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にじさんじで学んでみる、1からの経営学ー流行を超えたエンタメ経済圏のための文献・概念まとめ(ver1.1)🌈


某所で偶然知り合った、國學院大學の尾田基先生が、経営学の初心者向けの本のブックリストを作成されていた。今回は、その本や関連する記事の中から、現状のにじさんじをみる時に、使えそうな概念や本をピックアップしてみた。またその前段階として、いちから株式会社の方のプロフィールや考え方を知ることが出来る記事をまとめた。

(※あくまでリアル世界での勉強のための、一個人の備忘録です。情報が雑然としているのは、おゆるしください。またnoteの仕様上、どうしてもこの真下の部分の表示がAndroidでは壊れてしまうようです。)

MISSION                ーー魔法のような、新体験を。
VALUE          Being Considerate  思いやりで、向き合う。                                 Integrity 素直に語る、誠実に動く。                                                              Take the Extra Step  もう一歩に、こだわる。
近い将来、人々の生き方や働き方が大きく変わり、
よりクリエイティブなものに時間を注ぐ時代がやってくる。
それは同時に、ユーザーとクリエイターの垣根がなくなる時代で、
消費と創作の新たなサイクルのもと、「エンタメ経済圏」が加速していくだろう                                    いちから株式会社HPより




いちから株式会社トップ陣のインタビュー

(なんか社長麻雀やってるんだけど)

Shinya Tsurui氏(取締役 最高財務責任者)

草なぎ 貴也氏(CTO、技術関係のトップ)


株式会社いちからによる、採用候補者向け会社紹介


・公式HPと、非公式wikiによる、所属バーチャルユーチューバーの紹介

いちからの会社運営情報(外部)

(海外については、実は情報を追うこともできなくはないのですが、量が甚大になってしまうので、ここにはこれだけ…)



いちから株式会社、特ににじさんじに関して読んでみて興味深かった点(本編ではないのでざっくり)

田角社長

意思決定スピードの重視

田角:
みんな、意思決定スピードが早いんだと思います。大体の遅い人って、何か理由があって時間掛かってる感じにしてますけど、意思決定遅い気がするんですよ。そういう人はいつも言い訳をしてて、「違うんっすよ◯◯が、、、」って(笑)。

・その一方で、危険性の高い部分に関しては、きちんとフィードバックを受ける。命中率を上げることを大事にする。

田角:エグゼキューションしたいけど、トライ数が増やせない(後戻りできないもの)はしっかりと情報収集や思考した後に命中率をあげるべきですね。逆に、エグゼキューションしたいけど、情報や確証性が少なく、命中率が低いものはトライ数を増やす仕組みを作り、徐々に命中率を上げる(仮説検証の蓋を開ける)これに限ると思います。

・昔は田舎でのマッチングサービスに参加(新規ユーザーのリピート率向上) (←この経験、そのうち新しい事業として出てきそう)


その他記事から興味深かった点

・にじさんじの大枠の事業戦略そのものは、王道の芸能事務所や音楽事務所に近い方式であること。(採用候補者向け資料p.23) ただし、様々な体験の潜在的ファン獲得の糸口に、ニコニコ動画からはじまる切り抜き文化やぷちさんじが組み込まれている。

・ライバーを「アニメキャラでもなく、タレントでもなく、YouTuberでもない」存在として明記していること(まだ、ライバーとはこうですとは断言しておらず、可能性を探っている印象を受ける)

ぼんやりとした感想(あくまで素人の感覚です)

気がかりなのは、田角社長もしっかり命中率を上げる施策を取ろうとしつつ、他業種(特にゲーム)との協業路線を貫いているため、流行に流され過ぎる可能性はある。BtoBのレベルでイノベーションのジレンマ(後述)に巻き込まれないかなあ…。


概念編

この章に出てくる概念は、主に以下の2冊から。





★キャズム

キャズムという言葉自体は「溝」という意味。

新しい概念や物を見る時人は

①イノベーター(革新者)②アーリーアダプター(初期採用者)③アーリーマジョリティ(前期追随者)④レイトマジョリティ(採用遅滞者)の五つの段階に分かれる。このうち、②と③の間に、超えるのが難しい溝(キャズム)が存在している。

②アーリーアダプターは技術に対して造形も深い、いわゆる「物好き」な人たちだが、③アーリーマジョリティは着実な成果が測定できる進歩を求める。③にリーチするためには、圧倒的な市場を持つ1番ピンに相当する市場を攻略し、隣のセグメントをせめる(ボーリングレーン)や、お客様の期待を満たしたうえで、商品の機能を拡張し、将来にかけて約束を果たしていく「ホールプロダクト」の構築が必要になる。

にじさんじの場合、BtoB1では今は1番ピン(ゲーム業界)との間柄は良好となった。しかし、これからSNSになじみのない世帯(働き盛りのお父さんお母さんとか)などにアプローチする際には、このキャズム(溝)が現れてくる可能性がある。


ユーザーイノベーション

特に無印良品が有名な、ユーザーが発案することにより生み出された商品。生活者・顧客の中にもイノベーションの能力が高い人材は存在するため、①企業側が市場の最先端にいる人(例えば一流アスリート)などにかけあう②「群衆(クラウド)」(ファンコミュニティなど)からアイデアを募集するクラウドソーシング法などがある。

これはもうにじさんじには言わずもがなな方法ではある。視聴者とともに、色んな企画をやっている。


★★★共感の力、センスメーキング←→集団の暴走

いわゆる「腹落ち」をさせる理論。必ず成功が確証できない状況であっても、みんなを「できる」と思わせる力。この話によく使われるのが、ピレネーの地図の逸話である。

スイスでの軍事機動演習の中、ハンガリー軍の小隊の若い中尉は、アルプス山脈で偵察隊を送り出した。その直後に雪が降り始めた。降雪は2日間続いた。その間、偵察隊は戻ってこなかった。                中尉は、部下を死地に追いやったのではないかと思い悩んだ。しかし3日目にその偵察隊は戻ってきた。彼らはどこに行っていたのか?どうやって道を見つけたのだろうか?彼らが言うには、「我々は道に迷ったとわかって、もうこれで終わりかと思いました。そのとき隊員の1人がポケットに地図を見つけました。我々は野営し、吹雪をやり過ごしました。それからその地図で帰り道を見つけ出しました。それでここに着いたわけです。       中尉は偵察隊の命の恩人となった地図を手に取ってじっくりと眺めた。驚いたことに、その地図はアルプスの地図ではなく、ピレネーの地図であった。(読書猿『問題解決大全』「ピレネーの地図」)

たとえ間違った地図であっても、分析が正しくない状態であっても、うまくいく時がある。ダメなプランであっても、ノープランよりましなのである。さらに、一度ダメなプランで始まったとしても、そこから現場の創造性を持って、どうにか対処ができるのである(ただしこれには、文脈が複雑化するなど功罪がある)。

田角社長が麻雀インタビューでひたすらに発破をかけて、周りの人を動かそうとしていた理由が分かる反面、これは初期のいちから株式会社の地獄を作り出したともいえる。まあ、ベンチャーならしゃーないけどね…

また、いちから株式会社はそうはならないと信じたいが、センスメーキングの力を極度に偏って使うと、いわゆるオウム真理教のような、カルト集団ができてしまう可能性も、いろいろな記事で指摘されていた。

(どこかでしっかり書きたいが、共感の他に「共通感覚(コモンセンス)」の力も重要である。共感覚(シナスタジア)とはまた違う意味がある。)


★デザインとアート

●デザイン 人が対象に求める要素をスマートにかたちにすることで課題解決する                               ●アート 人が対象に求める要素から自由になることで課題解決する                     中川功一『日常が学びに変わる!経営学の本』

商品を人に渡す時、それを渡す顧客だけではなく、それを取り巻く人々にとっても望ましい形を出す必要がある。

にじさんじの代表曲『Virtual to Live』のモチーフデザインを作った有馬トモユキ氏は、自著で見た目を作る前に、対象への理解を深め、「長く使えるもの」「(ただ単に要素を削るだけではない)シンプルなもの」「感覚より論理」と言った要素の重要性を、具体例を用いて説いている。

にじさんじのライバーの場合、ライバーさん側にも服をデザインされる方がいたり、サムネイルや「配信という経験のデザイン」をどうするかしっかり考えている人は多い。

轟京子さんは服飾のスペシャリスト

実は、プロレベルの編集技術を持つ本間ひまわりさん


個人的には、今必要とされるデザインは「新しい視聴スタイル」ではないかな、と私は感じる。特に、①ファンが煮詰まりすぎない形でにじさんじと関わり続ける方法(推しすぎて離れる人対策)②Vtuberにまったく興味のない人に「内輪ノリの集団」と思われない 二点をどうデザインするかがポイントになりそうだ。


★★価格の心理学、プロスペクト理論

ライザップは、価格設定を異常に高く(50万円)設定することによって、「高いものだからよいものだ」という心理効果(ヴェブレン効果)を発揮させることに成功した。いっぽうで ユニクロなどは業界の常識を破る低価格やカラーバリエーションで成功した。実は、珍しくひとりヴェブレン効果を活用されているライバーさんがいることはちょっと付記しておこう(誰とはいわない)。

ここで気になるのは、にじさんじの動画は基本的に無料(広告除く)でかなりの量を見れることである。一方でライバーの方々は「配信のプロだから」という形で、ある種のプロ意識を期待される。この、事務所所属だからこその「プロ意識への期待」の効果については、一度検討がいるだろう。ライブはともかく、スパチャからライバー側にプロ意識って発生するかな…?


また、情報やモノがあらゆるところに流通する(Iotという言葉もなじみ深くなった)社会では、100円のピザを1500円で売るような仕組み(利益を取る仕組み)が崩壊する可能性がある。これを限界費用ゼロ社会と呼ぶ。


★補完材

例えばゲーム機(Nintendo Swich)を買うと、それと同時にソフトも買わなければ、それはゲームとして使用できない。さらに、ソフトが売れれば、そのゲームを買いたい人はゲーム機を買うことに誘導されるだろう。

これはカミソリの刃を使い捨ての形で売ったアメリカの会社の名前を取って、ジレットモデルとも呼ばれる。

にじさんじでは、特にレノボなどパソコン系統の案件が多くなっている。これは当然ながらパソコンかスマホを持っていなければにじさんじには触れることすら出来ないという性質を狙っての案件の持っていきかたである。当たり前だが、にじさんじのライバーさんの教養に「パソコンの使い方」は入ってきそうである。ただし、こんな状態でにじさんじに入っちゃった長尾景くんもいたりする。


また、これも当たり前ではあるが、にじさんじはパソコンを使いこなせない、あるいは目が見えない人、耳が聞こえない人にはリーチがしにくいことも覚えておこう。何より多様性が大事と掲げている会社であるからこそ、障害を持たれた方やお年寄りへの対応が必要な時がくるだろうから



★フリーミアム

価格の心理学にも関係するジャンルである。しかも最近では、「無料から始めるのがこれからの流行りだ」という言い方だったのが、「無料から始めるのが当たり前だ」というような言い方に代わってきている。

スマートフォンアプリの多くは、最初は無料でダウンロードができる。その後に①広告による収益②課金による収益③関連グッズによる収益の三種類がある。(ほなこれ、そのままにじさんじちゃうか?

こうしたフリーミアムモデルの重要性は、ファンの特性をAIによって解析することだろう。実際にじさんじにもデータアナリストがいらしゃる。ただし、個人情報の保護の面で課題がある分野でもある。ライバー側もYouTubeアナリティクスを見ている。

(ただし、メリッサ・キンレンカさんや緑仙、ましろさん、鈴木勝くんのような複雑な性別の方もいらっしゃるので、このような二分割のアナリティクスが全てでもない)


アウトソーシング

仕事を担う人を様々な所から連れてくるアウトソーシング。

①自社のコア(資源と活動)を定める=同時に何を誰に頼るかの判断をする②自社でやる事業活動の費用、他社に委託する費用から、事業のコスト構造を見積もる                               ③最終的なチューニングとして、コストを下げて損益分岐点を改善し、利益の出やすいビジネスモデルとするべく、全体を調整する

斉藤和義や、ソロになった奥田民生といったアーティストは、外部からアーティストを呼ぶことによってあたらしい音楽を作り続けている。この他者との交流が新しい音作りの刺激になることもある。(ただ、二人とも「バンドがやりたかったなあ」と漏らすことも多いし、実際民生はユニコーンに戻ったりするのだが…)

おそらく、にじさんじの活動でアウトソーシングの重要性に気づいているのは緑仙である。アウトソーシングを的確に行うためには「自分の強みは何か?」を絶えず研究し、ある部分を「任せる」必要がある。緑仙は、映像編集や音楽制作、絵もフォトショもなんでもできる人である。しかし、ある時期から、他の信頼できるクリエイターの方に意識的に作業を渡しているように見える。


運営の目線で言えば、アウトソーシングを一番行っているのは視覚的表現にまつわる部分で、マネージャーや3D技術など自前で持つべき部分は譲り渡していない。ということは、マネジメントや2D、3D技術を自分たちの強みであり、コアであると認識しているのかもしれない。スタッフさんとライバーさんの雰囲気もよさそうだ。

ただし、アウトソーシングは個人事業主型のやり方であるので、いわゆるよくニュースになる派遣などの、労働問題もかかわってくることも気にしておかなくてはいけない。

ポーターの5要因分析

競合他社代替品新規参入買い手売り手

この五つの要素で会社の業績を見る、王道の分析ツールである。にじさんじは、ホロライブが競合他社…というには協力しているし、むしろテレビやAmebaTVなどの他メディアが競合他社になるのかなとは感じる。ただ、ちょっと今回、これを分析するための情報リソースがたりないため、この要因分析は紹介にとどめる。これから先も、会社分析に関する指標は出てくるが、あまり深くはつっこまない。


リソース・ベースド・ビュー(資源に基づいて会社を見る)

儲けが出るのは大事なことだ。しかし、儲けを出すことにかまけて、内部の競争力が落ちてしまうことになれば、将来的には終わり、である。コンサルティング会社のマッキンゼーは「7S」と呼ばれる分析ツールを作り出した。

戦略立案能力 会社が正しく判断できるような知性・頭脳は備わっているか?                                                     

組織デザイン  会社がきちんと動くための組織のかたちは整っているか?

会社のシステム 人事や経理といった会社の仕組みは整っているか?

会社の価値観 よい社風・価値観が浸透しているか?

人材の能力 会社によい人材が揃っているか?

会社の技術・技能 製品や生産の技術のみならず、マーケティングや組織管理まっで、さまざまな技能が充実しているか?

仕事の流儀 業務の仕方、社内慣行などが健全か?


こちらもいちから株式会社の内部情報まで知っているわけではないので、あれこれいうのは差し控える。ただし、組織デザインがかなり流動的な代わりに、意外に地理性に制限されそうである。(現状、3D技術研究所は地理的に動かせないだろうから)

また、ライバー目線でいえば、これに当てはめることで自分の仕事がどのような状態になるかの指標は持つことが出来るだろう。自分の「才能」をファンに差し出すことになるため、その才能を「資源」として見る見方も時にはありだ。(あんまりニュアンス的にも好きではないけど…)

SDT(Self-Detemination Theory:自己決定理論)←→やりがい搾取

現代において、上司となる人はただ部下を管理するだけではなく、「働き手が自発的に自分を動機付け、自分自身を発見するのを助ける役割」を持っている。人に決定させられるよりも、自分で決定する方が動機が強くなることは、心理学者のデシが「自己決定理論」という名前で呼んでいる。

人が働く動機付けは、基本的には「賃金」と「やりがい」の間で揺らいでいる。若者に夢を語り、やりがいを強調して長時間労働や不当に安い賃金で雇用する「やりがい搾取」は今も問題となっている。

ワイガヤ

これも非常に評価の割れる概念である。

自動車メーカーのホンダは、独特のミーティング方法を貫いてきた。これは、本間氏によれば「集団的な議論を重ね、物事の本質に深くアプローチし、結果として高い価値やイノベーションを生み出すための効果的なミーティング手法」である。

ざっくりいえば「課題やテーマを共有しながら、自由にざっくばらんに話し合い、深いところにある答えを探り出していく」方法であり、本間氏はこれを日本的な知性の一種ではないかと述べている。

本間氏:主観がその個人だけで形成された知性かというと、そうではありません。無人島で一人育った子どもに主観が形成されるかと言えば、無理でしょう。主観というのは、父母や学校の友達や尊敬する大人といった子どもをとりまく社会との交流の中から生まれるもので、それは「共主観」なのです。アインシュタインにしても、光を追いかける夢を見たことからあの独創的な相対性理論を生み出したといわれていますが、なぜそのような夢を見るに至ったのか。教授や他の共感する研究者達と交わした何かしらのやりとりが心にあったのでしょう。ホンダの伝統ある「ワイガヤ」という会議手法は、われわれ自身その理論に気づいていませんでしたが、このような集団的主観知性を育成してイノベーションを促す仕組みだといえます。

こう、経営的なカッコいい形ではないかもしれないが、にじさんじの魅力の一つは、みんなで集まってバカ騒ぎしてワイワイすることだったのは間違いない。にじさんじのSeedsは、そういう意味で滅茶苦茶な集団だったらしい

実は、前回紹介した元マクドナルド社マーケティング本部長の足立光氏も、最初は「楽しかった思い出しかない飲み会を繰り返した」と語っている。

そこから、少しずつ深い問いや事業に繋がる話が出てくればラッキーという構えもありかもしれない。

OKR(Objectives and Key Result)

GoogleやFaceBookが使う目標管理ツールである。

一般的には、ドラッカーの提唱したMBO(リーダーが目標の達成度合いで評価をする)や、KPI(組織と従業員の間で達成すべき仕事の目標数値を初期に定める)が使われてきた。しかしこの指標は「目の前の数値にばかり評価をしてしまい、顧客の喜びや社会課題解決といった重要な会社の理念を忘れてしまう」弱点があった。

そこでGoogleやFaceBookは、会社全体と個人の目標を結びつけることに注目したOKRという目標設定を始めた。


ポートフォリオ分析

また、会社は一見収支の上がっていない事業にたくさんの資金が投下されるようなことが起こる。すると、「経営陣はおかしい!」という声が上がることもあるが、これは失敗したとしても、そこの失敗が新しい糧になりえるという意味で、経営陣の判断は正しいともとれる。

おおまかには①自社の未来を支えていく「花形」②資源を投下して競争力を高めて花形にする「問題児」③安定的に利益が上がっている「金のなる木」④苦戦し、場合によっては撤退すべき「負け犬」の四分割で分析を行う。

ひとりだけ、「問題児」で思い出せるネコさんはいますが、負け犬という言い方をライバーさんにするわけにはいかないので、ここも省略。

★★★イノベーションのジレンマ


既存顧客のニーズを満たすために自社の製品やサービスの進歩に注力した結果、顧客が抱く別の需要に気付けず、異質の技術革新によって登場した新興企業に敗北する現象を指す。(リンクより)

これへの対策は二つ。

・関連技術のイノベーションだけではなく、それ以外のイノベーションを自ら起こす
・イノベーションを読み、先手を打つ

にじさんじの革新性は、「アニメキャラでもなく、YouTuberでもない」存在としてVirtual YouTuberの地位を確立したことだった。(BtoC)しかし、一方でBtoBの売り込み方(グッズ戦略やライブ)については、Vtuberの特殊性があるとはいえ、王道の芸能事務所やグッズ販売の手法を踏襲している。ここにうまくイノベーションを起こすことが出来れば、基盤が盤石になる…のかなあ…?

★エフェクチュエーション

経済学者サラス・サラスバシーは「エフェクチュエーション」という名前で、ベンチャー企業の成功者の考え方の違いを表した。大企業では経営達成のためにはどんなプランや経営資源が必要か逆算し、プランの確実な遂行を目指す。それに対してベンチャー企業の行動パターンはスタート地点から発想し、手元の経営資源、人脈などからどういった未来が描けるかを発送する

★経路依存性

「これまでもそうだった」という言葉で、今までのやり方をそのまま踏襲してしまう癖があることは、歴史や経済学が教えてくれるところである。しかも、この経路依存性は数学的にも証明されている(ポリアの壺)。

ある製品のあるタイプが長期にわたって顧客の人気を集めたとしても、それはただの偶然かもしれない。それでも、結果が予測不能だということを知っていれば、適切な行動をしやすくなる。4万台の黄色い軽トラックを作ってしまってから、経路依存性のある確率過程のために赤が新しく人気の色になったようだというのでは、フォードとしても困るだろう。不人気な色の在庫がはけなくなる可能性があるとすると、対策はふたつ考えられる。ひとつは、色の選択が最後になるようにサプライチェーンを組み立てるというものである。たとえば、衣料メーカーは、人気の色がはっきりするまでセーターに色を付けないようにすればよい。もうひとつは、顧客が色を選べないようにするという方法だ。 『多モデル思考』(p176)

ただし、経路依存性とは真逆の、結果を急激に変えるティッピングポイントという現象があるのは知られてもよい。例えば第一次世界大戦は、1914年、フランツ・フェルディナンド大公夫妻を殺害したところから、一気に戦火が拡散した。


アローの定理

個人の選択をすべて集計して、チーム全体の選択と一致させる方法は独裁制しかないということを証明した定理。

コンドルセの陪審定理

定理といっても難しくはない。ある問題について、答えの選択肢が二つしかなく、参加者が正しい答えを選ぶ確率が50%を超えている場合、参加者の数が多いほど正しい答えが導き出される確率が高くなる、というものだ。意識していなくても、多数決で物事を決める際の暗黙の了解事項だろう。(リンクより)


★ルーカス批判

政策をひとつ変えることは、将来の政策に関する人々の期待にも影響を与えてしまうため、人々の行動をも変えてしまうという法則。特に人々がいかにして政策活動に対する再帰的な「期待」を形成しているかは、経済学の一大テーマになった。

★構造的間隙

ネットワークの中で、有益な情報を効率的に得るためには「重複しないコンタクト」が必要となる。自社から複数のクラスター(グループ)にリンクが伸びている場合、そのリンクは出来る限り別々のクラスターにするべきだという

エントロピー

物事がいかに不確実性に満ちているかを測る指標。情報がどれだけ偏っているかを数値化し、経験的データ分類に使う。

ランダムウォーク

金融商品の値動きには規則性が無く、過去の変動とは一切関係ないとする仮説。今後の値動きを予測するうえで過去の値動きは参考にならず、過去の値動きの変動をパターン化することで投資判断材料にするテクニカル分析の有効性を否定している。現時点での株式市場には利用可能なすべての新たな情報が直ちに織り込まれており、株価の予測は不可能であるという学説の効率的市場仮説と密接に関連する。

★局所相互作用モデル

実世界の社会、物理システムの結果を説明したり予測するための数理モデル。これにより、「人々が局所的に調節して行動様式を統一すると、大域的には行動様式がまだらに模様にまちまちになってしまう」ことが説明される。局所的とは、「隣の人、影響力を受けやすい近くの人」と言い換えてよい。

(2021年4月11日追加)

★STP戦略

かなり詳細に顧客のタイプやニーズを分析するためのツール。YouTubeアルゴリズムと重ね合わせると強力になりえる。

★★AIDMAモデル

顧客が商品を知ってから実際に購入するまでの心理状態を「認知・注意→関心→欲求→記憶→行動」というフェーズごとに分析。認知した顧客が購買行動に移る割合をコンバージョン率、商品を購入した消費者が固定客になる割合をリテンション率という。



・書籍編

★★デヴィッド・S・エヴァンス 『最新プラットフォーム戦略 マッチメイカー』

「良いものを作れば売れる」は神話だ。現代のプラットフォーム戦略においては、「何をつくって売ろうか」だけではなく「どんな場を作ろうか」と考える発想の転換が必要になる。プラットフォームの本質はAしたい人とBしたい人を結びつける「マッチメイク」にある

しかし、プラットフォーム戦略は①出会うことの難しさ②ニワトリと卵問題(魅力的な店が多いから来店客が増えるのか、来店客が多いから魅力的な店が集まってくるのか)の二点を、資金が尽きる前に解決する必要がある。本書では特に「マルチサイドプラットフォーム」という新しい言葉で現在の状況を語った。ニュアンスとしては「多数のサイド(=グループ)にまとわりつかれたプラットフォーム」ということになる。

こうしたプラットフォームが成功するために必要な定義は以下の6つ与えられている。

フリクションの有無・程度

プラットフォームに呼び寄せたい二つの集団の交流を妨げる「摩擦」。これが大きければ大きいほど、逆にプラットフォームが成立したときの利益は大きくなる。

ニワトリとタマゴ問題

マルチサイドプラットフォームに人を集める時、「オーディエンスを先に集めるのか、クリエイターが先に集めるのか」がカギになる。これに関しては正解はないため、それぞれの創意工夫になる。

価格設定

プラットフォームに参加する人にどのようにビジネスを稼働させるための「お金」を出してもらうか。この負担方法は、あるグループが極端に負担し、あるグループが免除される、といった形になる。特に助成サイドが「無料」となるのがいわゆる「フリー戦略」、あるところから有料になるのが「フリーミアム戦略」である。

背後にあるエコシステムとの協調

プラットフォームに集まる様々なグループの複雑な関わり合い(田角社長の言ってたエコシステム(経済圏)?)についての配慮。

たとえば、スマートフォンが当たり前の今では信じられないことだが、それ以前のケータイの段階では、通信キャリアの意向が各種規格に反映され、たとえばソフトウェアデヴェロッパーは端末ごと、規格ごとに同一のソフトを開発しなければならず、その動作検証まで負担した。それではよほどの規模をもつ企業でない限り参入は難しい。AppleにしてもGoogleにしても、こうした開発者の障害を取り除くことで、スマートフォンを世界的に普及させることに成功することができた。             (リンクより)

顧客グループが集散する場の提供

リアルであれ、バーチャルであれ、ユーザーが集まる具体的な「場所」。集客性が高く、かつユーザー間の交流性が高まるように設計されている。ショッピングモールが代表例。

参加者どうしの交流への配慮

他の参加者に迷惑になるような行為ならびに、その行為者をいかに取り締まるか。

にじさんじ目線で言うと、おそらく①YouTubeというプラットフォームが考えている収益モデルの分析 にも使える本だが、もうひとつ②Virtual YouTuberの放送をプラットフォームとした利害関係の勉強にもなる本である。特に④のエコシステムは、いつの間にか金銭的に不利な立場に置かれていないか、確認する必要性を感じた。



★M.チクセントミハイ『楽しみの社会学ー不安と倦怠を超えて』

(原著は手に入らなかったため、こちらから…)

チクセントミハイ氏の研究領域は主に二つ。

①楽しさの研究(フロー理論)

フローとは物事に没入し、無我夢中でやることが出来ている状態。「じかんを 忘れるほど活動に極度に集中している」「環境と自分が一体化している」「行動を調節しながら次々に新たな状況に対応できている状態」を指す。

また、こうしたフローはグループでも達成できる。

チクセントミハイの弟子、キース・ソーヤーは、こうしたコラボレーションにおけるフローを「グループフロー」と呼び、その条件を10挙げています。1.適切な目標:明確だが、多様な解釈を生む自由度の高い目標
2.深い傾聴:自分が聴き取ったことに対して純粋に反応する
3.完全な集中:現在の活動とそれ意外の活動を切り離す境界線を引く
4.自主性:柔軟性を持ちながらも、自分がすべてを管理している感覚を持つ
5.エゴの融合:自分のエゴを抑え、グループ全員と協調する
6.全員が同等:すべての参加者が同等な役割を担う
7.適度な親密さ:惰性にならない程度の親密さを持ち、文化を共有する
8.不断のコミュニケーション:インフォーマルな会話を大切にする
9.先へ先へと進める:他人の意見を受け入れながら即興的に対応する
10.失敗のリスク:失敗へのリスクや恐怖感を推進力として利用する

②創造性の理論

創造性のシステムモデルでは、個人(individual)、領域(domain)、場(field)がかかわり合い、交差するところにおいてのみ、創造のプロセスが観察できると考えます。領域とは文化であり、音楽でいえば作曲の理論を指します。場とは社会であり、音楽でいえば音楽業界を指します。
作曲をする個人は、領域にアクセスして理論を学び、場にアクセスして市場の好みを学びます。そして領域と場から得た情報に、個人的背景を反映させながら創作を行い、オリジナルの曲をつくり出します。そして場における音楽の専門家たちの評価や判断によって、その曲は領域に新たに加わり、領域自体に変化が起こります。...このように、創造性を静的なものと考えずに、個人・領域・場の相互作用の中で、社会的に構築されるものとして捉えるのが、チクセントミハイの創造性のシステムモデルの考え方なのです。やや広いケタのモデルですが、創造性を捉える枠組みとして、有用な視点を与えてくれます。





★★スティーヴン ウィット『誰が音楽をタダにした?──巨大産業をぶっ潰した男たち』

ジェイ:インターネットが出始めた頃は、フリーが故に今までアクセスできなかった情報に手が届くようになったという魅力がありました。ただ、それが今になり、技術が発展しながらも、様々なしがらみや制限があり、フリーを最大限に活用した理想の形を実現するのは難しいということもわかってきた。さらに音楽の世界になると、「フリー」というものが誤解されやすくもある。配信は実はIT業界の中の話であって、音楽とはまた別軸の話です。だから、根本的な考え方や思想も異なりますし、必ずしも常に同じ方向を向いてるわけではない。
tofubeats:キュレーションってことですよね。DJのように、元々あるものを自分のフィルターで並べ直してユーザーに提供するやり方は、インターネット的だと思います。サブスクライブって、検索をしないと出てこない。自分がぶつかりたいアーティストが、スマホの一画面分しか出てこなくて、あとは検索履歴から自動的にサジェスティングしてくれる。中古CD屋で100円のCDを適当に買ってみるという楽しみ方が難しくて、そこが自分的には引っかかっている部分です。逆に、いきなりフランスのチャートを聴けるという面白さはあるんですけど。でも、そういう時にDJという存在が大事だと思います

にじさんじの基本的な配信などは、広告収入を別にすると無料でみることができる。しかし、「音楽」というカテゴリーだけでたまたまにじさんじに遭遇した人からすれば、『中古CD屋で100円のCDを適当に買ってみる』聞き方をどう発掘するのか、山下達郎や中島みゆきのように、サブスクにのせないことにより価値を高めるような方法(プレミアム感を出す戦略)をいかに出すかはこれからの課題になる。ITと音楽を今一度引き離して考える必要は、ある。

また、DJに関しては、鷹宮リオンさん他、電音部の方々が練習されている(?)とは聞いている。

ただ、それ以外にも歌ってみたの選曲は、DJと同じように「おっ、あなたこんな曲も知っているの?!」と思わせる効果があり、またその曲に新たな魅力を添えることになる。



★★ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?』

(田角社長の言葉を聞いたときに真っ先に思い出した本。)

★★東浩紀『弱いつながり 検索ワードを探す旅』

★★★クロード・スティール『ステレオタイプの科学——「社会の刷り込み」は成果にどう影響し、わたしたちは何ができるのか』


この三冊に対しては、あまりにも大事なので別記事を書く予定である。

(2021年4月11日追加)

★★水野祐『法のデザイン』

★福田 雅樹『AIがつなげる社会--AIネットワーク時代の法・政策』

(のちほど、リゼ様の記事で取り上げると思います)


まとめ

もうすでににじさんじ自体がYouTubeという、最新鋭の集金システム(スパチャやサポーター)に乗っかっているため、そこまでの目新しい話はなかった。ただし、補完材の話はにじさんじの「前提条件」であるパソコンの存在を確認してくれたように、その現在地を確認する指標に、使える学問だろう。

これらの話をすべてそのまま使ったり、レッテルを貼るというより、思いついたときに見返すようにしたい。

また、にじさんじの集金状況に関しては、私自身がライバーの環境や人件費などのデータを持っているわけではもちろんないので、なんとも言えない。

(参考)


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