消費を加速させるデザイン
こんにちは。
アーキテクチャーフォトの後藤です。
ちょっと前に、髭剃りを買い換えました。
ぼくは、電動式ではなく、カミソリ式の髭剃りを使っておりまして、10年前くらいから同じシリーズのものを使っていて、その持ち手につける専用のカミソリ刃を、何も考えず、劣化するたびに、継続的に買い続けていました。
(このように継続的に同一商品を買わせてしまう仕組みもすごいのですが、それはまた別の機会に、、。)
10年も使ってきているので、持ち手部分も多少悪くなってきていたので、思い切って新シリーズに買い替えることにしました(髭剃りも時代に合わせて刃の数が増えたり、機能性が上がったりとヴァージョンアップしていきます)。
買い替えるにあたって、特に色々と比較したわけではありません。
が、買い替えた髭剃りを使い始めて、その商品をまじまじと見てみると、タイトルに書いたような「消費を加速させるデザイン」が為されているなあと気づいたのです。
購入した商品の説明画像を引用します(https://www.schick-jp.com/razors/51)。下記です。
新機能として、①に書いている、ジェルがカミソリに取り付けられています。これ自体には、もちろん機能が説明されています。「40%摩擦軽減」と書いてありますので、肌に対し良い影響があるのでしょう。
こちらのページには書いていないのですが、実際のパッケージには、この付属のジェルは永続的なものではなく、使用しているうちに取れてなくなってしまうことが説明されています。そして、このジェルが無くなったことろが取り換え時期だとも書いてありました。
これを、読んで上手いなーと感じました。
私が今まで使っていたカミソリには、このようなジェルはついていませんでした。そのようなデザインでは、カミソリの取り換え時期というのは、使用者に委ねられます。私の場合、かなり切れ味が悪くなるまで使い続けてしまっていました。
そのような状態に対し、上で紹介したカミソリのデザインは、肌に優しいだけでなく、上手く取り換え時期を視覚化し、使用者に取り換えを促す、という役割も果たしているわけです。
もちろんすべての人がそのジェルが無くなったからと言ってすぐに付け替えることはないでしょう。しかし、カミソリのような大量生産品の場合、その何割かの人たちのカミソリの交換速度が速まるだけで、企業としての利益は大きく変わるはずです。
「消費を加速させるデザイン」が為されているのだなあと感じた瞬間でした。
もちろんですが、このような話は他にも多数の事例があります。インターネット上で閲覧できるものを探してみます。
●マヨネーズの口の形を変えることで消費を促進するエピソード
●歯磨きのCMで、大量に使うことで消費を促進する
このように、ちょっと探しただけでもエピソードを見つけることができます。色々な分野において「消費を加速させるデザイン」が為されているのです。
もちろん、そのような消費者の心理を操作して売り上げを上げようとするデザインに対する思想的な是非はあると思いますが、企業が生き残りをかけて構想していることに対し簡単に非難することはできません。
このように、実例をいくつか紹介してきて、建築分野でそのようなデザインは可能なのかな?と考えてしまいました。
少し、設計実務の状況を書いてみたいと思います。
建築の設計者にとって(特に住宅分野では)ひとりのクライアントから受注できる仕事は限りなく「1」に近いといえます。現代社会では何回も家を建てる人は稀でしょう。それはつまり、住宅を専門とする設計者は、常に新しいクライアントと出会い続けなければいけないということを意味しています。
私も住宅設計に従事していた際には、それは当然だと思っていました。
しかし、他業種の知人や友人たちと話していると、こちらの方が特殊だなと感じるようになりました。他業種の友人たちは、自身の仕事において「リピート」されることが利益につながるといいます。
一度、受注した商品を納品した後に、同じ商品が繰り返し売れていくことで、長期的な利益が見込めます。そしてそのような受注先がストックされればされるほど、会社全体の利益は増えていくはずです。
私は、いまだに答えは出ていませんが、建築設計という業種においても、一度設計して設計料をもらうだけでなく、何か継続的に収益を得られる仕組みが構築できないか、といつも考えています。それができれば、建築設計という仕事を続けることで、収益になるストックが増えていくと思っています。
もとの話に戻りましょう。
一般的に建築関連資材は、メンテナンスフリーということを目指して作られています。窯業系サイディングなどもそうですし、外壁にガルバリウム鋼板などを使用する場合にも、そのメンテナンス性がかわれて使用されていることが多いと思います。
建て主の多くが建物を建てた後にはメンテナンスをしたくないお金をかけたくないと宣言しているような印象です(もちろん否定的に書いているわけではなく現状認識としてそうなっているということです)。
例えば、もし、その感覚を変えることができたらどうなるのかなあと考えます。メンテナンスが必要だけれど、素晴らしい素材を理解してもらって建物に使用する。そして、その定期的なメンテナンスが設計者がかかわる継続的な仕事になり利益にもつながる。
そのような状況が実現できれば、設計者は建物を建て続ければ続けるほど、メンテナンスという仕事が増えていき、企業としても安定するのではないかと、、、。
自分で書いていても「消費を加速するデザイン」と話がずれてきてしまったことはわかりますが、消費財でなされていることが、建築分野に応用できるかどうかということは、建築をビジネスとして捉えた場合思考する価値があると思っています。
設計分野の施工費に対する%システムを決して悪いと言っているわけではありません。それによって、経験に関係なく設計者が設計料を貰いやすい状況は生まれています。しかし、このシステムでは、設計者は竣工時にしか利益を貰うことはできません。
何か新しい仕組みを構築することで、その状況を変えることができるのではないか、と思ったりします。
問題が大きすぎて答えはもちろん出ていませんが、引き続き考え続けていきたいと思います。
アーキテクチャーフォト後藤でした。
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