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これさえ読めば完璧! ラブライブ!通史 【スクールアイドルの誕生からアニガサキ2期まで】

はじめに

前回記事までは、優木せつ菜による虹ヶ咲学園内での権力掌握過程と虹ヶ咲幕府の成立について、アニガサキの展開から読み解いて論じた。
今回は、「スクールアイドルとは何か?」という点まで遡って、より大きな視点からスクールアイドルフェスティバル成立の意義を考えていきたい。


スクールアイドル階級の発生と成長

少子高齢化の進展とスクールアイドルの発生

21世紀の日本では少子高齢化による教育施設の統廃合が問題となっている。多少の違いはあれ、ラブライブ作中世界は基本的には現実世界を反映している。よって、ラブライブ世界でも少子高齢化は重大な問題となっていると思われる。ラブライブ!無印及びサンシャインの最初の作中テーマが(生徒数減少による)廃校の阻止だったことは、これを裏付けるだろう。

廃校は、基本的に生徒とっては阻止したい事態である。廃校を阻止するためには学校を知り、興味を持つ人数を増やすことが必要だ。ここにスクールアイドルが発生する土壌が生まれる。つまり、初期スクールアイドルは、各地で在地社会の要請により自生的に発生したものなのだ。
初期スクールアイドルは、恐らくは地域社会において小規模なライブを行って学校の広報をする存在だったと考えることができる。


スクールアイドル権力の萌芽と生徒会による掣肘

このように、初期のスクールアイドルは非常にささやかな活動を行う、地域に密着した存在であり、権威や権力とは良くも悪くも無縁の存在だった。
しかし、これにより生徒数が増加した学校が出たとしたら、それはどうなるだろうか。

古代アテネでは、国家の危機となるような戦争の中で、それまで低い身分だった平民たちが武器を取り戦った。そしてその結果、市民階級が強い発言力を持つようになり、民主政へと進んだ。
このモデルに引きつけて考えれば、スクールアイドルの活動によって廃校の危機から脱した学校では、スクールアイドルは発言力、言い換えれば権力を持つことになったのではないかと考えられる。このような事態は大なり小なり、各地で発生したことだろう。

このようにして下から発生・成長したスクールアイドルという権力に対し、当然、既存権力は反発する。特に、同じ学校内で同じパイを食い合うことになる生徒会権力はスクールアイドルを圧迫することとなった。(図-1)
発生したばかりのスクールアイドル権力は生徒会権力に対しあまりに微弱であり、簡単に吹き飛ばされた。弱い状態のスクールアイドルが生徒会により簡単に潰されるという描写が、ラブライブ!無印とサンシャインの両方で描かれていたことを思い起こそう。

スクールアイドルにとって、どのようにして生徒会の支配から脱するかということが、次の時代の焦点だ。

図-1  発生したばかりのスクールアイドルは、まだまだ微弱な存在だ。



ラブライブという達成と、その限界

このような中で、スクールアイドル階級が生徒会を乗り越えるために選んだ道は、「少数の強力なスクールアイドル」を作り出すことだった。
その手段となったのが「ラブライブ」だ。
「多くの出場校の中で勝ち抜いて」ラブライブで優勝、あるいは上位入賞することができれば、絶大な知名度を得ることができる。
スクールアイドルにとって知名度=影響力である。知名度を持ったスクールアイドルに対し、生徒会が理不尽な圧迫をすることはできない(校内外からの非難が起こる)。そして、知名度を持ったスクールアイドルは校外に強い影響を与えることができるため、校内においても発言力を高めていくことができるだろう。
このようにして蠱毒を勝ち抜いた一部のスクールアイドルは生徒会権力を克服していったし、時には生徒会自体を乗っ取ることさえあった。

しかし、その裏には予選敗退の凡百のスクールアイドルが存在する。
彼女らは知名度を上げることができないため、未だ生徒会による支配の下にあるのだ。これがラブライブという構造の限界だった。(図-2)

図- 2「勝ち抜いた」ことで権威を得る者の裏には、常に敗者が存在する。


「スクールアイドル階級」の誕生

一方、ラブライブは他の意味でも次の時代を準備した。ラブライブの影響で、スクールアイドルの数自体が増えたのだ。
考えてみれば当たり前なのだが、過疎地域の総人口は、都市部の総人口に劣る。
それまでの「スクールアイドル」という存在は、過疎地域で「廃校を阻止する」という"消極的"な理由で結成されることが専らであった。スクールアイドルは、都市部においてはマイナーな存在だったのだ。

しかしラブライブの開催により「高い知名度を持つ強いスクールアイドル」が発生したわけだ。彼女らが表舞台に立つようになると、話は変わってくる。
スクールアイドルの持つ強力な広報能力が知れ渡った。都市部では強力なスクールアイドルを擁して生徒獲得を目指すという、いわば"積極的"なスクールアイドル結成の流れが生まれる。

こうして、日本全国に無数のスクールアイドルが生まれることとなった。
スクールアイドルという「階級」の誕生だ。


A-RISEの挑戦、μ'sの覇権

ラブライブ勃興期に大きな足跡を残したのが、共に東京都神田を拠点とするスクールアイドル、A-RISEとμ'sだった。

A-RISEはラブライブで全国優勝という成績を収めると、その影響力をバックに生徒会権力を振りほどき、学校を牛耳った
一時は自分たちの功績をアピールする映像を日常的に校舎に投影していたという描写もあることから、その権力の強大さが分かるというものだろう。

A-RISEの影響を受け、さらなる権力を志向したのがμ'sだ。
μ'sはまず広報活動によって学校を廃校の危機から救い、同時に生徒会長をメンバーに取り込むことで校内での発言力を高めた。ついで、次期選挙でスクールアイドル部部長が生徒会長となるに及び、その基盤は盤石なものとなる。
生徒会権力を利用して生徒に対する統制権を手に入れたμ'sは、物量作戦を用いてラブライブを制した。 A-RISEは生徒会権力を克服はしていたが、生徒会権力を取り込んでいるμ'sには太刀打ちすることができなかったのだ。

μ'sはさらに、「スクールアイドルの棟梁」という観念を作り出す。
ラブライブ優勝後の彼女らが「全スクールアイドルによるイベント」を号令すると、全国からスクールアイドルが結集したのだ。これはμ'sがスクールアイドルの長という立ち位置を得たことを意味する。
圧倒的な知名度を持つμ'sに関わることができれば自分たちも知名度を上げることができ、それにより生徒会を出し抜くことができるかもしれない。集まったスクールアイドルたちの思惑はこのようなものだった。μ'sもそれを理解した上で、対価として彼女らに対して支配権を行使した。(図-3)
もっとも、上記のようにこの関係は緩やかなものであって、後世の「忠義」というような強い関係で結ばれたものではなかった。実際、μ's解散後には、かつて秋葉原の大通りを埋め尽くした"大軍勢"は消えた。スクールアイドルたちは、雲霞の如く散っていった。「μ's幕府」というような強力な組織とはならなかったのだ。
安定した権門を築くには、まだスクールアイドル階級は幼すぎたということか。

図-3  μ'sの力は未だ限られたものだった


虹ヶ咲幕府による封建制の完成

行き詰まるラブライブ体制

時が下り、スクールアイドルの普及がさらに進んでも、ラブライブという大会がスクールアイドルにとって唯一の希望である現実は変わらなかった。
参加校数が増えたために、上位に進出した"持てる"スクールアイドルは学校内で絶大な権勢を振るうことができたが、当然日の目を見ることなく生徒会権力に屈従する"持たざる"スクールアイドルの数も増えていった

"持てる"スクールアイドルにしても、半年に一度開催されるラブライブ本大会のせいで上位陣は目まぐるしく変わる。強力な権威を持つことはできない。
このような状況では、かつてμ'sが示した「スクールアイドルの棟梁」によるスクールアイドルの編成は、上手くいくわけがなかった
弱者は庇護を求めるべき強者を見失って這いつくばり、強者は不安定な春を不安に怯えながら謳歌する。誰も得をしない状況が定着し、スクールアイドル界には暗雲が立ち込めていた。
ラブライブ体制の矛盾と限界が、臨界点を突破しようとしていた


権力の奇妙な空白

そのような状況が支配する学校が、ここにもあった。
名を、虹ヶ咲学園という。
虹ヶ咲学園のスクールアイドル同好会は、ラブライブで勝利しなければならないという強迫観念から内部分裂を起こして滅亡した。

ただ、復活も早かった。
スクールアイドルにとって権力の源泉となるものは知名度であり、ファンの数である。この時期の虹ヶ咲学園ではスクールアイドルファンの母体となり得る層は十分に厚くなっていた(その分厚いファン層の象徴が高咲侑である)。
それに気付いた数名のスクールアイドルが、地面から生えるかのように復活したのだ。このファンとの関係が、初期スクールアイドル発生時のものに似ていることを指摘しておこう。

復活した同好会は順調に成長し、学内に強力な地盤を築いた。このまま成長していけば、ラブライブに出なくても生徒会権力を克服することができるだろう。そして、生徒会がそれ以前に手を打つことは目に見えていた。

が、生徒会権力が介入してくることはなかった。本来スクールアイドルを圧迫するはずの生徒会長・中川菜々の正体は、何を隠そうスクールアイドル優木せつ菜だったからだ。"強い"スクールアイドルが生徒会を取り込んでいることはあっても、"弱い"スクールアイドルが生徒会権力から自由であることは極めて稀なケースといえる。この権力の空白状況下で「健全に育った」スクールアイドルたちが、新たな時代を開くこととなるのだ。


奮闘する虹ヶ咲幕府と、スクールアイドルフェスティバル

スクールアイドルに必要なものは、ファンである。ファンからの承認と後押しを得て、スクールアイドルは生徒会権力と渡り合うことができるからだ。
ではスクールアイドルはどのようにしてファンを獲得するのか。それはライブ等の露出の場を得ることによって、だ。
つまり、スクールアイドルにとって必要なものとは、突き詰めればライブの場ということになる。

虹ヶ咲学園では、個々のスクールアイドルに対し、ファン(高咲侑)が後押しとライブの場を与えるという、非常に簡単な関係が成り立っていた。これを初期虹ヶ咲幕府と呼ぶ。

図-4  初期虹ヶ咲幕府の構造


だが、スクールアイドルが生徒会に対抗するには、校内だけでなく、生徒会に対し利害関係を持たない校外にも、多くのファンが必要となる。
幸い、虹ヶ咲学園の近隣には多くのスクールアイドルが割拠している。
虹ヶ咲幕府は、それらの勢力に対し、対等な同盟として基盤の共有を申し出た。
そう、これこそがスクールアイドルフェスティバルの本質である。(図-5)

図-5  SIFの本質は、ファン層の共有である


ここで考えておかなければならないのは、「誰がライブの場をスクールアイドルに供与するのか」という問題だ。
虹学の学内のみで成り立っていた初期虹ヶ咲幕府の構造は非常にシンプルだったから、ファン層が直接に「御恩」を供与することができた。
しかし、このようにアクターが増えた複雑な関係になると、そう簡単にはいかなくなる。

未調整のまま、単にファン層の動向に任せていると、結局は実力の高いスクールアイドルだけがファンを総取りにしてしまうこととなる。グローバル化による寡占と同じ構図だ。これでは単に「小ラブライブ」を作っているだけだ。

よって、ファンとスクールアイドルの間に、何らかの調整者が必要になる。それがSIF運営というわけだ。
そして本来、調整以外の権限を持っていないSIF運営だが、調整業務を行ううちに実質的な権力を握ることになる。(図-6)  ライブの場の分配権こそがスクールアイドルに対する権力の本質である、という前提を思い起こされたい。

図-6  SIF運営が実質的にスクールアイドルを統率することになる




優木せつ菜の独裁体制と所領安堵

このようにして、SIF運営によるスクールアイドル支配が発生するが、これは別に独裁というわけではない。合議制である現状では単に、スクールアイドル自身がスクールアイドル自身を治めているだけだからだ。

しかし、ここで問題が発生する。
第2回SIFが虹ヶ咲学園の文化祭と「合同開催」となったのだ。
これによってSIF運営はSIFに対する独占的発言権を失い、同時に虹ヶ咲学園生徒会も虹ヶ咲学園の文化祭に対する独占的発言権を失う。この時、虹ヶ咲学園生徒会とSIF運営の両方において実力者であった優木せつ菜がすべての権力を掌握。虹ヶ咲学園およびSIF運営に対し独裁的支配権を手にすることとなったのだった。(詳細は前前記事にて)

ではなぜ、優木せつ菜はこのようなクーデターを行ったのか。
その理由は、SIF運営の構造にある。
成立経緯からして当然だが、SIF運営は各校のスクールアイドルによる合議制だ。しかしこの制度では、既存参加校は新規参加校加入に対し否定的になってしまう。権力は、自らの権力を脅かすものを嫌うからだ。逆に、優木せつ菜が支配権を持つ構造になれば、SIF運営に何校が参入しても誰も問題にしない。(図-7)
優木せつ菜の持つビジョンは、スクールアイドルのラブライブ制度からの解放であり、SIFへの全スクールアイドルの加盟だ。そのためのクーデターというわけだ。

図-7  優木せつ菜独裁政権下のSIFの構造


そして、優木せつ菜が公正な調整者としてライブ機会の分配に臨む限り、SIFは安定に拡大を続けることだろう。全てのスクールアイドルが、ラブライブにも生徒会権力に怯えなくて済む世界が実現される、その日まで



終わりに〜中世的ラブライブ世界の成立〜

この記事では前回と同じテーマを、よりマクロな視点から描いてみた。
スクールアイドルは生徒会権力との激烈な相克を繰り広げる運命にあり、そのためにラブライブという制度を発生させた。
しかしラブライブは仲間の屍の山の上に立つことでようやく生徒会と同じ目線に立つことができるという非人道性を残しており、根本的な解決には遠かった。
そして、その解決策として今作でSIFが登場した。

ここまで読んできた読者なら分かるだろうが、この記事ではスクールアイドル階級を武士階級のアナロジーと捉えて描いてきた。
アニメ本編では優木せつ菜による権力掌握と地頭制の成立により、虹ヶ咲幕府が成立したばかりだ。第2回SIFは成功するだろうか。優木せつ菜は無事にイイハコを作ることができるのだろうか?
そして、次に起こるのは、承久の乱だろうか。それとも、もう全て飛ばして戦国時代へと突入するのだろうか。あるいは、明治維新が起きるのかもしれない。
ただひとつ分かるのは、スクールアイドルの歴史はまだまだ始まったばかりだという、その事実だけだ。











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