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#3 冬の初めに見たひまわりは。

この記事は日常で見つけた小さな幸せを綴ったものです。あたたかな気持ちを共有出来たら嬉しいです。

今日の午後。
自転車をこいでいた私は視界の右端に違和感を覚え、ふと振り向いた。

えっ?

そこにいたのは、一輪のひまわり。

マンションに囲まれた小さなスペースに、すっくと頭をもたげ佇んでいる。

思わず一瞬、思考がとまる。
マフラーの隙間から首をかすめるのは冷たい空気。手は冷蔵庫の中に入れてたみたいに温度を奪われて、指先が少しかじかんでいる。

あれ。
今、何月だっけ?

さっき通り過ぎた駅前では、クリスマスのキラキラした飾りが街を鮮やかに彩っていた。

うん間違いない、12月。だよね。

そうするとこの子は…??

季節外れのビタミンカラーに、思わず吸い寄せられる。思ったよりも、背たけは小さい。
でも、立派に立派に咲いている。

誰かが補強をしているのか、結ばれた白いビニールひも。

しげしげと見ているうちに
なんだかおかしくて、愛おしくなった。

たとえば10月に一匹だけ鳴いているセミ。
新緑の中一輪だけ満開に咲いている桜の花。
そういった、少し「季節外れ」な時期に最盛期を迎えた生命を偶然目にした時、私はなんだか複雑な気持ちになる。
ほっこりして、ちょっと泣きそうで、頑張れって祈って、元気を貰う。優しい気持ちにもなる。

このひまわりにも、同じ想いを感じた。
寒さは増してゆくけれど、今が、この子の盛りなんだ。

ひとりで淋しくないかな?


見回すと、少し離れたところに仲間が。

良かった。すぐ近くに、たくさんいるね。

なんだかお互いに、気にかけ合っているようで。

まだまだいっぱい咲くんだよう〜!
近寄ると、そう元気に笑ってくれた気がした。


眺めているうちに
ふと、とある歌詞が浮かんだ。

夏の終わりにうつむく向日葵
太陽昇れとまた咲く時を待ってる

(「願いの詩」コブクロ)

この歌が昔から好きな私は、ひまわりとはそういうものだと思っていた。夏のおわりに、静かにおもいを馳せることもたくさんあった。

でも今目の前にいる彼らは、
冬のはじめにスクスク向日葵
だ。こんなこと、あるなんて。

どうして今、こうしてひまわりたちを見られたのか分からない。調べてみたところ、冬にも咲く品種があるようだから、それなのかもしれない。

でも、感じたのは。

誰かが、何らかの思いをもって愛情を込めて、このひまわりたちを育てている。
ちょうど道路に向かってお顔を向けているひまわりたちは、本人たちは意識せずや否や、目の前をゆく人たちを驚かせ、ほっこりさせ、元気にしている。

気づく人もいれば、気づかない人もいるだろう。

そういえば、道路の脇には小さな可憐な花々が色鮮やかに咲いていることが多い。
可愛いなぁと少し心が明るくなってすれ違うけれど、その陰には会ったことのない誰かのあたたかい手がいつもあるのだなと改めて思う。

あったかいなぁ。

私はふたたび、自転車をこぎ始めた。
風はひんやりしている。

だけど胸は、おひさまを浴びたばかりみたいにポカポカしていた。

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