見出し画像

都市に解放するCGのようなファサード"OMA 天神ビジネスセンター"

学生時代から建築家のレム・コールハースが好きだった。関連する本を読みあさり、ニューヨークマンハッタンの都市の成り立ちについて鋭い切り口で論じた「錯乱のニューヨーク」は伝説の名著であり、何度も読み返した。
レム・コールハースはオランダ出身の建築家、都市計画家、建築設計事務所のOMAを主宰する。
世界中でプロジェクトを手掛け、シアトル中央図書館や中国のCCTVビルなどが有名だ。最近ではPRADAのショーも手掛ける。
なので大分前にテレビで見てOMAのニューヨーク事務所の代表を務めていたのが日本人であることも知っていた。その重松象平氏が故郷の福岡のプロジェクトに携わるということで完成前から期待を寄せていた。
「天神ビジネスセンター」はアジアのビジネス拠点としての発展を見据えた再開発「天神ビッグバン」の先駆的なプロジェクトだ。デザインアーキテクトをOMA,インテリアをグエナエル・ニコラ氏率いるキュリオシティ、基本設計を日本設計が手掛けている。


1.不安定で都市に解き放たれた足元部分

外観
エントランス
外観
夜景※OMAWEBサイトより

OMAとしては日本初のオフィスビルとなる。建築的制約が多い日本と都市部において、どこまで彼らの持ち味が出せるかやや懐疑的だったが、完成した建物を見るとやっぱりやってくれた。
福岡のビジネスや商業の中心部天神にあって、メインの明治通りと因幡町通りが交差する場所に位置する。その角は建物の外壁面がピクセル化され、内側に掘り込まれてある。
コンパクトな都市福岡では人通りが多いものの、一般的にオフィスビルは通りに対して閉ざしているものが多い。そこで足元に人を引き込む公共の場づくりとオフィスの内部活動を明らかにすることを意図し、この掘り込みのデザインがなされている。
OMAの建築は、都市を読み解いた上での表現が自由で既成概念から解放されている。一見するとCGかのような非合理的で繊細なフォルムが多い。今回もコーナーの足元は構造上壁や柱があるのが自然だが、それがなく不安定な印象を与える。
足元の空地はピロティ状にすることも考えられるが、内部の吹抜けな地下まで光を届けるために、3次元のガラスのピクセルが並べられている。普通に作ったらこのピクセル部の鉄骨がかなりゴツくなりそうだが、日本設計による技術的なサポートにより限りなく細くできている。
足元に公共の場を設けるというよくある都市の読み解きを、最新の技術と画像の加工などで馴染みのあるピクセルをモチーフとした意匠によって、奇抜にならずにスマートで圧倒的存在感をもたらすファサードとなった。

2.外観と呼応、近未来的で上質な空間

吹抜けのエントランス
ガラスの立方体

インテリアを手掛けるグエナエル・ニコラ氏は今やGINZA SIXなど巨匠と言われる建築家のデザインに応えられるインテリアデザイナーとして信頼が厚い。
今回もエントランス部のインテリアは前述の通り、通りに露わになる、というかファサードの一部となる重要な役割となる。
彼らがデザインする上で発想の原点となったのは、このビルが世界的企業やベンチャー、これからのスタートアップ企業を迎えることを期待される存在であることだった。そのためデジタルテクノロジーの未来が感じられ、働く人々の創造性を刺激するような空間となっている。
地下鉄に直結する地下部まで大胆にくり抜かれた吹き抜けの壁面はブロンズカラーのメタルメッシュで覆われている。その吹抜けにヌルッとブルーのピクセルが表出している。照明効果もあり、外部から見た時も建物を象徴するアイコンになっている。
彼らのインテリアはいつもユニークで品があり時代性を上手く反映させたデザインだ。

3.番外、建築と緑が融合した先駆的建物

福岡アクロス
階段上の緑化
緑化内の歩行路

ちなみにビジネスセンターのすぐ近くにあって福岡のオフィスビルとして長く認知されてきたのは、この「福岡アクロス」だろう。ここ十数年建物の基準階にも緑化を取り入れるケースは増えたが、この建物が1995年にあったというからすごい。
自然と調和した環境建築として教科書ではよく紹介される。表通りからは普通のビルに見えるが、公園に面した側は建物が階段状にセットバックしていて、そこには大掛かりな緑化が施されている。かつて写真で見た時はそのセットバックが目視できたが、現在では緑が成長しすぎて面的な森になっている。30年近くもそのコンセプトを維持してきた管理者に脱帽だ。

この記事が参加している募集

この街がすき

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?