七月のランデヴー

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彼らは何に備えているのか - クレール・ドゥニ『美しき仕事』

 そこがジブチというアフリカ大陸の東部に位置する国であるという情報は、一応この映画の冒頭で示唆されはするものの、その後我々の眼前に広がることになる無骨な大地や日光を受けて照り輝く海面は、どこまでも匿名的な様相を保ち続ける。そこで兵士たちが繰り広げる訓練と思しき活動についても、仮想敵や具体的な目標などが示されることはなく、ただ彼らの肉体的な強度が練り上げられていくのを見つめることしかできない。もちろん、すべての軍事的な活動が喫緊の有事に対応するものであるとは言わないが、それにし

    • 画面外への脱出 - ジョナサン・グレイザー『関心領域』

       様々な映画で描かれてきたナチスドイツによるホロコーストを主題とするにあたり、ジョナサン・グレイザーが先行作との差異として選び取った手法は、その残虐な行いを徹底して画面の外に追いやる、というものだった。すぐそこで進行し続ける非人道的な行為が直接画面内に入り込むことはなく、時折銃声や悲鳴が聞こえてくるばかりである。では、そんな映画に映っているものは何か。  アウシュビッツ強制収容所に隣接する家には、収容所の所長一家が暮らしており、忙しなく動き回る一匹の真黒な犬とともに、緑豊かな

      • 「のど飴はキスの味、じゃない」の謎を解く-カネコアヤノ『さびしくない』について

        2024年4月17日にリリースされたカネコアヤノの新曲「さびしくない」を初めて聴いた時の、正確にはその歌詞のうちのワンフレーズを耳にした時に覚えた掴みどころのない違和感と、その正体を探るべく為された検証とその結論について。 カネコアヤノの楽曲の歌詞について、以下で試みられるような理論的な、理屈を積み重ねて結論めいたものに辿り着かんとする行為が果たしてふさわしいのか、という問いは一旦脇に置いておくので、そのようなツッコミは野暮とする。始めよう。 【カネコアヤノ「さびしくない

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