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お気に入りの遊歩道は優しさで溢れている

運の良いことに、私は湖沿いの景色の良い遊歩道まで歩いて30秒もかからないところに住んでいる。

通勤に散歩はもちろん、旦那とケンカしてムシャクシャした時、昔はここに来てベンチに座り、湖の波の動きや太陽の光、水鳥が列をなして泳いだり飛び立つ姿を眺めては心を落ち着かせることもよくあった。

朝日や夜空の月や星、遠くに見える対岸の花火や雷、雨上がりの虹、ヨットやボートやカヤックにスタンドアップボードの往来、道沿いに並ぶ家の丁寧に手入れされた庭の草木花、クリスマスやハロウィンなどのデコレーション•••。

冬には凍った湖の表面から立ち上る湯気のような「けあらし」や樹氷などなど、いつ通っても違う表情を見せてくれて飽きることはない。

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この遊歩道は私のお気に入りで生活の一部。息子や孫達とも一緒に何度もここを散歩している。友人や親戚が訪ねてきてくれたら必ずと言っていいほどこの遊歩道を一緒に歩く。

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また、周辺には老人ホームがあり、よくご年配の方々ともすれ違うけど、みんなとても幸せそうで、多くの人が見ず知らずの私に笑顔で挨拶しながら通り過ぎて行く。

コロナでアジア人に対する差別や暴行がニュースで報道された頃、「私も外を歩いていたら心無い言葉を浴びせられるのでは•••?」と心配していた自分が恥ずかしくなるほど、この遊歩道ですれ違う人々は相変わらず優しい。

感染を防ぐために他人と距離を取らなくてはいけなくなり、幅の狭いこの遊歩道ですれ違う時に道を譲ると、「Thank you!」「How are you?」「Stay safe, stay healthy!」などと気遣ってくれて、「この人からからうつるかも•••」という疑いの目で避けられている感じは全くしない。

「アジア人は差別されるかも•••」と思っていた自分の方こそ、「アジア人以外の人々は私を差別するかもしれない」というように、アジア人以外の人々を差別的な目で見ていたのかもしれない、と反省。

そして、近くのハーバーへと続くこの道は地元の人々にも人気の散歩やジョギングコース。天気の良い夏の日は特に、早朝や深夜でも人の姿があり、湖に面して置かれたたくさんのベンチはどれも人々が座っていて空いてないこともよくある。

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そんなたくさんあるベンチの中にひとつ、松の木の木陰に置かれた変わったベンチがあった。

町が設置した他のベンチとはデザインが異なるそのベンチ。たぶん近所に住む人が設置したのだと思われ、誰でも書き込める分厚いノートとペンの入ったビニールポーチが置いてあったのだ。

中を見てみると、最初のページにはそのベンチとノートの持ち主であろう人の挨拶と、自由に書いてね、というメッセージ。それに続いて老若男女、様々な国出身の人々が英語や自分の国の言葉、絵などを思い思いにいろいろ書き込んでいた。

子供の可愛らしい文章や絵、地元の人々の地元愛、ベンチから見える風景や天候について、本格的な絵やただの落書き、信仰について、ポエム、等々どれも穏やかでポジティブなものばかり。

何を書けばいいのかわからなかったので、自分で書き込んだことはないけれど、絵が得意な息子や友人を連れてきて絵を描いてもらったこともある。

そうするうちに、結構短い期間でノートがいっぱいになり、2冊目、3冊目、とノートが次々と入れ替わっていった。

結局2、3年で5、6冊目まできた時にコロナのロックダウンが始まって、公共のベンチに座ることが禁止に。

------それからしばらくして気がついたら、いつの間にかいつもの場所にあるはずのそのベンチが跡形もなく消えていた•••!!

ベンチを設置した人が、誰かがそのベンチからコロナに感染しては大変だ、と思って撤去したのかなー、などと考えながらベンチのあった場所を通ったときに、こんなものを見つけた。

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私と同様、あのベンチが無くなってさみしい、と思っている人々がいることを知って何だかほっこり。

もしコロナ禍が終息したら、また前みたいにゆっくりあのベンチに座り、今度こそ自分で何か書き込んでみたい。だから、「どうかまた戻って来てね」、と願いながらそこを後にした。


コロナのせいで、世の中殺伐とした雰囲気のところもあるかもしれない。周りの人々を信じられなくて、不満で不安でしょうがない人もいるかもしれない。

でもね、こういう穏やかでお互いを思いやるこの遊歩道を通る度に思う。「大丈夫。この世界はそんなに悪いことばっかじゃない。周りの人々を信頼して、気遣い、自分の出来ることをやればいいんだ。」って。

あなたの周りもたくさんの優しさで溢れていますように•••! 💕

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