ココナッツ香るホタテマッシュルームカレー 満を持してインドの赤ワイン②
近所のインドカレー屋さんで、シュリンプバターマサラ(1,320円)に加えてホタテマッシュルーム(1,265円)をテイクアウト。
ホタテマッシュルームは、ココナッツとトマトがカレーのベースになっている。ホタテの甘み(甘みの強いアミノ酸の一種グリシンが多く含まれる)はココナッツのそれに調和。また貝の含むどこか素朴な土のような香りはマッシュルームによく重なる。
カレーにホタテとマッシュルームを入れるという発想には至らなかった。が、一度体感すると、これほどまでに調和する組み合わせがあったかと強烈に印象に残る。
満を持してインドの赤ワイン2種をセラーから取り出した。いずれもインドワインを代表するスーラ・ヴィンヤーズのシラー品種のもので、スタンダードラインのものとフラグシップラインのもの。常夏のイメージがあるインドだが、西海岸沿いに標高約1,000~2,700mの山々が全長1,600kmに渡り連なり、山あいは気候が穏やかだ。ワイナリーが集中するナシックは富裕層の避暑地として発展したプネーにほど近い。インドの軽井沢でワインが造られていると考えれば分かりやすい。
インドワインに加えて、ギリシャのクシノマヴロ品種、イタリアのカラブリア州のガリオッポ品種、シチリア島のネレッロマスカレーゼ品種。赤ワインばかり5種をカレーに合わせた。
実食の結果、これまでの濃厚パワフル路線から上品エレガント路線に切り替えたスーラのラサ・シラーズ(フラグシップのワイン)との調和が素晴らしかった。風味の路線変更に加えてエチケットも、ラサはこれまでの髭の生えた太陽を刷新。ワインの甘いスパイス香と(過去比)穏やかな果実味が、カレーのココナッツに繋がりそのままホタテの旨味、甘みを包み込む。
だが、それ以上の相性を見せたのがギリシャの果実味の熟成感、潮のニュアンスに富むワインだった。
料理とそれぞれのワインの相性について。
スーラ・ヴィンヤーズ, シラーズ, インド, 13.5%, 2022, 2,166円
Sula Vineyards, Shiraz, India
スタンフォード大学を卒業後、シリコンバレーで働いていたラジーヴ・サマント氏が故郷のインドで1997年に設立したワイナリー。
なお、インドではオーストラリア式にシラー品種をシラーズと呼ぶ。
香りには完熟したプラム、野苺などの快活な果実香。黒胡椒の明瞭なスパイス香、茎のヴェジェタルなヒントも。金属や血液などの個性的なニュアンスも微かに。
味わいにはチャーミングな果実味、酸味はやや穏やかながらワインに的確な輪郭を与える。しっとりと舌が乾くタンニン。果実の風味以外のスパイスなどの野趣に富む香りは通好み。
ホタテマッシュルームカレーに。
ワインの力強い果実味とスパイス感がココナッツをやや圧倒。ケンカはないが調和や重なりが見つかりくい。相性: ★★★☆☆
スーラ・ヴィンヤーズ, ラサ・シラーズ, インド, 2020, 14%, 3,351円
Sula Vineyards, Rasa Shiraz, India
スーラといえばエチケットの髭の生えた太陽がアイコンだが、このビンテージからなのか、随分とこじゃれたものに変化している。
香りにはブルーベリージャム、カシスリキュールの濃密な果実香。バニラビーンズ、挽きたての黒胡椒が穏やかに。メントールの爽快な香りも。
味わいは過去から路線変更の軽快な凝縮感。明るくほのかにチャーミングさもある果実味、軽快な酸味。じっとりと舌に残るタンニンにはらしさを感じる。上品になり個性も抜けた。
ホタテマッシュルームカレーに。
ココナッツとマッシュルームにワインの樽香の甘いスパイス感が繋がり、続いてホタテの甘みにもゆるりと繋がる。相性: ★★★★☆
キリ・ヤーニ, カリ・リーザ, P.D.O.アミンデオン, マケドニア, ギリシャ, 2017, 2,860円
Kir-Yianni, Kali Riza, Greece
今回のワインは自根で育つ樹齢60年を超えるクシノマヴロから造られる。
ちなみにクシノマヴロはギリシャ語で「酸と黒」の意味を持つ、ギリシャ固有の品種。
香りにはドライフルーツ、プルーン、ブルーベリージャムの濃縮した甘やかな果実香に、ドライローズのフラワリーなタッチ。黒胡椒と茎か微かにヴェジェタルなスパイス。
よく溶け込んだバニラ香、海岸を歩いているような鼻に微かな渇きを覚える潮の香り。
味わいにはカドの取れた滑らかな口当たりの果実味ながら、タンニンはまだまだ力強くじっとりと舌に残る。塩味が強く舌に残るのが印象的。果実味の熟成感、潮のニュアンスに富む魅力的な海の国の赤ワイン。
ホタテマッシュルームカレーにワインを合わせる。
ワインの塩味がエビに活力を与えて旨みが際立ち、やや落ち着いたドライフルーツを含む果実味、軽快な熟成感はカレーのスパイスをふわりと包みつつ、マッシュルームの素朴な土っぽい香りに絶妙に調和。相性: ★★★★★
リブランディ, ドゥーカ サンフェリーチェ, チロ DOC, ロッソ リゼルヴァ, カラブリア, イタリア, 2,440円
Librandi, Duca Sanfelice, Ciro DOC, Riserva, Rosso Classico Superiore, Calabria, Italy, 2019, 14%
リブランディはティレニア海とイオニア海に挟まれたイタリア半島のつま先部分に位置するカラブリア州を代表するワイナリー。
古代ギリシャ、オリンピックの勝者に与えられたワインはガリオッポ品種から造られていたという説もある。そのガリオッポで造られたワイン。
香りには完熟したブラックチェリー、チェリーリキュールの凝縮感の強い果実香。微かに黒胡椒のスパイスのヒントやビターチョコレート。植物の茎のようなヴェジェタルなニュアンスや穏やかにハーバルなタッチも。ブドウの樹齢高く、穏やかで複雑な香り。
味わいの果実味の凝縮感は思いのほか軽やかで甲高く、鼻腔をスパイシーなノートが強く抜ける。明瞭な酸味、やや粗さのあるパワフルなタンニン。余韻にはビターなニュアンスやミネラルに富むが、ややシンプルで抑揚には欠けるか。
ホタテマッシュルームカレーに。
ワインの甲高い果実味とスパイシーなノートがカレーのスパイスに調和。ココナッツやホタテとのシナジーを引き出すには至らない。相性: ★★★☆☆
クズマーノ, アルタモーラ, エトナ ロッソ, シチリア, イタリア, 2019, 2,464円
Cusumano, Alta Mora, Etna Rosso DOC,
このワインはヨーロッパ最大の活火山であるエトナ山の北斜面の畑で栽培されたブドウから造られる。海と山のミネラルの恵みを感じたい。
香りにはよく熟したプラム、快活なベリー果実香、バラやラベンダーの微かにハーブや潮の香り。微かにスモーキーなニュアンスも。
味わいには完熟、充実の風味ながら抜け方は軽快で上品さすら感じる抑制された果実味。こぎみよいメリハリを与える酸味、ほのかに塩気。タンニンは穏やかで絶妙な抽出の塩梅。クリーンでフォーカスの合ったワイン。
ホタテマッシュルームカレーに。
ワインの明るい果実味にココナッツの香りが調和するも、ホタテの旨味をさらに引き出すには至らない。相性: ★★★☆☆
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