女の人にどのタイミングでどういう風に言えばいいのか、反応を想像すると怖すぎて躊躇してしまう。
会社の仕事が終わってから、
知らない人ばかりの寄り合いに行った。
そんな寄り合いに行きたくはなかったが、
大人だからそうも言えないこともある。
予想通り、俺と違う種類の人がうじゃうじゃしていて、
そういう場所の料理も想定内のイマイチさで、
俺は隙を見て早くこの場を離れようと考えていた。
見るからにつまんなそうにしていた俺に
主催者側の女性がわざわざ隣に来て話しかけてくれた。
料理もすぐに無くなくなって、
(もともとちょっとしか無かったのだ)
俺が飲んでいたのは水だったし、
話をするくらいしかない状況だった。
話し始めると、共通の知人の話とか出てきて、
小さく盛り上がって来た。
すると、熱くなったのか、
それともただの癖なのか、
彼女、長い髪をかきあげて
後ろでポニーテールするようなしぐさを
するようになった。
かきあげたその腕の付け根、
彼女の左の脇の下、
オフホワイトの薄手のカーディガンに
500円玉よりちょっと大きな穴があいているではないか。
そしてそこからほんの少しだけ伸びた腋毛。
まあもう夜だったから仕方ない。
言えない。無理無理無理。
俺にはとっても言うことはできない。
一体何と言えばいいのだ。
彼女と仲がよさそうな女性を知っていれば
その彼女に言ってさりげなく伝えてもらえばいい。
しかしなんせ今日会ったばかりなので、誰のことも知らない。
どうしたらいいのだ。
彼女は
何度も何度も
何度も何度も何度も
何度も何度も子猫ちゃん♪
っていうくらい何度も、
両腕をあげた。
何度も何度も
何度も何度も何度も…
あああああああっ
ここでガバッと目が覚めた。
目覚まし時計は7時少し前を指していた。
びっしょりと汗をかいている。
起き上がってはあはあと肩で息をする。
ああ、良かった。夢だったのか。
馬鹿だなあ、俺は。
何だよ、そうか、夢か。ははは。
と、
ドラマのようになればいいと思ったが、
現実はそんなにうまくいくわけがない。
大体こんな夢を見る下地が俺の脳の中にはないのだ。
よし、言おう。
言わなきゃだめだ。
反応が怖いけど、このままにはしておけない。
俺は目の前のコップを手に取り、
目をつぶって中の水をゴクゴクと飲み干した。
本当はビールなら、焼酎なら、ウィスキーなら、勢いが出るのだが、
水しかないので仕方がない。贅沢はいつも禁物だ。
そしてドンとテーブルに空のコップを置いてから
彼女のいるほうへ向き直った。
だーれもいなかった。
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