ピンチはチャンス!
「整形外科」というものにかかったのはおそらく小学生の時に酷い捻挫をした以来かもしれない。
それほど長年ご縁が無かった訳だが今回の「五十肩」が日常生活だけではなく仕事に差し障りが出てきたのでとりあえずレントゲンだけでも撮ってみましょうと神頼みというよりは興味本位で最寄りのクリニックを訪れた。
レントゲンの結果は思いもよらぬものだった。
先生は「うーん、こりゃあ酷い…」と頭を抱えながら写真を見せてくれたのだが綺麗な球形であるはずの骨頭の一部がえぐれてしまっている。「最近何か思い当たる事故などありませんでしたか?」と尋ねられるも何も思い当たらず、朧げな記憶を辿ると20代の頃によく亜脱臼を繰り返していたのを思い出しそれを告げると「あぁ、その時におそらく欠けたんでしょうね。見たところ肩関節は異常に緩いので今まではバンザイなどしても骨と骨が当たって痛みが出るということは無かったんでしょうけど、よくここまで無事で来れた事の方が奇跡です」と言われ、誇りに思って良いのか神妙になるべきなのか複雑な気分になる。
レントゲンだけでは診断名を確定出来ないしリハビリを行う際も神経や血管を痛めてしまう危険性を孕んでいるのでMRIを撮るように言い渡されその日は解放。患部に直接貼るのではなく血管が集中している胸・腹・腰・腕などに貼ると成分が全身に行き渡る湿布タイプの痛み止めを山ほど貰ってションボリと帰宅。
あ、そうそう、「四十肩」「五十肩」という病名は存在せず正しくは「肩関節周囲炎」というらしい。そんな豆知識を得れたことだけが心の救いだった。
MRIをまだ撮っていない段階でリハビリを開始せよと告げられ同じクリニック内に併設されているリハビリセンターの予約を翌日に取り、順序的におかしいのではないかという不満と杓子定規なやっつけトレーナーに当たってしまったらこちらの知識でコテンパンにしてやろうと変なアドレナリンが噴出し妙にウキウキとクリニックを再訪。
担当してくれることになったトレーナーさんは他の若いメンバーに比べて明らかにベテランだが一見頼りなさそうなオタク風情な男性。俄かに不信感が募る。「やんのか?テメー!」と心の中で拳を握る。
しかし、残念なことにリハビリ施設内で患者とトレーナーがエリを掴み合ってバチバチにやり合う状況にはならなかった。
問診に丁寧に時間を割いてくれて腕を動かして良い方向とダメな方向をミリ単位で見つけてくれて最後に一つだけ改善エクササイズを教示下さったのだが、これが抜群に効果を発揮してそれまでレベル10だった痛みがレベル2まで軽減。初対面で「やんのか?テメー!」と身構えていた自分が恥ずかしくこれからは薄っぺらい予備知識や第一印象だけで他人を判断するのは辞めようと奥歯を噛み締めながら帰宅した。
長い目で見ると、今後ウン十年指導の仕事を続けていくとしたら現時点で人工関節なりの手術を受けるのが賢明なのかもしれない。しかし、この制限の多い身体で実現し得る最大限の美しい動きを模索することを僕は選ぶことにした。だから欠けてしまった上腕骨の窪みも荒波に削られる岸壁のようでカッコいいと思えるし、辛いリハビリも可能性の塊としか思えないので愉しさしか感じない。
「タダじゃ転ばない」が心情の一つではあるがまたしても武勇伝が生まれつつある。