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魂の退社、自分もできるかな?

この本を手にとった理由

 とある独立系の書店(チェーンではない個人経営のもの)に表紙が見える形で陳列されていて、本の下部についた帯が目に留まりました。

50歳、夫なし、子なしで、無職になった。

『魂の退社』(幻冬舎文庫)の帯

 著者の稲垣えみ子さんの境遇を記したこの一文、自分は(まだ)無職ではないのですが、会社を辞めるとしたら境遇としては近いんだろうなと直感的に本書を手にとっていました。なんとなく転職とか退職とか考えているけど、具体的にイメージしたことがなかったので「何歳になるかはわからないけど、独り身で無職になったらどうなるんだろう?」とページを繰ってみました。

親近感と共感

 すると、著者の稲垣さん(業界ではアフロえみ子と呼ばれているそう)の経歴、人生への視点に「近い」と「わかる」と感じることが多く、一気に読み終えてしまいました。

 稲垣さんは留年とか留学などもなく、会社に入り、相当な時間を会社に割いてきました。でもはたと立ち止まって、このままずっと会社に居続ける…でいいんだっけ?と思い始める。このあたりの境遇は(勝手に)親近感がわいてきます。

 もともと散財癖があった稲垣さんですが、香川に転勤となり、破格の安さで提供されるうどんの消費量が全国1位、そしてじつは貯蓄額も全国1位のうどん&貯蓄県に身を置き、「金銭感覚」が変わっていきます。ファッション、エンタメ…など東京のようにお金を使う先がそこまでなく、お金を使わない生活をしていくうちに、お金を使いたいと思わなくなっていくーー。

 自分は散在癖はない(と思っている)のですが、お金はあればあるだけ使うという気持ちはわかります。そして、なければないで、それなりの生活ができるのではとも思っています。「お金は手段」と考えているので、稲垣さんがたどり着いた「お金への認識」は共感します。そして、そういった感覚を持つ会社員が、会社というものをお金を給付する対象としてドライに見ていき、会社に依存しなくなっていくというのも自然な流れ。この「企業ー個人」間の関係性の変化も、「そういえば、自分もこうやって会社への帰属意識がどんどん薄くなったのかな」と思わされるものでした。

会社を辞めるんだから、不満くらいあるだろう

 解説は書評などで活躍している(という説明だけでは足りないくらいいろいろやられている)武田砂鉄さん。武田さんも出版社を辞めた経験のある方で、SNSなどにあふれる「退職のご報告」について、こう鋭く指摘しています。

 その手の文章を読みながら、「で? で? 何が不満だったの?」と疑いの眼差しを向ける。そこは語らない。つい、舌打ちが出る。武田の少ない交友関係で調査したところ、会社を辞めた人がなぜ辞めたか、「現状への不満」と「未来への希望」の割合は「4:6」くらいが平均値である。

『魂の退社』解説より

 た、たしかに、X(Twitter)やFacebookで記された退職報告は前向きな言葉が並ぶ。でも根本的なことを言えば、不満がなければ辞めないだろう、ということになる。武田さんは本書について、理想的な割合の「5:5」で書かれていて、不満の「5」についてもしっかり触れられている、と評価しています。

 辞めていく職場への不満は、得てして個人的な体験で、人によっては単なる愚痴のように感じるかもしれない。ただ、武田さんの指摘によって、それも本書としてはとても大事な要素で、「だから会社を辞めたんだよね」と思える構成になっているんだなと気付かされました。それがないと、表面的でその人が見えなくて面白くない。本書はその「5:5」によって、自分と勤務先の会社への関係を考えたい人も、稲垣えみ子さんの生き方が気になる人にも発見のある文章に、そして人生を考えるにあたって参考例として指針にしたい一冊になっていると思いました。会社をやめようと少しでも思ったことある人におすすめです。





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