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洋服記録90_印度ワンピの魔法

リアクションを間違えると悲劇を生む。

選ぶ表情や言葉を誤ったり、
反応の二択をミスすると、
その場を凍らせるほどの威力を放つ。

過去にそんな場面に遭遇したことも多々あるし、
自分がミスに巻き込まれたことも、
自分がミスの発信源になったこともあるが、
そんな中で頻繁に思い出すのは、
髪型にまつわるほろ苦いリアクション。

均衡の美学で触れた通り、
高校時代のベリーショートをきっかけにストレートから脱却した私は、
スーツの救世主の助言でボブになり、
そこからボブとミディアムの間を行き来しながら30歳手前を迎えた。

そんな頃、
ふとショートに戻ろうかな、と思い至った。

「過去に戻る」とは言え、久しぶりのショート。
ドキドキしながらカットしてもらい、
10年以上ぶりにショートカットになった。

これは私の持論なのだが、新しい髪型というのは、
自分が見慣れるまでに3日、
自分で扱えるようになるまでに1週間、
馴染んで自分のものになるまでに2週間

を要する。

よって切った当日というのは、
見慣れるまでのプロセスの初日。
ショーウィンドウに映る自分を凝視し、
車の窓に映る横顔を二度見し、
影に投影されるシルエットに困惑する。

そんな初日の人(特に女性)の同居人は、
初手のリアクションに細心の注意を払わなければならない。

一番の悪手は、絶句。

あ、でも、う、でも、何か反応を示せばよいものを、
言葉を失い無言になるというのは、
悪手中の悪手である。

昔の髪型の方が好きだなと思ったとしても、せめて、
「わ、びっくりした!」と自分の感想を述べるとか(20点)、
「なんで切ったの?」と理由を確認するとか(30点)、
「何か心変わりでも?」と行動の背景に興味を持つとか(50点)、
何かしらの反応を見せるべきなのである。

「どんな髪型でもかわいいよ」とフォローしたり(60点)、
「お、いいじゃん」とライトに肯定(80点)すればまあ合格点だが、
正直、まずは口角を上げて、声を張って、
「かわいいー!」と言っておけばよい(100点)。
その後に、様子を見ながら、
感想やら理由確認やらに移ればよいのである。

当時、10年以上ぶりに短髪化した私は、
前述でいうところのベストオブ悪手・絶句をくらった。

その瞬間、
こいつ人間ちっちゃ・・・と思うと同時に、
女と付き合ってきたことなかったのかよ、とか、
きっと仕事もできないんだろうな、とか、
決して面と向かって言ってはいけないようなことを考えた。
暴れ出しそうになる言葉と手をぐっと抑え込み、
その瞬間をもって心のドアをぴっしりと閉ざしたのである。

そう、リアクションミスは
こうした心の断絶を作り出すのであるが、
当時の私が傷害やモラハラを起こさずに済んだ背景には、
帰宅前にとある場所に立ち寄った恩恵があった。

見慣れぬ短髪を持て余し、
このまま真っ直ぐ帰宅することに抵抗を感じていた私は、
ふらふら歩いているうちに辿り着いたインドカレー屋に入った。

後々調べたらかなり有名なカレー屋だったのだが、
知らずに入店した私は驚いた。

内装が、インド。
行ったことはないけれど、私の中のTHE・インドを具現化したような店内。そして、匂いがインド。
ほの暗いゆったりとした空間イン、本格的なスパイスの香りが漂っている。
極めつけは、マダムがインド。
サリーに身を包んだ日本人(推察)の年齢不詳マダムが、艶然と微笑む。

そんなマダムが、
いきなり異世界に迷い込んだ一見女に微笑みかける。

「あら、素敵なヘアスタイルのお嬢さん」。

この一言で、私はインドラジャーラに掛けられた。

この空間においては、
私の髪型への葛藤などマンダラの彼方に忘れ去られた。
そして当たり前であるが、
初見の人には私は初めからショートの人間であり、
見慣れぬなどとほざいているのは自分のエゴだと気付かされた。

個性爆裂のマダムが私のショートヘアを褒めていて、
ここのカレーは信じられぬほど美味い。
この事実の前に、何を思い悩むことがあるのか。

あれから年月は過ぎ、
行きつけのカレー屋は閉店してしまったし、住まいの場所も変わったが、
定期的に行く美容院への道すがら、
インドの魔力で底上げされた自尊心を思い出す。

メイド・イン・インディアの
ヌキテパのワンピースで美容院に向かう。

下手すぎるリアクションへのあの頃の失望も、
見慣れぬ自分への不安や戸惑いも、
髪とともに綺麗さっぱりメンテナンス。

メーン ティーク フーン!

インドワンピースのコーディネート備忘録

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