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食いしん坊のルーツ

私の食いしん坊は小さな頃からで、これは根っからの遺伝である。
父方の祖父母は正月には庭で餅をつき、親戚が来れば庭でバーベキュー、かつお節はいつも家で削っていたし、クリスマスには七面鳥に本格的な詰め物をして焼いていた。
母方の祖母も食べることが大好きなので実に4分の3が食いしん坊。歩き始めるのはとても遅い子どもだったが、ストローは早々と当然のように使いこなしたらしい。
母方の祖父母は今に至るまで常に身近な存在で、私はこの二人に育てられたと言っても過言ではない。一方、父方の祖父母と最後に会ったのは、正確には思い出せないが小学生の頃か。だが、最近になって気づく。私のルーツの半分は確かにあそこにあるのだと。

実家を出て少し経って、ぬか漬けを始めた。実家で当たり前のように食べていた漬け物が恋しくなったからだ。ぬか床を混ぜ、石鹸で手を洗い、タオルで拭いたとき、どこかで嗅いだことのある香りがした。父方の祖母の台所の香りだった。
一瞬にして古い記憶が甦り、「そうか、あの不思議な香りはぬかと石鹸の混ざった香りだったのか。」と気づいた。祖父母の家には勝手口があり、出てすぐのところに立派なぬか床があったのだ。そういえば、祖父は洋酒ばかり飲んでいたが、常にぬか漬けを食べていたし、当時からぬか漬けをおいしいと食べる子どもらしからぬ私を見て喜んでいた気がする。

今日、今年初めてのきゅうりを漬けて食べた。祖母のぬか漬けの味と香りをふっと思い出した。ここ10年くらいよく食べていた母のぬか漬けではなく、20年以上食べていない祖母のぬか漬けを。
祖母は数年前に他界したらしい。晩年は痴呆が入っていたとも聞いた。直接会っていないためか、未だに実感が湧かない。私が知っているのは、ぬかと石鹸の香りをさせ、常に台所に立っている食いしん坊の祖母だけ。
同時に、私の中に祖母がいるのを感じることがある。ふと現れる記憶の中だけではなく、味覚を中心とした私の感覚の中にも確かにいる。だから、きっと私は知らず知らずのうちにあの香りと味を追い求めていくことになるのだろう。

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