものではありませんでした。

受益者総会にも参加していました。でも「事業」という言葉を頭に思い浮かべていたか、意識していたか。当時を思い出してみると、いやあその言葉は無かったなあ、というのが正直なところです。

そのような構えだったわけですが、2015年以降「株価ではなく事業を見ろ!」という投資信託との関わりが増えていくにつれて、気づけました。

”結いだより”から読み取るべきは、投資先の会社の事業なのだ、と。

投資先の会社が初めて紹介された『結いだより』です。

https://www.kamakuraim.jp/_files/10-2/yuidayori_1005.pdf

未来工業さん(現在も投資先の1社です)が紹介されていますが、株価のことはどこにも書かれていません。事業の内容と、それを鎌倉投信さんがどう評価したか、が述べられています。

このレポートが発信された当時の僕は、未来工業さんの事業を自分でも調べてみよう、業績は財務はどうなっているのだろう、そんなことを思いもしませんでした。投資を通じて関わっている会社の事業への関心が極めて希薄でした。

投資先の事業への関心が高まった今、新しい投資先が加わるその会社のこと、歴史や事業内容、業績や財務、計画の進捗状況等を自分でも調べるようになりました。

興味の方向性が大きく変わりました。自分の投資の成果、果実の源は、投資先の会社の事業にある

至って当然のことを意識していなかったのです、株価を追いかけるばかりだった頃の僕は。結い 2101 は、その設定当初から事業に関心を寄せる重要性を示してくれていたのに、それに気づくことができなかったのです。

株式投資を通じてその会社の事業に参加しているからこそリターンを受け取ることができる。その大前提が不十分な状態だったので、株価を追いかけてしまっていたのだろう、今になって感じています。

「事業を見ろ!」というメッセージを発し続けているのに、僕が気づけなかった投資信託がもう一つあります。

株価ではなく事業を見ろ、それを教えてくれていた投資信託 その2

この投資信託も、その設定の頃からお付き合いがありました。

コモンズ30ファンドの場合、月次レポートで見ると2019年12月末基準から変化が見られます。

3ページ目の「今月のピック!」がこの号から3社になりました。それ以前は1社のみでした。

この号で見逃せない変化は2社目のユニ・チャームさん、3社目の味の素さんへのコメントの中身です。株価の変動についてのコメントはありません。

ユニ・チャームさんについては、直近に発表された決算から事業の競争環境の変化、それに対するコモンズ投信としての見方が示されています。「事業」についてのコメントです。

味の素さんについては、機関投資家向けのスモールミーティングでの対話内容が報告されています。こちらも「事業」に対する理解を深められる内容です。

月次レポートだけではなく、投資先との対話に受益者も招いた機会を多数設けられていました。

こうした対話が事業の内容を理解するのに、理解を深めるのに大きな助けとなること、その重要性を正しく認識できていませんでした。

株価ではなく事業を見ろ!という意味で、とても意義深い機会と認識しました。

結い 2101、コモンズ30ファンド。ともにその設定来から関わりを持っていましたが、これらの投資信託が発している「事業を見ろ!関心を寄せて!」というメッセージをしっかりと受けて取れていなかったように思われるのです。

株価、それを基に計算されるパフォーマンス、あるいはフィーにばかり関心を向けていたのだ、それを10年以上続けていたのだ、と再認識させられました。

今回挙げた投資信託の月次レポート等の発信をしっかりと読んで、そこから関心が広がれば投資先の会社の事業を自分で調べる。

これを積み重ねていくことで、自分がどのような事業に参加しているのか、どんな価値創造、実現に関係できているのか、を実感することが増えてきたと感じています。

鎌倉投信 社長の鎌田さんの記事からです。

投資において避けるべき最大のリスクは、元本が目減りすることではありません。そもそも自分の大切なお金が、何に投資をしているかが分からないことが最も大きなリスクではないでしょうか。

投資信託を利用している以上、非常にたくさんの投資先を持っていることになります。その全ての事業を詳しく理解することはほぼ不可能です。それは認めます。

でも、だからこそ、少しでも多くの投資先のことを知りたい、理解したいと興味、関心を寄せることが大事、とても大事だと思っています。

その事業はどんな問題・課題を解決しているのか、誰を笑顔にしているのか。その事業が生まれたのはどんなきっかけがあったのか、どんな人たちのどんな想いがあったのか。どんな苦労を乗り越えて価値を実現させたのか。

「事業」を知りたいとする好奇心、興味を持ち続けることで、新しい出会いや発見の可能性が大きくなると思うんですよね。

「途中のリスク」「最後のリスク」

こちらの本の8つ目に、「途中のリスク」と「最後のリスク」という箇所があります。この本で述べられている2つのリスクを、僕はこう解釈しています。

資産形成に時間をかけてそれこそ何十年かけて取り組んだけれども、期待していた目論んでいた金額水準に到達しない、及ばない可能性。

これが「最後のリスク」です。このシナリオが実現しないために、途中の価格変動リスク=「途中のリスク」を受け入れる必要が出てくる。

僕自身にとっての「最後のリスク」ってどんなことだろうか、と考えてみました。

金額水準ではないと考えています。

新しく資産を追加取得することができなくなる、これから資産を取り崩していく段になった時です。その時に、株式投資を通じて関わりのある会社の事業内容を全然わかっていない。

こういう状態が、僕にとっての「最後のリスク」になるのかもしれない。この場合、「途中のリスク」って何なのだろう、って問いが生まれます。

中身がよく理解できていない資産を、なかなか処分することができずにズルズルと保有し続けることが「途中のリスク」なのかもしれません。

自分のポートフォリオが、その事業を全く理解していない会社の株式で埋めつくされしまわないように、これからも引き続き、事業を見よう、関心を向けよう。そう強く思います。

今回ご紹介の5つの投資信託との関係を通じて、これからも事業への理解を深め、関心を広げていけると信じています。まだまだ大いにお世話になります!

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