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【何でも公表する】事が、優しさとは限らない話について


はじめに

たん‐がん〔‐グワン〕【嘆願/×歎願】の解説
[名](スル)事情を詳しく述べて熱心に頼むこと。懇願。「釈放を—する」

出典:デジタル大辞泉(小学館)

東京女子プロレスをいつも応援いただきありがとうございます。
突然のご報告となりますが、所属選手の乃蒼ヒカリが、このたび東京女子プロレスを卒業、退団したことをお知らせ致します。

乃蒼ヒカリは昨年の12月から活動を休止しておりますが、本人からの申し出もあり、今後のことも含め話し合った結果、このような結論に至りました。

活動再開をお待ちいただいていた皆様には、その思いに応えられなかったことをお詫び申し上げます。また、本人からのファンの皆様へのご挨拶やコメント等はございません。こちらも何卒、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

私たちは乃蒼ヒカリが次の人生に向かい、進んでいくことを心より願っております。

日ごろより応援してくださっているファンのみなさまには、ご迷惑、またご心配をおかけすることになり誠に申し訳ございませんが、今後とも東京女子プロレスの、よりいっそうの応援、お力添えをいただきますようお願い致します。

乃蒼ヒカリに関するお知らせ | DDTプロレスリング公式サイト (ddtpro.com)


先日、東京女子プロレスの乃蒼ヒカリ退団のニュースが発表された。

2023年12月から欠場に入っており、2024年2月には一身上の都合で当面の活動休止が発表されていたものの、本人の挨拶も無いまま退団という形の幕切れとなった。



このリリースがなされる前の2024.5.14に、あるファンの方が、東京女子プロレスの甲田哲也代表と、乃蒼ヒカリが所属していた事務所社長の2人に宛てる形で、嘆願書のようなツイートを投稿した。
この嘆願ツイートは現在削除済だが、今回私が行う指摘で切り取り批判するのも本質がズレそうなので、嘆願の内容を原文ママで文字起こししてみました。


東京女子プロレス代表 甲田哲也様
YU-Mエンターテインメント株式会社代表 山田昌治様

いつも楽しく東京女子プロレスを拝見させていただいております。
(中略)
早いもので2024年もGWが過ぎもうすぐ6月に入り今年も折り返し地点が見えてまいりました。
さて、今回このような形でポストさせていただきますのは現在欠場中の乃蒼ヒカリ選手のことにつきまして一ファンの思いをお伝えしたいがためであります。

2023年12月17日の『TJPW CITY CIRCUIT'23~春日部公演~』を最後に乃蒼ヒカリ選手は欠場に入られました。
そして31日の甲田代表と角田奈穂選手の会見にて、乃蒼ヒカリ選手の翌年の1.4後楽園ホール大会と1.6新宿FACE大会が体調不良により欠場することが発表されタッグベルトが返上されました。
また合わせて復帰時期がはっきりわからないということもアナウンスされました。
最後に公式から欠場に関する情報が発表されましたのは2024年2月16日「一身上の都合により、当面の活動を休止とさせていただきます」というもので以降は何も発表されておりません。

ですが、3ヶ月もの間一切の情報が得られないとなるとファンは困惑してしまいます。
確かにファンに伝えられない情報もあることは理解しておりますが適宜適切な情報が得られなかった結末、根も葉もないうわさや不快な憶測がまん延してしまっていることも事実であります。
これは選手の尊厳を著しく貶め、また復帰を遠のかせる原因になりはしないでしょうか?
当初は心配して回復を願い重大なお知らせがあると聞いて一喜一憂していても時間の経過とともに諦めや関心が薄れていってしまうことは無理もないと思います。
結果として残るのは真実から程遠いうわさ話と憶測だけです。
ましてや今回新しく発売されたパンフレットから記載されていないとなると尚の事、心中穏やかではいられません。

それでも待っているファンは確実に存在しているのです。
いつもSNSで励ましの言葉を投げかけ写真を UPし復帰を待ち望んでいるファンがいます。その待っているファンのためにも可能な限りの現状をお伝えいただくことはできませんでしょうか?

私は東京女子プロレスという団体は「成長」が実感できる団体だと思っています。
それは選手だけに限らず団体やファンもそこに集う全員が成長できると思っています。
2013年にたった3人で始めた団体がいまや30人もの選手を抱えるまでになりました。
いろいろな悩みを抱えてたどり着いた団体でやがて花咲き輝く選手もいます。
そして悩みながらも毎試合強くなっていく選手を見て励まされ自分を奮起させようとするファンがいます。

東京女子プロレスという団体がこの10年いつも順風満帆で運営されていたことはないと思います。
トラブルやミスもあったでしょう。それでも諸問題を抱えつつもそれでもどうにか解決し運営してこられた。
それは団体としての成長であり強さの証ではないでしょうか?
だからこそ今回の乃蒼ヒカリ選手の長期欠場に関する諸問題につきましてもどうか円満に解決することを願っております。

本来であればDMなりメールなりで公にすべきではなかったかもしれませんし、もしかしたら他のファンからすれば余計なことをして、とお叱りを受けるかもしれません。
ですがそれでも一ファンの思いを伝えたかったですし他のファンがどのように思っているかも知りたかったためでもありこのような形をとらせていただきました。

ファンが望むものはただただ選手の笑顔とリング上で一生懸命頑張る姿を見ることだけであります。

代表としての舵取りが大変重責なのは承知しておりますが何卒安心してファンが一途に応援できるようご尽力いただけますことを切に願います。
これからも東京女子プロレス、アップアップガールズ(プロレス)が更に輝けますよう祈念しております。

長文失礼いたしました。


この一ファンの嘆願を見て1週間近くが経ち、退団という形で決着を見た今でも、自身違和感とモヤモヤが拭えずにいる。
何なら怒りすら覚えている。



今回の記事を書く上で、並べておきたい自分のスタンスは以下の通りだ。

①退団発表は、恐らく時間の問題だった。
(いずれ公表されないといけない話ではあった。)

②今回の退団が、嘆願の有無で左右された可能性は多分低い。


今回の嘆願の有無によって退団という判断が覆る状況は、正直言うと考えづらかったと思う。


でも、今の私にはどうしても言いたい事がある。
だから、今回もこうしてnoteを書いている。幾つかの怒りとやるせなさを滲ませながら。


結論から言おう。

慎重にならなければいけない事案を、ファンが衆目に晒して問い詰めたところで、一体どうなると言うんだ?


【詳細の明かされない体調不良】だからこそ

私が今回の一ファンによる嘆願を支持出来ない一番の理由は、【詳細の明かされない体調不良】の真実を、衆目に触れるよう嘆願という形で知ろうとしていた所だ。


過去に別の団体で、そのような体調不良のパターンを何度か見ているけれど、そういう場合は言いたくても何かしらの理由があって発表できない事案に使われてるのかなあと。

不安を煽るつもりは一切無いけど、誤解を恐れずに言ってしまえば、【詳細の明かされない体調不良】って色々な暫定的措置に使われがちなフレーズだと私は感じている。

大体の場合は本当に体調不良で後から病名も判明することもあるけれど、極端な事例を挙げれば、過去に「覚醒剤を使って逮捕された」とか「傷害沙汰を起こして逮捕された」ケースでも、当日の試合を急遽欠場する理由に【体調不良】が用いられている事もあった。


その他にも、精神的な部分とかプライバシーの関係上、公表に慎重を要するケースに用いられてるのも見たことがある。

数年前、ある女子団体で年間最大のビッグマッチ直前に所属選手の欠場が発表された時、「決まってる試合を飛ばすのは何事だ」と指摘していたファンの方がいたが、後に欠場した選手は精神疾患に罹っていた事が明らかになっている。

また、別の男子団体でも、体調不良で長期欠場していた選手が後に精神疾患に罹っていた事を公表していて、その際も団体側が慎重に慎重を期す形で徐々にセコンド業務に復帰させながらも、選手が復帰戦を終えるまで病名を公表しなかったケースもある。


今回の件の真実なんて私も知らないけれど、そういう【体調不良】の真実が、後者のように選手個人のプライバシーに触れる可能性は有り得る訳で。

公表に慎重を要する事案の可能性が捨てきれない以上、徒に外野が触れたりつついたりして良いのだろうか、と私は思うのです。


その点で考えると、団体代表や事務所社長のSNSアカウントに通知が行くようにして、ハッシュタグも付けて衆目に触れるよう本件の嘆願を募った一ファンの行動は、あまりにも乱暴だったと言わざるを得ない。

ファンの総意を代弁していたのかもしれないけど、その総意や支持を取り付けて、関係者に通知も行くよう逃げられない状態にしてまで、それは貴方の知りたい情報だったのですか?

真実は分からないけど、これが仮に「本人が精神疾患に罹っていました」なんて話だったら、嘆願主は責任取れるんですか?

そう考えた時に、ファンの善意が暴力的な意味合いに変化する怖さみたいなものも、私は感じたのだ。


「選手の笑顔のため」に起こしたアクションが、選手を守る運営に圧力をかけて場所を失くす矛盾…。


【何でもすぐ公表する】事が優しさとは限らない

公表しないと生まれてしまう憶測は避けられない一方で、何でも公表する事が優しさとは限らないんじゃないだろうか?

そんな事を考えさせられた出来事が、2022年頃にあった。

某女子団体で選手が自殺を仄めかす投稿をした後にアカウントを消して、それを見たファンの方がすぐさま代表や選手にSOSを出した事がある。

幸い、それを見た同僚の選手が当該選手の元にかけつけて無事を報告したことにより、最悪の結末は回避できた。


ただ、ここで問題だったのが、数日後に出された団体側のリリース文である。
この件に関して、当人が自殺を仄めかす投稿に至った背景や、抱えている悩みに至る理由まで、リリース文に包み隠さず載せられていたのだ。

この文章を見た時に、私は思わず目を疑った。
いくら外野が理由や情報を欲していたとしても、それに乗じて隠さなければいけない箇所まで、選手を守るべき団体側が選手のプライバシーも無く書いてしまう。
これが果たして良い判断と言えるのだろうか?



東京女子プロレスは、そのようなリリースについては逐次出してくれる団体だ。
大抵の団体は、所属以外のレギュラー参戦選手の場合、参戦が終了する情報をリリースしてくれる事はあまり見かけない。
でも、東京女子プロレスの場合、レギュラー参戦選手の参戦が終了する際には必ずリリースしていて、ファンが選手に感謝を伝えられる場を設ける事が多い印象を受ける。

そんな、丁寧なリリースをしている団体でもハッキリ理由を公表出来ない事案があった。
この時点で相当な事だと私は察したし、団体が放置していたとかでは無いと私は思う。


前述した団体のお粗末さは極端な事例なのかもしれませんが、東京女子プロレスの場合、団体が当該選手にとって不利益になる情報の公表に慎重を期していたとは言えないだろうか?

ましてや、「一身上の都合により、当面の活動を休止とさせていただきます。」と公式はリリースしてる訳で。

その発表から3ヶ月後に一切情報が得られない事を嘆願主は不安に感じていたと文章で吐露していた訳ですけれど、だとしたら尚更「一身上の都合で休んでいる事情を無理矢理詮索する必要、果たしてありましたか?」と私は思うのだ。

例えば、職場に休職中の人がいた時に、その人の休職理由をデリカシー無く他の人に聞いてるようなもんじゃないかな、これ。


選手の尊厳を貶めているのは、何処の誰なんでしょうね?
その詮索が怖いよ、ハッキリ言って。



まとめ

「ファンは、待つことしか出来ない生き物だ」と私は思う。

「不平不満を言わないのがファン」とは思わないけど、結局、好きな対象が居なければファンは存在し得ない。

冒頭の嘆願の中にも「ファンが望むものはただただ選手の笑顔とリング上で一生懸命頑張る姿を見ることだけであります。」とあるように、基本的にファンは対象を見ることしかできないし、応援しかできない。
例え、ファンの中で「公演全通します!」とか「スポンサーになります!」みたいな主体的行動があったとしても。


今回の嘆願に関する批判をした際に、「本物のファンじゃないと言われるのは心外です」みたいな反論も見かけたけれど、その基準がどうかなんて私には分からないし、それに今回私が怒ってるのはそこじゃない。

彼女の防波堤になっている事務所や代表に向け、直接嘆願する形で衆目に触れる中での決断を迫った正義が、間接的に彼女に圧力をかけていませんでしたか?

当該選手ファーストで考える視点が、あの嘆願には欠けていませんでしたか?
だから、「嘆願主は、本当に彼女の事が好きなのだろうか?」という疑念が私の中に浮かんでしまったのです。


「みんなの意見を代弁してくれたんだ!」とか「ありがとうございます!」と嘆願主を褒め称える意見も出たけれど、あの嘆願で何が変わったの?
まあ、後々予定されていたであろう、彼女の今後に関するリリースは早まったんだろうね。
アイドル事務所のリリース文で明記された退所日は、嘆願のあった日(2024.5.14)の翌日にあたる5.15付だったのだから。


でも、嘆願を正当化して、彼女の処遇の決定に圧力をかける行為に加担した人達が、何食わぬ風にして「元気でね」と言ってる事にも私は違和感を禁じ得なくて。

ヘッダー画像から彼女の画像を外す様をわざわざ上げてるアカウントを見た時とか、本件を批判する私のツイートに「噂の新団体に上がるんですかね?」、「発表にスッキリした」みたいな事を言ってきたアカウントを見て私は思ったよ。

「貴方、結局のところ彼女じゃなくて、【彼女を気遣う自分】が好きなだけなんでしょ?【彼女が好きな自分】に酔ってるんでしょ?」って。

彼女が好きと言いつつ、そんなドライな事を平気で言えてしまうのはどうして?

選手の笑顔のためなら、どうして選手個人の【一身上の都合】まで明かすよう迫ったの?


ホントに好きじゃないからとしか私には思えないよ。嘆願のやり方とか含めてさ。


総意を盾にした一ファンの暴走によって、パンドラの箱を開けてしまった虚しさだけが私の心に残りましたとさ。


だからこそ、【一身上の都合】に対して外野が運営に直接問うてしまう行為そのものが、実は結構危なっかしいんじゃないかと私は感じたのです。


衆目に触れる形で書きながら、「次の道でも頑張ってください」なんて彼女に平気で言えるメンタリティ…。

で、嘆願が終わってバイバイが済めば、発端の嘆願ツイートは削除…。


何なんだよ、マジで。


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