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✦✦vol.8〜もう一つのホーム、小さな街の喫茶・レストラン✦✦

[REN's VIEW〜“その価値”についての考察]
もう一つのホーム、小さな街の喫茶・レストラン


✦新しい街で見つけたのは

今の住居に移り住んでから、気づくとそろそろ一年近くが経つ。
新橋・品川辺りから東海道線の下りに乗って、川崎か横浜で空いた席に座る。ついうとうと寝過ごしてしまえば、県境を抜けて静岡に入ってしまう。神奈川の、西の外れの小さな街だ。
どこを歩いていても遠く山の稜線が目に入る、緑豊かに長閑で静かな街。夜の九時も過ぎれば、駅前でも人影はまばらだ。殆どのお店は灯りを落とし、白地に赤と緑のコントラストの映えた、セブンイレブンの看板だけが煌々と光を放つ。
コロナ渦に引っ越して来たので、この街の本当の活気、本来の人の流れはまだ分からない。

そういう小さな街に、去年の秋頃、こじんまりとした喫茶・レストランを見つけた。
『山小屋』という看板。
六つか七つ、スナックやバルの並ぶ横丁の四つめのお店で、入り口の脇には、その日のお勧めランチのサンプルが置かれている。彩り豊かなサラダの脇には、存在感のあるハンバーグ。スープやライスもセットにできる。
内装も、そういうお店の王道的定番に沿っている。六人座れる木造りのカウンター席と、壁を背もたれにするベンチシートのテーブル席が三つ。

初めて入った時は一人で、入り口寄りのカウンター席に着いた。レジの脇には、コーヒーのと思しき回数券がペタペタと貼られている。常連さんたちのものだろう。
カウンター越しの壁に、何人かの男女が親しみある笑顔を浮かべた写真が貼られていて、『山小屋を勝手に愛する会』というタイトルが付されていた。目に入ったとき、“素敵なお店に出逢えたな” と心の中で思った。

今年で43年めに入ったというお店は、ご夫婦二人でされている。
奥の厨房には旦那さん。
「はいよっ」と小気味のいい掛け声がすると、できたてのハンバーグやドリアやパスタを奥さんが席へと運ぶ。
淹れたてのコーヒーの香り。アイスやフルーツやトッピングの組合せを自由に選べる “オーダーメイドのパフェ”もある。

✦街に帰ると

この頃は少し減ってしまったが、仕事柄、ちょっとした出張取材も多い。
前入りした夜のビジネス・ホテルでは、緊張から準備草案に何度も目を通す。当日どうにかインタビューも終えて、大抵はその翌日、録ったばかりの音源を聞き返しながら、帰りの列車の中での移動時間を過ごす。
最寄りの駅まで辿り着くと、お腹が空いていたらデミグラス・ハンバーグを食べに、空いていなくても立ち寄って、温かいコーヒーを1杯頂く。それでやっと “今回も無事に終えて帰って来れたなぁ”という実感が沸く。
長引くコロナ渦の独り身にあっては、この頃はいよいよ、そういうお店の有り難みが身に沁みる。

ささやかで大切なTransit Point。それぞれの人の、家に帰るまでのちょっとした中継地点。
バーなどで話題にしても、和やかに盛り上がれる定番テーマの一つ。

「それだったら、うちの街にはね、」

思わず誰かに話したくなる “ホームタウン・カフェ”の様な場所が、皆さんにもきっとあるのではないだろうか。

野咲 蓮
メッセージ・コンサルタント(人物・企業のリプロデュース) 著書:人間を見つめる希望のAI論(幻冬舎刊)


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