『「400億円」のスニーカーショップを作った男』の感想

以前も、言及した、著名スニーカーショップatmosの創業者本明氏による書籍を読みましたので少し、感想を書きたいと思ってPCに向かっています。

この本、スニーカーが好きでビジネス(商売)に興味がある人であれば、めっちゃ面白い本ではないかと思います。ぼくは両方好きなのでお勧めです。

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この本明氏、めちゃくちゃ商売のセンスがあるのですが、僕が共感したのは、最初、並行輸入で商売を始めて成功し、時代を経て、正規販売の権利を得て、更にatomosを成功させたという事です。時代の変化に合わせて、自身の商売を変化させ、(でもスニーカーを売るという核の部分は買えずに)、成功しているという事です。

並行輸入というのは、1995年のエアマックスブームの時代には、日本にあるスニーカーの総量が限られていたんですね。そこに目を付け、本明氏はアメリカを中心に買い付けを行い、日本国内に持ち込み、プレミア価格で販売するという事を始めたのです。やっぱりそこには、時代の要望があり、そこに応えようという姿勢があったんですね。

その後、全世界的にスニーカーが売れると分かり、日本と海外のリリースの差がなくなっていく。その流れの中で、ナイキ等との正規取引の扉を開き、正規販売に重心を移していくわけです。

オシムが提唱した「走りながら考える」の様に、常に日々の仕事からフィードバックを得て、改善していく氏の行動力が凄いし、そのエピソードの一端も多数掲載されていて、商売の参考になりますね。

読んでいて、共感してしまうのは、僕自身も、2000年前後のネット黎明期に情報の発信を初めてきて、最初は、ネット上にある記事をリンクする事や自分で見に行った写真を投稿することから始めて、時代の変化の中で、建築家の皆さんから直接資料を頂いて、作品を紹介する形式に変わっていったという事があったからですね。

時代の変化の中で、少しずつやるべきこと、求められることを見定めて、行動をブラッシュアップしていく。商売ってそういうものなんだなと改めて理解しました。

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スニーカーに詳しい人ならだれでも知っていると思うのですが、現在は、リセールが一般化した時代。stock xやスニダンという二次流通の専門アプリがあり、そこで需要と供給の関係で販売価格とは異なる、市場価格が生まれ、スニーカーが投機の対象にすらなっています。

その状況を、並行輸入(いわゆる転売)でビジネスを始めた、本明氏は、「一億総チャプター時代(チャプターというのは、並行輸入ビジネス時代の屋号)」と書いていて(こういう状況だから、atomsでの正規販売に主軸が映ったという事もわかるのですが)、この社会の変化に対するスタンスの変化にも共感しました。

というのも、今、SNS上では、誰もが自身のアカウントで、建築情報をリンクしたり、訪問した写真を投稿するのが当たり前になっていて、その数は無数にあります。これって、本明氏が分析するように、僕から見ると、初期アーキテクチャーフォトが行っていた内容なんですよね。つまり、今は「一億、初期アーキテクチャーフォト」と言える状況になっている。

そんな環境に変わっていくなかで、アーキテクチャーフォトが、建築家の方と連絡を取り、発表の場として機能しているのですが、これと、チャプター→atmosの動きが重なって見えたのでした。

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最後の方では、atmosがただ売るだけではなくて、スニーカー文化を醸造して、人々と深くつながることで、そのビジネスを深めていこうという話が掛かれているのですが、これはアーキテクチャーフォトでも是非やってみたいことだと思いました。

掲載くださる建築家の方には、密にコミュニケーションをとって感想等のやり取りを欠かさず行っているのですが、今後は読者の皆さんともコミュニケーションする場を作りたいなと思いました。

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あと、強く思うのは、当たり前なのですけど、建築家界隈の外、一般のビジネスの世界というのは、売れるという事が正義なんですよね。本明氏の話の中にも売り上げや利益の話が躊躇なく出てくる。

ぼくはこういう話も好きなのですが、同時に建築教育を受けてきた人間である自負もあるので、どんな手段を使ってでも稼ごういうスタンスにはどうしてもなり切れないなと思っています。

ビジネスアイデアみたいなものは常にいくつも浮かんでいるのですが、メディアとしての中立性や在るべき姿、業界への貢献という、ある種の倫理観を考えると、どうしても踏み切れないのですね。

設計者と発表者(媒体)の線引き、メディアとしての中立性と個々の建築家の皆さんとの関わり方。この辺りに関し、倫理観をもって常に活動している自負があります。

ビジネスという観点で考えれば、倫理観なんて一銭にもなりませんし、むしろ恨まれるほうがお金を稼げることが多々ある(海外のプラットフォームサービス何てほぼ全部そうではないでしょうか)。

でも、その倫理観を信用して連絡をくれる建築家の方がたくさんいる事も、実感しているんです。なので、その感覚を大事にしながら、今後もアーキテクチャーフォトが生き残れる方法を考え続けたいと思っています。

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最後に書籍のリンクも貼っておきますので、是非、、、!

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