漠然とした言葉遣いの弊害

例えば「パソコンで音楽作ってます」と言うと「自分もやってみたい」「教えて欲しい」という人は増えてきた。

では、PCやスマートフォンの基本的なオペレーションが得意かな?と思うと、まずはそれに慣れてないから、ソフトウェアの使い方もろくに覚えられないって話・・・というのはよくある。

これが、単に楽器を弾きたい、歌を歌いたいだけだったら、自分の肉体の修練とかが中心になるだけだし、曲を書きたいというのなら、様々な曲を聞いてみたり、理論を勉強してみるとか、自分の向かいたい音楽と、自分の演奏能力のつり合い、みたいな話にはなるんだけど。

或いは、録音した音源を他人に聞かせたい!とか、打ち込みで曲を打ち込んで曲を作りたい!とかって話になってくると、些か様相は変わってくる。

例えば「人間が演奏している幾つかの楽器を、PC上で録音して、それをミックスして曲にしたい」とか「機械上で鳴らされたドラムやシンセの音を使って、打ち込みの曲を作りたい」とか、その目的によってはDAWの性能やら不向きとかは出てくるわけで。或いは、自分が今、Mac持ってるのか、Windows系なのか、或いはパソコンから買わなきゃいけないのか、って話でも、それらのアドバイスできる内容や、選択肢が変わってくるって話なのであって。

そんなソフトの使い方以前に、パソコンの基本操作からレクチャーしなきゃいけなくなるってなると、音楽の話どころじゃない、ってケースはマジであるんだが。

① 音楽の話以前に、パソコンやスマートフォンの基本操作ができない。


  → このレベルになると、自分が必要とする情報を自力で検索する事さえできない。独習が出来ない。

② スマホ等で単なる1ユーザーとして何かを操作するのは慣れていても、パソコンのオペレーションはからっきし、ってケース

 → ネットワークのトラブルでインターネットに接続できないとかを自力で解決できない人。例えば、オーディオデバイスとパソコンを接続したときなどの機材周りのトラブルが起こっても、自力で解決できない。

 → 例えば、こんな人は、ステージでライブ中にPCを使っていた時に、機材トラブルが発生した場合、自分で復旧できないし、立て直せないってことになる。

③ 他の仕事などで映像系ソフトウェアとか、ワープロ系のソフトウェアは普通に使えるけど、音楽(特にエンジニアリング)を分かってないからDAWの機能を使いこなせない。

 → 例えば、そんな人が作曲を勉強していても、例えば、ピアノロールだののエディタ上に音符をペタペタ並べていくくらいの入力しかできない。通り一遍の音楽は作れても、完成度の高い品質にならない。

 → イコライズやエフェクトを効果的に使いこなすとかを学べばいいのだが、そういう技術に関しては、プロの現場で経験を積むのと似たようなものがあるので、ネットに転がってる程度の情報だけでは、自分の作った曲に対して、適切な効果を作れているかって点については疑問の余地がある。

 → まあ、そこそこ無難に人が聞いても違和感ない程度には作れるけど。

④ ソフトウェアの使い方は覚えているし、そこそこ完成度の高いトラックを作る事はできても、本人の音楽的な技能が低すぎて、自分が作ったトラックや演奏に対して、どうにも歌がショボすぎて、とかで、バランスの良い作品として感じられないというか、いささかつり合いが取れない。  

 → 歌の練習でもせい! って事になるんだが。

ここで重要なのは、その辺の言語化が全くできない素人の人からすると、これらは、全て『音楽が作れない』って一言でしか語れない。

つまり、自分が問題としているのは何で、何の技能が不足しているから、何の勉強をすればいいとか、自分で自分の事が説明できないのだから。当然、とんでもないプロレベルの人間を前にしても、効果的な質問をする事さえもできないということになる。

最初に書いたけど、別に録音なんかしなくてもいいし、自分が友達とライブハウスでライブやる、って事に限定してしまえば、演奏なんてのは、本人の向かう姿勢や活動ペースの事だけになるのであって、或いは練習したかしないか、って話だけになるし。そんなに難しくも無い曲なのだとしたら、そこまでギスギスに練習しなくても、自分たちが楽しむ程度の技能だけを身につければいい、ってだけの話でしかない。

けど、その事ですら、自力で言語化できない、って子たちも、正直「音楽教えてください!」ってやってくる立場の人間からすると・・・まず、どこから教えたもんだか、と悩むんですよ。正直。

以前、某ライブハウスの店長が言ってたのは。

「あなたは、最後は自分が何処の場所で、どんな形で演奏していると思いますか?それを具体的に答えられなかった人が、音楽の現場で生き残っていたのを、私が見た事が無いんです。例えば、500人のお客さんの前で、中規模のどこのライブハウスで、ワンマンやってるクラスなのかとかでもいいんですけど。」

ああ、そうですねぇ。例え、有名になろうがなるまいが、例えば、自分が街角のライブハウスで観客100人を前に、本当に自分の作った曲と、それを愛する人たちの前で、細々とでも演奏を続けているだけでいい、って思っている人なのだとしたら、それで、本人の夢はかなっている訳で。世の中の事などどうでもいい、って形でも活動は続いていくものである。本人が病気しただの、死んだとかでもない限り、何かしらの形で音楽と携わる事はやめないのだから、現場には生き残っていることになる。

それでも「具体的で、地に足の着いた夢」なのだけど。

哀しいかな、音楽を志しても、その事を言語化できるようになるまでには、少なくとも3年位は必要になるのかもしれないね。その3年すらも「コスパが悪い」って人には、確かに音楽は向いていないのかもしれない。

だって、音楽なんて、本当に何かを形にするとなったら、様々な情報と技能を集積させた「総合芸術」なのであって。今は、それに電気技術やパソコンのソフトウェアスキルまで必要とされる場合がある。本当に一人で勉強して、全部一人で出来るようになるまでなど、どんなに頑張ったって、自分の時間も能力も足りないものだ。

・・・言語化できない弊害、ってのは、そういう問題をもたらす。

で、子供の頃から、普通に自分の生活の中で、自分の考えを言語化したり、具体化できるスキルのある子は、自分で考えて自分で行動できちゃうわけで、いちいち、そんな事を人に聞きに来たりはしない。普通に仕事できる能力があるのなら、具体化はたやすい話ばかりなのだけど。

アートの現場にくる子ってのは、どうにもこうにも、具体化ができないというか。おかしな抽象化で物事を安易に理解しようという子が多くて。

君は、もっと漠然と自分だけで向かえるアートに向かっている方が良かったのかもしれないね。音楽ってイメージを具体化していく作業の方が多いんだもの。それはとてもソフトウェアのプログラミングによく似ている・・・。


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