"逆転の発想"で、人は変われる~2022.9.28『後藤恵介vs土方隆司』~
はじめに
「お前は身体がだらしない」
「痩せろ」
そんな言葉を、関係者から再三浴びせられたプロレスラーがいる。
彼の名は、後藤恵介。
2016年10月、女子プロレス団体・WAVEで初の男子レスラーとしてデビューした後藤。
デビューして、しばらく経った頃だろうか?
社長から、試合合間に挟まれるインフォメーションコーナーや試合後のリングで、こんなことを言われるようになっていた。
「身体がだらしない」
当時、私は毎月1回のペースでWAVEを観戦していたが、こんな指摘を会場で定期的に聞いた覚えがある。
肉体改造に着手するため、石黒淳士レフェリーが後藤をサポートするよう社長から命を受けた事もあったが、芳しい成果は得られなかった…。
『もっと太れ。そしてお客さんをもっとワクワクさせろ。』
「痩せろ」と指摘され続ける後藤だったが、1人だけ、彼に違う意見を提示した人物がいる。
後藤とのシングルマッチをキッカケに接点が生まれた、新井健一郎(以下:アラケン)である。
観戦当時、後藤への「痩せろ」という周囲の指摘に対して、私はどこか違和感を拭えずにいただけに、アラケンの指摘は斬新に感じた。
(私は正直、痩せるよりも、試合数を増やして安定感を増す事が必要だと思っていた)
その後、WAVEの体制が変わる2018.12.31をもって、後藤はWAVEを退団…。
次に私が後藤の試合を見たのは、2020年2月の事。
元ガッツワールドのガッツ石島やマスクドミステリーを中心に開催していた、『真GUTS軍』(※)による自主興行だった。
※プロレスリングTTTの前進
後藤の雰囲気は、退団前に比べて変化していた。
体重を以前より増やして、コスチュームも黒のショートパンツからツーショルダータイプにチェンジ。
髪型もオールバックに変えた事で、WAVE時代の彼に感じていた"ひ弱さ"は、外面から消え去っていた。
アラケンの言っていたことは正しかったのかもしれない、と私は思った。
『後藤恵介vs土方隆司』
私が次に後藤の試合を見たのは、約2年半後の2022年9月だった。
9.28、浅草花やしき内にあるホール・浅草花劇場で行われた『Growth9』。
GPSプロモーションが主催する同興行のメインイベントに、後藤は抜擢された。
2020年2月から約2年半で、後藤は別人の如く変化を遂げていた。
体重は100kgを超え、髭を蓄える事で増した存在感。
右腕から放たれる、強烈なチョップ。
土方の首をロックする、太い腕。
土方の強烈な蹴りにも、引くどころか、もっと蹴るように反応する積極性。
元々、WAVE時代からエルボーだったりセントーンだったり、光るものを持っていた後藤だったが、前述のアラケンの言葉を借りるなら、今の彼は「客をワクワクさせる」領域に近づいていたのである。
試合中盤から、土方の表情に笑顔が見えるようになった。
それは、土方の"余裕"から来るものではなく、"自らが求めていた相手を発見してしまった時の喜び"のような、どこかゾクゾクしたものを私は見ていて感じたのである。
後半は土方ペースのまま試合が動いていくも、巨体を活かした攻めで反撃する後藤。
回避されたものの、ダイビングセントーンが投下された時の破壊音は、観客のどよめきを誘い出した。
しかし最後は、体重差を跳ね除けた土方が貫録の勝利。
試合後、マイクを握る土方…。
土方の表情は、最後まで充実感に満ち溢れていた。
まとめ
後藤恵介というレスラーの姿を見て私が感じたのは、【人それぞれ、合うスタイルやチョイスは異なるし、方法論も1つではない】という事実だった。
人がファッションや髪型、メイクなどで印象もガラッと変化するように、後藤もまた、自らに合致するスタイルをモノにしていたのである。
正直、後藤がここまで化けるとは、私自身予想できなかった。
私は退団後の試合を追えていなかったので、後藤の化けるキッカケがどこにあったのか気になっているほどだ。
ただ、少なくとも私が言えるのは、「痩せろ」と関係者から責め立てられる環境にいたままだったら、今の後藤の姿は見られなかったと思う。
体型もファイトスタイルも、人それぞれ異なる。
例えば、冒頭で新井健一郎が名前を挙げている竹田光珠は、身体に影が出来るくらいバッキバキな身体がカッコいい。
ただ、後藤の身体がバッキバキになったとして、絶対的に良い選手になっていたかと言われると、必ずしもイコールにならなかった気もしている。
それは、ダイビングセントーンを武器にするファイトスタイルの違いもあったから。
勿論、その逆もしかり。
スタイルやタイプが違っても魅力的な選手はいるので、教える側の好みを一方的に押し付けるだけでは、伸びるものも伸びないんじゃないか…?
後藤恵介を見ていて、ふと、そんなことを考えさせられた。
そういう苦節を乗り越えた今の彼には、客をワクワクさせる魅力がある。
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