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亀よりのっそりお兄さん。

アパートのシャワールームの中にある洗面台のリークの修理は12時半のブッキングだった。12時26分に「レーンコーブを今出た」とメッセージが入る。うちはリンドフィールド。20分くらいかな。やれやれ…。
でも20分の遅れなら早い方じゃないか、と思い直す。

俺がベランダで外を見ながら待っていたら、それらしき背の高いお兄さんがリュックを肩にかけ道具箱を持ってアパートの敷地内に入ってきたのだが、それがなんと亀よりのっそり歩いている。遅刻しているとか客が待っているとかこれっぽっちも考えていない身のこなしである。しかしあんな足取りの人間を目の当たりにすると、この仕事心底嫌なんかなあ…と気の毒に思えてしまう。俺に気が付いても遅れたことに対する陳謝はない。これもここでは当たり前。

そして亀より遅いお兄さんはもちろん土足で家に入ってくる。(修理や工事に来る人は先端に金具が入っている作業靴を履いていて作業中はそれを脱げないのだそうだ。)土足で上がりこんでくる人間には何年経っても慣れないがまあ仕方がない。

亀よりのろまなお兄さんはまずアパートの水道の元栓をさがし始める。俺はいつだったか以前にも探したことがあるのだが、どこにあったかすっかり忘れてしまった。そんなに広いわけでもないアパートの中をあっちやらこっちやら探し回ったが俺には見つけられず、亀より遅いはずのお兄さんがランドリーの壁についた棚のドアの向こうの右隅にその姿を発見した。ドアの前には掃除機や買い溜めたトイレットペーパーが積んであったので俺の目には映らなかったのだ。何だ、やればできるじゃないか。やれやれ。

俺がリビングで共同費の計算をしながら出納帳を書いていると、亀よりのろかったはずのお兄さんが作業を終えて出て来た。亀の作業よりも随分早い体感だ(亀が作業するところは見たことがないけどね)。自信満々にもうリークの心配はないという。本当かよ、と鼻で笑いたくなる気持ちを抑えて、来てくれてありがとうと俺はお礼を言った。

お兄さんを見送り、出納帳をかたすと、夕方のお稽古があるので俺はすぐに教室に歩いて戻る。道すがら気になっていた広告看板を写真に撮る。

日本人だけなのかもしれないが、この色でこの形はでっかいウン〇…。しかも噛み応えがインクレディブルだって書いてある気がする。

ウン〇が? そうなの?

パシフィックハイウェイ沿いの道端には黄色い花がいくつも開いてとても平和に思えた。

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