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出会い方が違ったら。

出会い方が違ったら。何度思ったことだろう。
社会人1年目、4つ上の先輩はお兄ちゃんみたいな存在だった。長女で甘えるのが苦手だった私に、何かあったらおれにだけは言いなね、と私のことをすぐ理解してくれていつも欲しい言葉をくれる人だった。

彼と初めてちゃんと話した日から彼に奥さんと子供がいるのは知っていた。だからそういう対象には見ていなかった。けれどお互い一線を越えたら瞬く間に溺れていった。そもそも最初に会った時から波長が合って仲良くなる予感はお互い感じていたし、おのおの寂しさややるせなさを感じていた絶好のタイミングだったんだと思う。

週2.3開催される会社の飲み会にはお互い必ずいて、飲み会後はみんなとバイバイした後、五反田で待ち合わせ、いつものホテルで一晩を過ごした。会いたいといえばその日に飲みにいってくれるし、帰り道の電話も出てくれる。本当に結婚しているのか実感が湧かず、ダメだと頭ではわかってても、お互い求めあってしまっている渦中からは抜け出せなかった。

ある日の飲み会の帰り道、彼の弱音を聞いた。離婚するには保険おろすくらいお金必要だから、ふと自殺とかよぎるんだよねなんて呟いていた。現実を突きつけられた。お互い好きだけでは越えられない社会の制約がそこにあった。昨日はごめんどうかしてたわ忘れて、彼の弱音を聞いたのはその時が最初で最後だった。けれど人にめったに弱音を吐くことなんてない人がわたしにだけ話してくれたことがわたしにとってはとても大きかった。この人を支えてあげたいと、そばにいて笑顔にしたいと思わずにはいられなかった。

1年前のできちゃった婚、私がこの人と1年前に出会っていたら、この未来は変わっていたのかな。おれら結婚したら毎日こんなになっちゃって大変だね、なんてふざけて話してくるたびに、何度も結婚を想像した。お互いフリーで出会っていたら、彼の田町の寮に入り浸って同棲して結婚してたんだろうな。そして仲の良い会社の先輩たちに囲まれて、いちゃいちゃすんなよなんて言われながら、結婚式をあげるんだろうな。

そんな彼とは2年の関係を経て、自分からけじめをつけた。これ以上未来がない人との時間に自分の時間を割くのはもったいないとやっと踏ん切りがつき、自分の気持ちに嘘をついて号泣しながら別れを告げた。それから半年、久しぶりに彼の家に遊びにいった。そこには命名◯月◯日生まれと書かれた紙。先週2人目生まれちゃったんだよね、彼はまた自分の意思ではないかのように話す。でも結局そちらの未来を選んで進めてゆくんだね。

出会い方が違ったら。うまくいっていたのだろうか。渦中にいた時はずっとそうだと思っていた。けど今思うのは、いやきっと違う。私は奥さんと子供がいるあなたを好きになった。禁断の恋という状況がさらに2人の熱を加速させたのも事実だ。

もし出会い方が違ったらこんなに惹かれあうことはなかったのかもしれない。その人との関係性の行く末はもしかしたら出会い方で決まるのかもしれない。


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