見出し画像

まっすぐなうた~原田大輔の引退に寄せて~

はじめに

「半年経って、回復の兆しというものがなくなり、ドクターストップという形で引退を決断しました。」


プロレスリング・ノアのJr.ヘビー級戦線を牽引してきた原田大輔による、突然の現役引退発表。


正直なところ、2022年8月以降の長期欠場から今年は復帰してくれると思っていただけに、突然リリースされた【引退】の2文字が未だ信じられずにいる。


大きな話題をもたらした『ジュニア夢の祭典』の翌日に発表された、ノアJr.エースの引退という現実も、より寂寥感を募らせる。
本来あのような興行に、ノア代表として試合をしてほしかった選手だったから。

彼の存在無くして、今のノアJr.は有り得ない。
誤解を恐れず言うならば、今のノアJr.は原田大輔と共にあった。


安定と信頼の原田ブランド

私が原田大輔という選手を語る上で外せないのは、誰が相手でも、安定感のある試合内容を残す点だ。

華やかなハイフライヤータイプから、タダスケのようなパワータイプ、小川良成のようなテクニシャンまで、相手の土俵を選ばず適応するオールラウンダーっぷりは、【原田ここにあり】という絶対的な安心感をJr.戦線にもたらしてくれた。


中でも私が印象に残っているのは、田中稔との対戦だった。


G+で視聴していても、テレビ越しに衝撃の伝わる激闘を展開した、2017年12月の後楽園ホール大会。
LIDETエンターテインメント体制としては初の大会となった、2019年3月の横浜文化体育館大会。

どちらも原田がGHC Jrヘビー級王者として田中を迎え撃った一戦だったが、内容は素晴らしく、私にとっては小峠篤司や小川良成と残した好勝負以上に、記憶に残っている試合だ。


ノアJr.を繋ぎ留め、再興に奮起した功労者

原田大輔は、今のノアJr.を語る上で絶対に外せない功労者の一人だ。

2013年のノア入団後、丸藤正道やKENTAがいた時代と比較される事も少なくなく、離脱者も出ていた当時のノアJr.において、系譜を繋ぎ、護り、再興に尽力した。
在籍約10年でGHC Jr.ヘビー級王座は歴代2位の5回、GHC Jr.タッグ王座は小峠篤司との『桃の青春』で最多戴冠回数(4回)を記録するなど、名実ともにノアJr.の顔となった。


どんなに周囲が「(丸藤・KENTAがいた頃に比べて)今のノアJr.は面白くない」、「原田は生え抜きじゃない」なんて言ってこようとも、そのような意見にNOと返し切れる私がいたのは、間違いなく原田大輔の存在が大きかった。

この言葉は、小峠篤司、拳王、大原はじめといった、キツい時期のノアに入団して支えてくれた選手達にも言えるのだけれども、中でも、先頭に立ってノアJr.を牽引した原田に対しては、より強い思いになってしまう。


先述した田中稔との横浜文体決戦に際しても、「Jr.の試合が一番にしたい」と述べていたり、『ジュニア夢の祭典』が開催される前より、常々Jr.の発展を掲げる姿は、まさにノアJr.の大黒柱だったと思う。


2017年に、タッグパートナーである小峠篤司が、原田と保持していたGHC Jr.タッグ王座を返上してヘビー級に転向した事があった。

原田はJr.ヘビーに残って勝負を続けていたのだが、2019年に小峠がJr.ヘビー級再転向を果たし、双方再び交わる機会が訪れた。
(2019.8.4 ノア後楽園ホール大会)

その際、小峠に対して怒りを顕にした原田の姿を、私は忘れることが出来ない。
今振り返ってみても、原田の怒りはノアのJr.ヘビー戦線を牽引した責任と自負の現れだった気がしてならないのである。


2022年には、ノアJr.の新ブランド・『N-Innovation』を発足。
発足から僅か4ヶ月後には、Jr.ヘビーのみの大会を両国国技館で開催した。


この両国挑戦に関しては、当時は無謀と言われ、内容と結果に対する批判や厳しい指摘も見られた。
(私も、正直無謀だと思っていた一人である。)


だけど、その両国における反省を活かすようにして、原田を始めとしたノアJr.正規軍は【毎週TwitterでJr.選手によるスペース開催】、【大会後の選手チケット即売会】など、Jr.選手主導で発信を増やした。
いつしか選手の熱量は、周囲へと波及していった。


その甲斐あってか、両国後初開催となった6月の『N-Innovation』新宿大会は、直前のカード変更に見舞われながら、Jr.単独開催で前売完売という結果を成し遂げたのである。


その後も9月、12月と同会場を拠点に開催された『N-Innovation』は、いつしか他団体やフリーランスを巻き込みながらも、Jr.だけでストーリーを回せる所まで成長したのだ。


そんな2年目以降のブランドの飛躍に期待していただけに、大黒柱・原田の引退は非常に惜しまれる。
でも、苦しい時期にノアに来て支えてくれた原田がいなければ、ノアJr.という存在は絶えて廃れていた事だろう。

この取り組みや信念が継承されることを、私は願ってやまない。


まとめ

今回の引退発表を通じて感じたのは、原田大輔という人の真っ直ぐさだった。

肌を交えた相手も含め、原田の引退に惜別の言葉を寄せるレスラーや関係者を見て、原田の人望を窺い知ることが出来た。


同業者が泣くくらい、引退を惜しまれるレスラーはそういない。


今回の引退発表で金丸義信の持っているGHC Jr.ヘビー級王座の最多戴冠記録更新(7回)が叶わなくなり、在籍10年で単独2位の5度戴冠した原田と、その原田でさえ超えられなかった金丸の両者に凄みを感じた。
大黒柱の喪失感は計り知れない。


復帰して、AMAKUSAや凱旋帰国後の宮脇純太と絡む未来も見たかった。


原田の実直なマイクは、時に面白みがないと指摘されることもあった。
でも、そんな真っ直ぐな姿勢が、数々の外敵との対比を鮮明にし、人の胸を打ち、ノアJr.に面白みを感じさせてくれたのも事実だ。

原田の真っ直ぐさは、周囲に影響を与え、人に届いていたのだと私は思う。


そんな原田の現役最後となるエキシビジョンマッチの相手は、小峠篤司。


最大のパートナーであり、別の道を歩んだ時期や、敵対し合った時期を乗り越え、ノアJr.正規軍として再び行動を共にした両者。


本人の強い希望と医療チームの許可によって行われる、1分間のエキシビジョンマッチ。


3.9の引退試合は、現地でもABEMAでも、多くの人に見届けてもらえたらいいな、と願っています。
お時間のある方は、後楽園ホールで、配信で、その雄姿を目に焼きつけましょう!!!


この記事が参加している募集

#すごい選手がいるんです

2,716件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?