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53.脱皮

私は脱皮したかった。
あらゆる夜が怖くて。
孤独から逃げようとしていることに気付いた時
寄りかかっていたものからきっぱり離れることができる大人になりたい。
もう1人でも怖くなくなるように。

1度も振り返ったりせずに。
今年は梅雨に入ってからも晴れ間が多く、
例年のガックリ落ち込む遅延五月病も発症していない。

わたしは夏がすごく好き。
空が高くて、雲が真っ白で、野菜がきれいで
葉っぱが青くて、ノウゼンカズラが咲く。
日が長いからいつまででも夜更かしをしても良いような気持ちになる。

暑いのは苦手だけれど、景色に活気があるので
自分も力強く生きられているような気がする。

少しずつ明らかになっていく、
わたしと、あの人の価値観の違いも
たまたま見上げた空に飛行機雲が空を分け隔てる境界線を引いていたりしたら、
思い残すことはひとつもなく、飛べるんだとさえ思う。
それくらい、解けるのは簡単。
はじめから知っていたけれど、
見ないようにしていたのも確か。

もう二度と会わないかもしれない誰かに、
どれだけ心を分けられるかが
その人を表す大きなひとつの要素だと思う。

路上ライブ時代、真冬の寒い空の下で
何時間も歌い続けている間、通りすがりの人々に
優しさをたくさん分けてもらった。
大切な経験で、今の私を形成するのにとても重要な記憶の一部だと思う。

人にもらったものを、その人に返したいが
もう二度と会えない人もいるだろう。
だから私は、自分がしてもらったように、
人に愛を分けられるように生きたい。
きれいなことを言っているように見えるかもしれないが、
ただ、優しくすることだけが愛だとは思っていなくて。
どんな形でもいいから、あの日凍えた手に温かいミルクティーのペットボトルを渡してくれた人へ返す気持ちで、今度は私が誰かへとその愛を渡す。

世界にそういうことの連鎖が繰り返されれば良いのに。
職場の制服を着ていた頃、思いやりがない人が多いなとよく感じていた。
心無い銃を防弾ジョッキ無しに撃ち込まれた時、どうすれば良いの。
笑顔を貼り付けて、いつか来る恩返しのときまでじっと我慢するのが大人という事なら、大人になんかなりたくなかった。
私が今揺られている電車に偶然乗り合わせた人。
その人にも、その人の1日があり何かに悩み、何かに喜び、そして大切な人がいる。
忘れてはいけない。匿名という武器で誰かを攻撃することほど愚かなことはないだろう。

少しずつ明らかになった
わたしと、あの人の価値観の違いも
たまたま見上げた空に飛行機雲が空を分け隔てる境界線を引いていたりしたら、
思い残すことはひとつもなく、飛べるんだとさえ思う。
それくらい、解けるのは簡単。
はじめから知っていたけれど、
見ないようにしていたのも確か。

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