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入り江を包み込む"星のや沖縄 バンタカフェ"

数年ぶりに沖縄本島を訪れ、読谷村にある日航アラビアに宿泊した。到着して一番驚いたのは、隣の敷地に長い城壁のようなものが存在していたことだ。これこそ「星のや沖縄」だ。
読谷村は、空港からさほど遠くなく、さとうきび畑が広がる長閑な街であり、海岸線は自然のままに残り何と言っても砂浜ご美しい。
星野リゾートが沖縄本島に初上陸するのにふさわしい場所だ。
「星のや沖縄」は2019年に竣工。建築設計は、東環境建築研究所の東利恵氏、ランドスケープはオンサイト計画設計事務所の長谷川氏、照明計画はICEの武石氏という星野リゾート施設の常連、スーパーコンソーシアムが手掛ける。
宿泊棟は海岸線に沿って細長く配置され、その南端にカフェとレストランが配されている。
私たち3世代にとって宿泊は恐れ多いが、せめてカフェでも、という思いで訪れた。
一言で言うと"期待を裏切らない空間体験"だ。建物が自然をなるべく邪魔しないように存在している。星野リゾート好き、建築好きだけでなく、リゾート地沖縄でのんびり静かに過ごしたい、という人々の欲求が見事に満たされることだろう。

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カフェアプローチ外観

これまでの星野リゾート施設でも例を見ない、海と直結したロケーション。この立地を生かした空間体験のデザインとは‥。

1.ドラマティックなシークエンス

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カフェ入り口
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デッキ手前のスロープ
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大屋根デッキ

カフェの入り口も幾重にも重なる石垣により構成され、その奥に大きな屋根がかかった門型の建造物が存在感を放つ。外側から内部が全くうかがい知れないのは星野リゾートでもいくつかの建物で見られる。利用者のプライバシーを守り、そこでしかできない体験を大切にしている。
その先に何があるんだろう、と石垣の間をクネクネと歩かされると、大屋根の麓まで辿り着く。そこでも入り口は壁で受けて、2層の壁の間を進むような動線。進んで行くと細いスロープの先にピンクのミニマルな椅子が数脚見える。そして次に視界が開けていくような予感を感じさせる光が降り注ぐ。そこまで進んでいくと大屋根の真下に位置する大屋根デッキにたどり着く。そこから見える景色に言葉を失う。大屋根鼻先と地平線が気持ち良く平行に並ぶ絶景が目の前に飛び込んでくる。
ストイックに無機質に、それまでのアプローチが絞られていた分、一気に広がるシークエンスのメリハリがすごい。この場所ならではのワクワク体験だ。

2.絶景と自然を味わい尽くす

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大屋根デッキからの眺め
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ごろごろラウンジ
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海岸テラス

バンタカフェの名前は、沖縄の方言で魚の影を見つけるために登る崖や大きな岩を「イユミーバンタ(魚を見る崖)」と呼び、海に面したイユミーバンタの上に立つことに由来している。
この入り江と崖の関係性を利用し、このカフェでは様々な空間で、くつろぎ自然を体感することができる。大きく大屋根デッキ、海辺のテラス、岩場のテラス、ごろごろラウンジの4つのエリアで構成されている。
ごろごろラウンジは室内でデイベッドのような家具が配され、その名の通り雨の日でもとにかくごろごろできる。
ポツポツと崖の中腹に点在する屋外座敷は、海辺のテラスだ。緑が生い茂っていることから視覚的にも周囲から遮られ、間近に砂浜や海を見渡すことができる。崖の上にある大屋根デッキからのダイナミックな眺めとはまた異なる、風や音を近くに感じられる場所だ。
いずれの空間もそこにある絶景や自然が見事に調理され、美味しく味わえるようになっている。

3.地形に寄り添う配棟構成

カフェ鳥瞰


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入り江からの眺め
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入り江からの外観
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海岸線もテラスへの階段

ランドスケープの長谷川氏は星のや沖縄全体を「もしも海岸沿いにグスク(琉球時代の城)があったならば」という思想でデザインをしていったそうだ。
街から見るとRC壁や石垣で覆われていて、内部は全て海に対して開いている。建物の高さは極力抑えられ、地形に溶け込むように棟が連なっている。それでいてなるべく絶景を堪能できるように、大屋根は平面的にも海方向へ台形に開き、垂直方向にも屋根が長く伸びている。空に浮かぶ鋭角の屋根は、琉球時代の城の形状とは異なるが、どこか崇高な雰囲気を醸し出している。
入り江側から見上げるとその様子がよく分かる。しかし全体的にはテラスやラウンジ、レストラン部分が既存の緑に見え隠れしていて、元の美しい景観をなるべく尊重した構成になっている。


多くの自然と共存しながら宿泊施設を作り、人々に感動体験を与えてきた星野リゾートだからこそ、沖縄でも自然とうまく融合した場を創出し、そこでしか味わえない体感価値を提供できているのだろう。

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