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「右往左往」という言葉があるが、見事に右往も左往もできないのである。

日本ではまあ無いだろうがシドニーでは頻繁に起こること。

幾つかあるのだろうが、トラックワークの代行バスもその一つだろう。
線路点検や補修工事のため、2か月に1回くらい週末に電車がストップする。代替のためにその路線をバスでカバーするわけだ。

シドニーの電車は全て2階建て。そこに結構いいガタイの人々が乗り込むから線路が沈む。それをチェックして補修しなければならない。

というようなことを聞いたことがあるが、まあそうなのかな、と思える理由ではある。

バスには無料で乗れるし、バスの運転手の雇用にもささやかながら貢献していそうだし、普段生活のなかでは個人的には嫌ではない。もちろん時と場合にもよるのだけれど。

というわけで、トラックワークで電車が走ってなかったのでノースシドニーからチャツウッドまでは代行バス。

途中、チャツウッドの一つ手前のアーターモンで降りる。小さい駅だが駅前が日本エリア的な雰囲気になっていて、日本食レストランや日本食材店などがある。昔は古本屋や貸しビデオ屋まであった。

「元気ラーメン」で肉野菜炒めを食い、「ラッキーマート」で日本食材の買い物をし、再びバスでチャツへ向かう。

あと一駅分走らせるだけでお仕事完了のバスの運転手。
あともいちょい、あとたった一駅分なのにも関わらず、やらかす。

左に曲がってパシフィックハイウェイに出るところを
堂々と右にお曲がりになられた。

乗っていた客がざわめきだす。
日本だとあり得ない。

しかしここはオーストラリア。
「まあ、着きゃあいいや」と、殆どの客は思ったと思う。
日本だとありえない

一番前に乗っていたオヤジが運転手に話しかけている。
そこ左だったじゃん、みたいな。
運転手も、そうだっけ、みたいな。

で、おそらく次に左折しようと頭に描いてたところが工事中で左折禁止だったのだろう、二人して「オーマイガッ」みたいな。

仕方がないからバスはさらに直進する。
乗客のざわめきがひどくなる。

その批判のざわめきを跳ね返すように、運転手はここぞとばかりに左に曲がる 。そんなに広い道でもない。それでも暫くは調子よく進む。しかしだんだん雲行きが怪しくなる。バスのスピードがどんどん遅くなる。探るような走り方だ。

そしてストップ。
「とどのつまり」とはこういうことを言うのだろう。
ショッピングセンターの駐車場の入り口で行き止まりになってしまった。

当たり前だが、大型バスは入口のゲートを潜れない。
右にも左にも行く道自体がないし、
後ろからも車が来ていてバックもできない。

「右往左往」という言葉があるが、この運転手、見事に右往も左往も、前往も後往もできないのである。
日本だとありえない。

すると運転手と話してた乗客の男が突然叫んだ。
「急ぎたいヤツはここで降りろ。駅までは10分も歩けば着く。」

どんなバスサービスだよ。
その10分を歩きたくないから公共交通機関を使っているんだろうよ。
日本だとありえない。

次々に降りる乗客はブツブツ言っていたのだけれど、
驚いたことに、なんと運転手は予想外の「笑顔」なのだ。
日本人だとありえない。たぶん切腹。

オーストラリアの懐の広さをあらためて思い知った瞬間だった。

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