道尾秀介「N」を読んで
先日の謎解きから約1ヶ月、道尾秀介の「N」を読み終えた。
「N」はどの6つの章をどの順番で読んでも良い小説で、720通りの読み方がある。
私が読んだ順番だと、以下の構成で話が進んでいった。
(※以下、簡単なあらすじとふんだんな感想があります。
直接的な話の説明等はありませんが、各章ごとのつながりにかなり触れています。お気をつけください。)
はじめに、一番気になる書き出しだった①を読んでみる。英語を話せない英語教師という設定なので、少女の話が断片的にしか理解できないというのがミソで、多くの謎を残したまま読み終えることとなった。
率直に、この話を最後に読んでも感動するものなのか?という疑問が浮かんだ。
次に気になった書き出しだった②を読み、シンプルに短編ミステリーとしての完成度の高さに驚いた。
しかし、①との繋がりなどのシナジーを感じなかったためあくまで面白い「短編小説」として楽しんだ。
そこで②に出てきた苗字と同じ苗字を待つ人物が出てくる③を読んでみることにした。①とは打って変わりはっきりと②との繋がりが描かれ、②③の話の味わい方ががらりと変わった。
次に④を読むと、①と③との繋がりがあった。①の伏線がどんどん回収されていった上、③の出来事の端末を知ることができる。⑤⑥を読む時にはこの物語の全体像をなんとなく掴むことができつつ、毎回登場する新しい主人公の新鮮な物語を楽しむことができ、最後にはこれ以上無いのではないかという結末を迎えることが出来た。
仮に①を最後に読んでいたとしても、同じように自分の読み順がベストだったのではないかと思えていたかもしれない。
6つ全ての話の共通のテーマとして、人生の上でどうしても避けられない悲しみ、理不尽、苦しみ、怒りを持ち続けながら、それでも明るい希望も一緒に待って生きていくことのように感じた。
そういった生き方を待つ登場人物たちひとりひとりの人生に大きな背景がある。
他人を助けられた聖人のように思える人物も、過去には人を傷つけたりまた助けられたりしている。
人が見せるその人の”らしさ”というのはその瞬間のタイミングが生み出した偶然切り取りにすぎないのだ。
そしてそのタイミング同士の重なりあいがドラマを産み、また一つ人生の背景になっていくのだと思う。
どうしようもない現実と、それでもきらきらと光りかがやく希望を持つ、この力づよい物語をぜひ楽しんで欲しい。
もしかしたらあなたにとっては、
絶望の物語かもしれない。