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【Welfare Technology〜福祉のデジタル化〜】

今日は僕が現在進行中で行なっている修士論文の研究テーマについて日本語で書いてみます。早いものでノルウェーに来てから10ヶ月ほどが経過したのですが、そろそろ修論に手をつけ始めた方が良い時期になりました。

まだ先行研究を読み漁っている段階なので、お手柔らかにお願いします。

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Welfare Technologyとは?
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Welfare Technology(以下、WT)はもともとスカンジナビア(スウェーデン、デンマーク、ノルウェー)で主に使われている用語です。が、これと言った決まり切った定義があるわけではないよう。一般的に言われる意味合いとしては、「質の高い福祉サービスを提供するため、またその安全性と効率性を高めるためにデジタル技術を用いること」となります。僕は、機械化によって効率的かつ効果的に福祉サービスを提供することと理解しています。WTは世界的にも注目を浴びていて、学術分野においても社会学から心理学まで多方面に渡って議論がなされています。

同じような文脈で”Smart home”というコンセプトもあり、これは自宅にデジタル機器を導入することで、リモートでの介護や医療を可能にするというものです。患者をモニター越しでケアできるので、医療従事者からすると効率的に患者のケアをできます。

こうしたWTの利用は、特に先進国が頭を抱える人口構造の変化に適応する手段として重要で、特に高齢者への社会福祉を促進する上で評価されています。


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どういうWTがあるの?
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福祉のデジタル化と言ってもいまいちピンとこないと思うのですが、実際にどんな形で現場に導入されているのかを簡単に書きます。あまりにも種類が多いので、いくつか代表的なものに絞ります。

A)コミュニケーションサポート
主にオーディオ・ビジュアルのサポートで、わかりやすい例でいくと異なる言語を話す人のケアで重宝されます。

B)補助的なサポート
患者の感覚器官の補助輪的なイメージが良さそうです。例えば、火をつけっぱなしにしてしまってもそれを感知する機能を使えばあらかじめ火災を防げます。家のロック機能に関しても閉め忘れのないように自動でサポートもできます。

C)日常生活での日課のサポート
料理のサポートなどの機器や、薬の投与を毎日リマインドしてくれるなどの毎日やる必要があることへのサポートがこれに当たります。

D)リモートでのケア
遠隔でのケアを施すことで、サービス提供者側から見てケアしやすくなる。同時に、多くの患者は家で過ごすことを希望するので、患者の自律を保ったままケアできる。

この辺は十分に現場を見れていないので、まだまだこれからです。YouTubeなどで関連動画(数はめちゃくちゃ少ない)を見たのですが、やっぱりこの分野では北欧が進んでいるようで、もしこんな感じでデジタルがナチュラルなものになったら多様な社会になるんだろうなとワクワクします。


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WTと北欧
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ここはそこまで情報がないのでサクッと。前述の通り、WTは北欧で使われている用語であるのですが、定義がないだけに国によって違った文脈で使われるよう。例えば、デンマークとフィンランドはWTをヘルスケア関連と紐付けていたり、スウェーデンは介護でのケア、ノルウェーはWTに関して自治体ごとの役割を強調していたりと微妙にズレがあるように思います。とはいえ、基本的に同じものとして捉えていいのではないかと思います。

毎年かはわかりませんが、ストックホルムにてWTに関する機器のイベントが行われているようで、来年2021年はすでに予定されているよう(行きたい!!)。100団体ほどが参加し、WTでの一番大きいイベント(そもそも他にあるのかわからない)だと思います。

ちなみに、WT導入はデンマークが進んでいるようで、かつ僕が次のセメスターから移動になるオールボーという街は研究機関として有名らしいです。大学と連携した介護福祉施設もあるようなので、インターンか何かでここに入り込んでたくさん学びたいなと思います。


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WTとその利害関係者
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WTの導入と一口に言ってもそんな簡単にできる話ではもちろんなくて、たくさんのステークホルダーが複雑に絡み合っています。とある論文ではこのステークホルダーを3つに分けていて、すなわち「Private Sector」「Public Sector」「Academic Sector」です。Private Sectorは主に企業なのですが、このジレンマとして公的セクター(Public Sector)のGOサインがなきゃ生産を進められないよう。一方、公的セクターは予算の問題を抱えます。限られたリソースの中で導入するには、機器のコストと睨めっこしなきゃいけないのは自明ですね。しかも、若年層が減り、ヘアを必要とする高齢者は増え続けているので尚更。そして、研究機関。ここはとことん良いものを作りたいという想いが強いので、他のセクターとそのバッティングが起きるのはわかりますね。

以上が3つなのですが、もちろんこれだけではないです。先ほどの利害関係者には一番大事な患者(サービスユーザー)が見落とされている。同様に、その家族、親戚も。また、実際に現場でサービスを提供する介護士の方やソーシャルワーカーなども含まれます。

1つ機器を導入するだけでも現場の人の動きが抜本的に変わるので、そこでも利害がぶつかり合うんですね。ここはしっかり考えておかなきゃいけない部分です。


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WT導入の難しさ
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北欧諸国がIT機器の導入において世界でも先進的であることは広く知れ渡っていることだと思うのですが、その北欧でもまだ試験段階です。WTを実際に運用していくにあたってどんな問題をクリアしなきゃいけないのかを箇条書きで。

A)プライバシーの問題
デジタル化が進むということは他者(患者)のデータが蓄積されるということ。その情報が漏洩する可能性を考えると安易に導入へは踏み出せそうにないです。また、デジタル機器によってリモートでのケアが可能になるのですが、四六時中(とは言わないでも長時間にわたって)監視の目が行き届いているのは患者のプライベートをどう担保するのか、という問題も生まれるでしょう。

B)技術的問題とその責任
デジタル化が進んでサービスが円滑に進むのは間違い無いのですが、機械だって失敗する可能性が往々にしてありえます(例えば、電力供給が滞り患者の身体に影響を及ぼすなど)。その責任は誰にあるのか?サービス提供者側?欠陥のある機器を生産した技術者側?その責任の拠り所はかなり難しいと思います。

C)WTの不平等な分配
WTは究極全ての人への福祉の効率化を目指しているわけですが、とは言ってもデジタル機器の導入はかなりのコストがかかります。導入にもそうですし、サービスを受けるのにも従来のものより高くつくことなんて有り得ます。そうなった時に、サービスの質の差が出てしまう。それこそ所得格差など。これをどう乗り越えるか。

D)非人間化
これはWTに関わらず、デジタル化にあたって起こる問題です。デジタル機器によって生活が円滑に進むのと引き換えに、人との接触が圧倒的に減ります。今回のような有事の際には良いのかもしれませんが、これが恒常的に続くのは考えものです。これまで直接患者の部屋まで会いに行っていたのに、これからは患者を見にスクリーンを覗くことが当たり前になったら?冒頭付近の”Smart home”という考えはまさにこれで、いわば自宅の自動化のなので人との接触がなくても生きられるはずです。が、果たしてそれで良いのか?

まだまだ先行研究の段階なのですが、僕がこれまで読んだ論文の内容を含めてWelfare Technologyとはざっくりとこんな感じです。実際にフィンランドやノルウェーの医療機関で行われたケーススタディなども読んで面白かったのですが、少々細かくなるのでまたいつの日にか。

思っていたよりも倫理的にも技術的にも深い分野で考えることがありそうですが、日本でもこの分野を研究している人はあまりいない(もしかして知ってる人いますか?いたら教えて欲しいです)ので頑張ってみますー!


長々と失礼しました。それでは素敵な1日を!!

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