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洋服記録83_酵素吸いニット

ここ1年の毒素を排出したくて、
酵素風呂なるものに出掛けた。

高温のおがくずに横たわる行為は砂風呂と同じだと認識しているのだが、
私が今回浸かったのは米ぬか。
まさに人間漬物である。

初めてのことにドキドキしながら赴くと、
お肌ツヤツヤのマダムがお出迎えしてくれた。
着くなり、長めの雑談(肌感で20分は超えていた)。
この話が漬物の出来に関わるのか疑問を持ちつつ喋り、
さあいよいよ入ろう!となった時、
マダムから下記の注意事項を受けた。

熱いと思ったら、決して我慢をしないこと」。

説明によると、酵素風呂に10分入った場合、
フルマラソンを走った時と同等の汗が出るらしい。
体中の血管が急拡張するため、無理して入り続けるとひどい立ちくらみが起こったり、
酷いと吐いたり倒れたりすることもあるとか。

急に恐怖に襲われるアラフォー。
こんな大事なこと、
20分あったならもっと早くお話いただきたかった。

そして「我慢するな」の注意事項に
何故そこまで恐怖を感じるかと言うと、
私に装備された「我慢」のバロメータがぶっ壊れているから。

私は子供の頃から体が丈夫で、痛みにも強い人間であった。
多少お腹が痛くても、多少熱があろうとも、
私の脳は「耐えようと思えば耐えられる」と判断する。

鉄棒で高速回転後、勢いそのまま落棒して顔面着地した際も(1か月眼帯生活)、
ローラースケートの練習中に電柱に激突して顎を強打した際も(縫わずに自然治癒)、
痛かったし不便だったけど、
言ってもまあそれだけのこと、であった。

スポーツをする場面でもよくあった。

ミニバスチームでヘロヘロになりながらシャトルランをしていた時、
ふと気づいたら私以外の全員がコート外にしゃがみ込んでいただことがあった。
え、休むってアリなんだ、と衝撃を受けた私は、思い切ってコートの外に出てみた。
するとその姿をみたコーチが一言。
「〇〇(私)がきついってことはもう止めよう」。

えーーー、だったらもっと早くギブアップすればよかった!

部活で坂ダッシュ10本に挑む時、
毎回1番にゴールできるなと思ったら、周囲は余力を10等分していたことに気付いた。
え、調整ってアリなんだ、と衝撃を受けた私は、思い切ってゆっくり走ってみた。
それでも周りもゆっくり走っているから順位は落ちないし、
本数はこなすことができる。

えーーー、調整するならみんな教えて!

こんなことばかりであった。

自分の体のことは自分にしかわからない。
人は耐えられるか否かに関する妥当な判断基準を、
一体いつ学ぶのだろうか。

そんな私にとって一番頭を悩ませる言葉がまさに、
「我慢をするな」なのである。

恐る恐る酵素風呂に浸かる。
ひとまず3分ほどはじっとしてみる。

熱いかと聞かれれば、まあ熱い。
でも耐えられないほどかと聞かれると、別にまだ耐えられる。

とは言えあれだけ無理するなと言われたので、
手足を糠からずぼっと出してみる。
あ、たしかに涼しくなった。

それからもうしばらくじっとしてみる。
体の中心が熱くなってきた。気がする。
これは耐えられない熱さなのか・・・誰か判断基準を可視化してほしい。

もうしばらくじっとしてみる。
正直、熱さにはまだ耐えられる。
でも耐えてよい熱さなのか否かは、もう自分では判断ができない。

熱さ故ではなく、
判断不能状態になった自分に恐怖を感じる。こわいよー!

そんな時、タイミングよく部屋に入ってきたマダムが
私の顔を見て一言。

あら大変!すっごい汗!

え、汗かいていいんですよね?
フルマラソン走った時と同じって言ってましたよね。
フルマラソンなんて走ったことないけど、
たぶん走り抜く方が圧倒的に我慢が必要ですよね?

焦るマダムに支えながらなんとか糠を脱出した私は、
その後シャワーを浴びて着替えを始めた。

が。
ぐわん、と視界が反転。

事前の忠告そのままに、
吐き気と卒倒の間で闘う女。(素っ裸)

助けを求めればいいものを、
ここでも何とか、吐き気に耐え、重力に耐える。

遠のく意識の中で考える。
わたし、たぶん、なんとか、
耐えられそうな気がするーーー。

無駄に孤独な闘いを続け、
更衣室でしばらくうずくまるアラフォー(素っ裸)。

そうこうしているうちに、徐々に容態は回復。
1枚1枚ゆっくりと服を着る。
身体には汗なのかシャワーの水なのか酵素なのか、
拭い切れない水滴が残っている。
が、それはタオル地のニットがすべて吸ってくれた。
この時ほど、このニットに感謝を感じたことはない。

服を着て髪を乾かす頃には、完全復活。
私は何事もなかったかのようにマダムのもとへ帰り、
20分の道のりを徒歩で帰ったのであった。

つくづく思う。
果たして私は、
一体何と闘っているのだろうか。

そして耐えられるか否かに関する妥当な判断基準というものは、
一体いつになったら身に付くのだろうか。

毒素は排出したが、
疑問は吸収した酵素風呂体験であった。

タオル地ニットのコーディネート備忘録

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