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✦✦vol.3 若き挑戦〜大谷翔平を後押しするもの✦✦

[REN's VIEW〜“その価値”についての考察]
若き挑戦〜大谷翔平を後押しするもの


✦素早い援護射撃

労使交渉でスケジュールの遅れたメジャーリーグが、この頃ついに開幕を迎えた。今シーズンの始まる前には、いわゆる『大谷ルール』と呼ばれる制度の改正があった。
これによって『投手兼打者』で先発した者は、つまりは大谷翔平は、マウンドから降りてもDH(指名打者)として打席に立てる。
言うまでもなく、二刀流プレイヤーの打席数を増やし、タイトル獲得の可能性を持たせるのがその改正趣旨だ。“えこひいき”ではなく、活躍を阻んでいた不適切な障壁を取り除いたと言って良いと思う。
打者としての戦力と切り離して、難しい継投のタイミングを判断できる様になるのは、チームや監督にとっても大いに助かる変更だっただろう。

それは、いかにもアメリカらしい変革のあり方だと思った。
結果を残せるユニークな存在を認証したら、とにかく対応が早い。旧来のあり方に固執せず、直感に殉じてスパッと変える。
“どんどんやれ”とか、“面白いんだからいいじゃないか”という具合のノリがある。
より大きいと思われた日本との違いは、当初は無謀ともされたチャレンジの成功を、彼らは “本気でセレブレイト(祝福)している”という事だ。ファンや選手たちのみならず、運営サイドも一体となって。
「That's AMERICA!」
アメリカ人の “いいね♪”は、僕たちの国でのそれとは迫力が全然違う。

「年俸が違いすぎるものね。でも、日本で育ててもらったんだからさぁ」

そんなメジャー・リーグへの移籍を、日本人選手の流出として嘆く大御所の解説者の方もおられる。どこかで、去りゆくのを寂しいと思う気持ちには共感できる。
だがそれは、単に報酬が大きいからという理由だけでもなさそうだ。
チャレンジに対する“いいね♪” に満ちた空気を吸いたくて、海を渡る選手も少なくないと僕は思う。

何年か前だが、かつてハーバード大学で遺伝子の研究をされていた方に、こんな話を聞いたことがある。
「その日の終わりに研究員がボスに呼ばれて、『明日からは来なくていい』と言われるのを沢山見てきたよ。その代わり、サポートは潤沢だし、やり方だって自由。おかげで朝から晩まで研究漬けになれるし、みんなバリバリやっていたよね」
成果の評価にはシビアだが、個人の躍動できる環境が、そこにはちゃんとある。

✦「ならぬものは、ならぬのです」

日本はどうだろう。
民法の改正があり、今春からは成年とされる年齢が2歳低くなった。
投票権をはじめとして、若者たちの早期社会参画を促す狙いだろう。
18歳になれば、携帯電話の契約ができる。住まいも自分で決めて良い。
大人なのだから、重大犯罪を犯せば氏名も公表され得る。しかし、お酒もタバコも馬券購入も許されない。およそ140年ぶりの変更なのにブレーキを踏んでしまう国。
「役に立つことはして良いが、お楽しみはまだ早いですよ」と言わんばかりだ。
土地の処分すらできる様になった者が、健康や、合法の娯楽で動くお金の管理はできないと考える合理的な理由は、僕にはとうてい見出だせない。

テレビでは、満開の桜並木の下、18歳の新成人たちへのインタビューがされていた。

「お酒はまだ飲めないし、何の実感も沸かないですけど……」

“喜びも2年早く味わえる、大人になれて良かったなぁ”という充実感なしに、「責任感だけは身につけて、ついでに活躍もしてもらおう」と望むのは、ムリがあるというものだろう。


✦リスクを克服する勇気、それを後押しするもの

コンサルティングをしていると、新人の育成についての助言を求められたりする事も時折ある。「まだ経験が少ないからね」と言って、見守りたがる人も少なくない。
一度は思い切りよく全てを任せてあげれば、こちらの想像を超えた力を発揮する若い子もいるだろうにな、と思ったりもする。
人は従順なままにシステムで生産性を上げるのは、管理の優位性が働く分、全体主義の様な国が有利だ。
“個人が光を放てる環境”があって初めて、自由主義の国も、それに劣らない生産性を保っていくことができるだろう。

初回を抑えてピッチャー・グラブを置くと、そのまま彼は、バットを持ってバッターボックスへと向かう。
そのシーンだけでスタンドは沸き返り、「M・V・P!」と大きな声援やコールが飛び交う。
若者が果敢にトライして、今までに見られなかった何かを実現する光景は明るい。未来への希望にも溢れている。

そしてそういう挑戦は、周囲の後押しする声や、“その姿を歓迎するムード”があることによってますます増えていく。

野咲 蓮
メッセージ・コンサルタント(人物・企業のリプロデュース) 著書:人間を見つめる希望のAI論(幻冬舎刊)

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