#短編小説
心お弁当【毎週ショートショートnote】
田中家は3男4女の大家族である。父は家族のために働き、母も毎朝子供たちのお弁当を作っている。
子供の多い田中家では、お弁当の入れ間違いが多発していた。そこで、母はある策を考えた。
「心ちゃん!一緒にお弁当食べよう〜!」
「うん!」
田中家の長女・心のお弁当は2段弁当である。
上の段を開けると、卵焼きやウインナーなどの色とりどりのおかず。
心は下の段も開けた。
「わあ!心ちゃんのお弁当すご
伝説の安心感【毎週ショートショートnote】
大勢の人が建物の中にぎゅうぎゅうに詰められ、今か今かと待ち望むような呼吸がステージに向けられていた。
暗闇の中に彼らが現れた。私たちは一斉に声を上げる。私たちの声が、彼らをより奮い立たせたのだろう。心臓にまで響くギターの音で彼らは答えた。
彼らの演奏は、小さい子供からお年寄りまで、老若男女問わず愛されている。彼らの演奏を聞いた人は、口を揃えてこう言う。
どこか懐かしい気持ちになる。
安心感が
グリム童話ATM【毎週ショートショートnote】
スランプ作家の間で噂になっていることがある。それは、グリム兄弟が書いたグリム童話の未発表作品が、どこかにあるというものだ。その未発表作品は、どこかのシステムに入れられているらしい。しかし、そこに辿り着くまでが簡単ではないそうで、都市伝説のような話になっている。
スランプに陥った私は、グリム兄弟の未発表作品を探す旅に出た。
海を渡り、大陸を横断し、山も越えた。
道中、陽気な音楽でダンスをしたり、
メガネ初恋【毎週ショートショートnote】
太陽が女子高生のメガネをギラギラと睨み付け、それに答えるかのようにガラスを通した瞳が、光を輝かせていた。
裸眼。コンタクトレンズ。メガネ。
行き交う人々の装いは様々である。
その中で女子高生のメガネは、ある遠くのメガネを見つけた。
『わあ!素敵な形…』
ある男性に装着されたメガネ。ブラックとゴールドのデザイン。知的さとオシャレさがうまく合わさった素敵なデザインだと、女子高生のメガネは思った。
ポポパポペピアノ【毎週ショートショートnote】
独特な雨の匂いが鼻にまとわりつく、ある梅雨の日。彼はいつもの手つきでピアノを弾いていた。その繊細な音色は、屋根に打ち付ける雨の音と交わり、家を響かせる。
私は、彼と出会った日のことを思い出していた。あの日と違うのは、彼が以前より喋るようになったこと。それと。
「こえ!」
娘がおぼつかない足で、おもちゃのピアノを持ってきた。
私が随分前に買った、このおもちゃのピアノ。演奏だけでなく、オノマトペ
オノマトペピアノ【毎週ショートショートnote】
すっかり桜が散った暖かい春の日。
私は音楽室でピアノを弾く彼と出会った。しなやかな指から溢れ出る繊細な音色は、私に桜の幻を見させた。
いつも彼は何も語らず、ただ私の話を聞く。自分の気持ちを表現するのが苦手らしい。
そこで私は、彼に子供用のおもちゃのピアノをプレゼントした。そのピアノは演奏できるのはもちろん、特徴的なのがキーボードを押せばオノマトペが奏でられる。
「今日の授業どうだった?」