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なぜ「公募型」「投資信託」「直販」だったのか…鎌倉投信の事業戦略を立てた時の想いとは



「政府や大手金融資本が動かす大きなお金の流れから真の意味で社会が変わることはない。むしろ、一人ひとりの意思ある小さな投資や消費がジワリと増えていくことの方が社会をよくする力になる。」投資の世界を長く観る中で、僕が感じてきたことだ。鎌倉投信を創業する時、どのように事業戦略を構築すればそれを実現できるだろうか・・・と、そのことをずっと考えていた。

2008年11月に鎌倉投信を設立する前、僕の声掛けで集まってくれた創業メンバーは、約半年かけて議論を繰り返しながら、創業の目的や事業の戦略を練り上げました。前のnoteでも触れましたが、当時のメモをみると、運用会社を自ら立ち上げる目的について、このように記されています。

「個人投資家が一生涯安心して預けられる運用商品の提供と長期投資の考え方に根差した資産運用を社会に広めることを通じて、金融的な豊かさと心の豊かさを実感できる社会づくり、人の輪、夢の輪が育まれる社会づくりに貢献するため」

これが、今の鎌倉投信の志の原点です。

創業前、創業メンバーとかなりの時間をかけて議論したのが、この想いを実現するための事業戦略でした。投資や資産運用に関わる事業といっても様々な形態があります。例えば、ファンドラップや年金の運用をおこなう時のように、お客様と個々に契約を締結する投資一任業務もあれば、投資信託を運用する投信委託業務もあります。投資信託のなかにも、不特定多数の投資家からなる公募型もあれば、人数等に制限がある私募型や外国籍など様々な形があります。こうした様々な選択肢がある中で、私たちは、最終的に「公募」の「投資信託」を「直販」で販売するという事業の形を選びました。

金融商品をつくる、いわば製造メーカーである鎌倉投信が、自ら販売をおこなうD to C(Direct to Consumer)の仕組みです。しかし、「投資信託」は、運用商品の中でも最も法規制が厳しく、運営にはお金も人も要します。なおかつ販売を他社に頼らず自社でやる「直販」となると、運用だけをおこなう場合に比べると人も費用も2倍かかるのです。実際にそれを事業化することは容易ではありませんでした。

目指したのは「直販型の公募投資信託だからできる個人参加型の金融像」


敢えて、その難しい事業を選択した理由が、次の三つでした。

一.     満期をなくすことができる「投資信託」を通じて「いい会社」の成長を応援し、長期的な視野に立った資産形成と社会の持続的な発展に貢献するため
二.     不特定多数の人が少額から参加できる「公募型」を通じて何万人という多くの人に「いい会社」への投資やそれを通じた社会との関わり、未来との関わりに関心を持っていただくため
三.     顔の見える「(銀行や証券会社を介さない)直接販売」を通じて、鎌倉投信、お客様、投資先の会社の三者が信頼で結ばれる関係をつくるため

これによって目指した金融の姿が、「直販の公募型投資信託だからできる個人参加型の金融像」です。

一、「投資信託」であること ~ 満期がないことの意義 ~

様々な金融商品がある中で、鎌倉投信は、投資信託から始めました。投資信託は満期を無期限にすることができるからです。このことは、とても長い視点で投資先の会社を応援することができるという点において重要な意味を持ちます。例えば、会社がおこなう事業の中には5年、10年、もっと長い事業サイクルのものも沢山あります。しかし、そこに投資する投資家が数年で結果を求めたらどうなるでしょうか。投資家が成果を急ぐあまり、経営のあるべき姿がゆがめられ、成功する事業も育たなくなってしまうでしょう。満期を無期限に設定することのできる投資信託は、極論すれば100年先をも見据えた投資が可能です。

「いい会社」が「いい会社」であり続ける限り、全売却をすることなく長期で保有し続ける、という鎌倉投信の投資姿勢は、満期のない投資信託だからこそできるのです。

二、公募型であるということ ~ 不特定多数の投資家が少額から参加できることの意義 ~

公募型の投資信託は、順調に拡大していけば何万人、何十万人という個人投資家が参加します。大きなお金の塊よりも、少額でも多くの人の想いのこもったお金が積み重なった方が運用の成果も安定し、社会全体の豊かさは、その数だけ膨らみます。これが「公募型」を選んだ理由です。

例えば、一人のお金だけでは多くの会社に投資をすることは難しいかも知れませんが、お金を束ねて運用する投資信託であれば、様々な発展段階にある会社や異なる業種の会社を上手く組み合わせて投資することが可能となります。まだ創業間もない会社等は、将来性はあるが一社単体で見れば非常にリスクが高いことが一般的です。しかし、こうした会社であっても全体の一部に上手く組み入れることによってそのリスクを許容し、成長を後押しすることも出来るのです。
 
投資の果実=「資産形成」×「社会形成」×「心の形成」

鎌倉投信は、投資の果実をこのように定義しています。

投資をすることで得られる果実(リターン)は、何といっても投資した資産が増えるという期待感です。投資する「いい会社」が発展成長すれば、長期的に見れば株価も上がり、投資家のお金は増える傾向にあります。それだけではなく、投資は、個人の資産形成に留まらない価値を生む力があります。投資した会社の事業を通じて社会に価値が創造されたり、社会課題が改善されたりすれば、社会や経済のよりよい発展成長を促すことにつながり、巡り巡って私たちが暮らす社会、未来はより豊かになります。また、投資をきっかけにして知り合った人や経営者から、多くの学びや気づきを得ることも少なくないでしょう。投資は、人としての成長機会でもあるのです。

三、直販であるということ  ~ 顔の見える金融の意義 ~

「直販」にしたのは、投資家との顔の見える信頼関係を築くことを大切にしたかったからです。

投資において避けるべき最大のリスクは、元本が目減りすることではありません。そもそも自分の大切なお金が、何に投資をしているかが分からないことが最も大きなリスクではないでしょうか。

販売会社である銀行や証券会社の窓口を経由して購入する投資信託は、よく調べないと運用の中身が分からないことが少なくありません。その点、運用会社が直接お客様に投資信託を販売する「直販」であれば、運用者の考えや投資したお金がどんな会社にどのような考え方で投資されているかが伝わりやすくなります。こうして運用者と投資家の間に、信頼できる関係を築くことができれば、投資家は安心して長い目線で資産形成に取り組むことができ、お金が増えていく可能性もぐっと高まります。

それに加えて、投資先の「いい会社」の取り組みも知ることができると、さらに消費者としてもその会社を応援することもできるでしょう。正に「いい会社」のサポーターになり得るのです。

一燈照隅の投資こそが社会をよくする力になる

「投資信託」「公募」「直販」が持つ、この三つの特徴をきちんと働かせれば、政府にも大手の金融機関にも依存することのない、いわば個人参加型で社会を豊かにする投資につながると思っています。もちろん、公共事業に代表されるインフラ投資や宇宙開発、新技術の開発や研究といった莫大な投資を必要とする国家的なプロジェクトは、一人ひとりの投資の手に負えるものではありません。確かに、それによって経済や社会の構造が変わることもあるでしょう。

しかし、人と人とが関わり合いながら成り立つ社会をよりよくするための投資の意義は、自分の利益(投資のリターン)を享受しながらも、投資をきっかけにして、投資をした人自身の意識と行動が、社会をよりよい方向へと向かわせる力になることにこそあると感じています。

一般生活者の少額からの投資で何か変るの、と思う人もいるでしょう。しかし、金額の大小は問題ではありません。1万円からの投資をきっかけに、自分の人生や社会に対して、主体的に向き合う人がふえることに意味があります。その数が、一人から、何万人、何十万人、何百万人となった時、一人ひとりの小さな意識の変化が社会を動かす力になるのです。

僕は、そうした一燈照隅の投資こそが社会をよくする力になると信じています。

長々とnoteにお付き合いいただきありがとうございました!
次回は、鎌倉投信の投資の哲学について書こうと思っています。
次回も、ぜひ、読んでください。


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